デジタルビジネスの競争が本格化する中、ニーズの変化に迅速に応える上で、DevOpsはもはや不可欠なアプローチとなっている。だが、新しいことに取り組みやすいスタートアップや新興企業とは異なり、既存事業、既存システムの上に立脚してきた一般的な企業がDevOpsに取り組む上では、さまざまなハードルがあるのが現実だ。では具体的に、一般的な企業がDevOpsを実践する上ではどのようなアプローチが考えられるのだろうか。本特集では、事例を通じて実践に向けた現実的なロードマップを探る。
コールセンター業務支援としてWatsonを導入した三井住友銀行、配車アプリを導入しUber追撃の姿勢を見せる日本交通、店舗に設置したセンサーからのデータを使って顧客行動を分析し収益向上に役立てているパルコなど、“テクノロジーの力を使ってビジネス価値を生み出す”デジタルトランスフォーメーションが国内でも急速に進展している。
特に昨今注目すべきは、こうした潮流に対応するプレイヤーとして、いわゆるスタートアップや新興企業、Webサービス系だけではなく、一般的な企業が目立ち始めたことだ。これはIoT、X-Techなどのデジタルビジネスの競争が本格化する中で、「ITは収益・ロイヤルティを獲得する攻めの手段」「ビジネス発想の企画力、ニーズの変化に対応するスピードが差別化の要件」といった認識を、多くの企業が抱くに至っている証左といえるだろう。
これを受けて、顧客接点となるITサービス開発に取り組み始めたり、開発・提供のスピードを担保するために内製化を見直す動きも高まる中で、国内でもようやく「DevOps」に対する認識が変わりつつあるようだ。
これまで、DevOpsは「開発と運用が協力すること」「自動化」「ツール」の話といった具合に、“開発・運用の現場に閉じた視点”で解釈される傾向が強かった。だがDevOpsは、「現場の効率化」のためのものではなく、「ビジネスの成果を出すまでのリードタイムを短縮する取り組み」。そしてデジタルビジネスが本格化し、サービス提供・改善のスピードが差別化の要件となっているという事実に照らせば、DevOpsのアプローチが合理的かつ不可欠であることは自明だ。ビジネス部門とIT部門が協働してサービスをスピーディに開発する事例も増えつつある中で、DevOpsの正しい理解と重要性は着実に浸透しているといえるだろう。
一方で、この実践を支えるテクノロジー、サービスも急速に整いつつある。例えば、ITサービス開発・改善のスピードを担保する上で、これまではCIでビルド、テストを自動化しても、デプロイに多大な確認作業、手作業が発生することがアプリケーションライフサイクル全体の高速化を阻む要因となってきた。だが現在は、複数のベンダーがデプロイ作業を標準化・自動化する仕組みを提案している。
この文脈で、Dockerなどのコンテナ仮想化技術が注目を集めているのも周知の通りだ。CIによって、テストサーバへのアプリケーション導入とテストを自動化した上で、Dockerのコンテナイメージを使えば、テストされた「確実に動く動作環境」をそのまま本番環境に展開できる。さらにオープンソースのコンテナオーケストレーションフレームワーク「Kubernetes」などを使って、コンテナイメージの配信を自動化する仕組みを自ら作る企業もあれば、そうした仕組みの整備を支援するソリューションも複数のベンダーが提供している。
この他、顧客企業と共にサービスを考え、共に開発・改善するDevOps支援サービスを複数社が提供していることも見逃せない。デジタルビジネスがますます本格化していく中で、DevOpsの実践環境は着実に整いつつあるのだ。
だがそれとは裏腹に、実践に乗り出している国内企業はまだ少ないのが現実だ。無論、前述のように、多くの企業が“デジタルディスラプション”に対する危機感を抱き、何とか今の潮流に対応しようとしている。だがDevOpsに向けた第一歩がなかなか踏み出せない。
これには大きく3つの要因が挙げられる。1つは、一般的な企業はスタートアップや新興企業とは違い、既存事業とそれを支える既存システムがあること。「ビジネス部門と開発・運用部門が協働してスピーディにサービスを作る」体制を作るには各種調整、検討などが必要となるが、既存事業、既存システムの運用に手一杯であり、新しいやり方を検討、導入する時間もリソースも確保できない、といった声がよく聞かれる。
2つ目は、よく指摘されることだが、経営層の「ITはコスト削減対象」といった認識だ。DevOpsは攻めの手段であり、それを支える各種ツールも「コスト削減」を目的としたものではない。ITは投資対象であり攻めの手段であることをトップが認識していなければ、仮に現場がDevOpsを志向してもプロジェクトを本格化させるのはなかなか難しい。
そして3つ目は、2つ目にひも付くことだが、「IT=コスト削減」といった考え方に縛られてきた現場の認識だ。SIerへの外注文化が一般的であり、コスト削減とシステムの安定運用が最優先課題とされてきた中では、「コスト削減」「情報システム部の効率化」に視野が閉じてしまいがちであり、DevOpsで最も大切な「ビジネスへの寄与」と言われても、具体的に何をすればよいのか分からない。各種ツールも「ニーズの変化に応える上でどう役立つのか」ではなく、「どうコスト削減に役立つのか」と捉えてしまう。特にビジネスへの距離が遠い運用担当者にとっては、「ビジネスへの寄与」と言われてもピンとこない向きが多いのが現実ではないだろうか。
とはいえ、IoT、X-Techなどのデジタルビジネス競争が本格化し、規模や国を問わずさまざまな企業がテクノロジーの戦いを仕掛けてきている以上、DevOpsが不可欠となっていることは間違いない。それどころか、今後DevOpsは当たり前のものとなり、市場競争に参加するための前提条件ともなっていくはずだ。実際、上記のような課題を持ちながらも、この潮流に対応し始めている国内企業は増え始めている。
例えば、情報システム部門を「新規領域担当チーム」と「既存領域担当チーム」の2つに分け、前者のチームでDevOpsを実践する企業もあれば、「差別化を狙うシステム」に限定して開発・運用を内製化し、DevOpsを実践する企業、DevOps支援サービスを利用してデジタルビジネスに取り組んでいる企業もある。大局的に見れば、DevOpsに対する企業のスタンスは、前向きに取り組む企業と、他人ごとして見ている企業に大きく二極化してきたといえるだろう。ただ今の潮流を鑑みれば、これまでと何も変えない場合、その行く末は想像に難くない。
では、DevOps実践を阻むさまざまな課題がある中で、一般的な企業は一体どのようにして変わっていけばよいのだろうか? 既に取り組んでいる企業は、どのように課題を乗り越え、どのように各種手段を適用しているのだろうか?――本特集では、DevOps実践の一般的な方法論ではなく、実践に向けたロードマップにフォーカス。一般的な企業がDevOpsに乗り出すための第一歩から、プロジェクトの発展のさせ方、ツールの活用法、開発・運用スタッフのマインドセットまで、事例を通じて“現実的なDevOps実践法”を紹介する。
デジタルビジネスの競争が本格化する中、ニーズの変化に迅速に応える上で、DevOpsはもはや不可欠なアプローチとなっている。だが、新しいことに取り組みやすいスタートアップや新興企業とは異なり、既存事業、既存システムの上に立脚してきた一般的な企業がDevOpsに取り組む上では、さまざまなハードルがあるのが現実だ。では一般的な企業がDevOpsを実践する上ではどのようなアプローチが考えられるのだろうか。事例を通じて、実践に向けた現実的なロードマップを探る。
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