続・Dell EMCはどこへ行くのか、ストレージの今後およびクライアント製品とのシナジーを聞いたDell EMC World 2017

米Dell EMCが、2017年5月8日から開催中の「Dell EMC World 2017」で、何が見えたか。本記事ではストレージ製品群の今後、およびクライアントソリューションとの相乗効果について、幹部に直接質問した内容を交えてお届けする。

» 2017年05月10日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

 米Dell EMCは、2017年5月8日からラスベガスで開催中の「Dell EMC World 2017」で、今後を暗示するように多数の発表をしている。本記事ではストレージ製品群の今後、およびクライアントソリューションとの連携について、幹部に直接した質問を交えてお届けする。

 なお、本記事は2016年の「Dell EMCはどこへ行くのか、今後の企業文化、製品戦略、クラウド戦略を探る」という記事の続編という位置付けで、「続・Dell EMCはどこへ行くのか」というタイトルを付けている。

「HCIはパラダイム変革」

 ストレージに関し、Dell EMCは今回のイベントで、ほぼ全ての製品の強化を発表した。昨年のEMC World 2016では、「ストレージ戦略は分かりやすくなってきた」と書いたが、その後も、この分野は急速に変化している。これを踏まえてDell EMCのプレジデントであるDavid Goulden(デヴィッド・ゴールデン)氏にした質問と、Goulden氏の回答は次の通りだ。

――各ストレージ製品のポジショニングは理解しているつもりだが、業界のトレンドとしては、オールフラッシュストレージ、ソフトウェアデファインドストレージ、そしてハイパーコンバージドインフラ(HCI)が互いに衝突しつつある。そこで、Dell EMCとしては今後ストレージ製品群について何らかの移行を図っていくことになるのか。

Dell EMCプレジデント、David Goulden氏

Goulden氏 各製品のポジショニングについては明確に説明してきたつもりだ。顧客にはそれぞれの出発点がある。通常Dell EMCのいずれかの製品を既に使っている顧客は、製品を変えたいとは考えない。だが、あなたの言ったことでいえば、大きなトレンドとしてHCIがある。HCIではストレージ装置を別個に持つのではなく、ソフトウェア定義のストレージレイヤーを使うことになる。私にとっては、これが大きな変化だ。顧客はそれそれ、いつどのようにHCIのパラダイムへ移行するかを考えることになる。

 現在のところHCIは、ローエンドのストレージニーズに対応している。だが今後は機能を高め、ストレージ市場において、より大きな部分を占めるようになる。一方で、ストレージ製品自体も、より高性能なプロセッサ、より多くのドライブ、より高機能なソフトウェアによって進化していく。究極的に、私たちはHCIとストレージ製品を併用する選択肢を提供していくことになる。

――しかし、既にHCIを、VMware環境のような汎用サーバインフラ用として推進しているではないか。つまりHCIは一般的なワークロードに適用可能だということになる。さらに(Dell EMCのいう)「ITトランスフォーメーション」では、HCIへの移行を1つのカギとしているのではないか。

Goulden氏 顧客にはHCIへの移行を勧めているが、それだけが選択肢ではない。考えにくいが、これまでストレージを全く使ってこなかった顧客がいるなら、CIかHCIを勧める。効率が最も高いからだ。

 私たちは現時点で、HCIは大多数のワークロードに適していると考える。これは「数」での話だ。一方で高性能や大容量を求めるアプリケーションは、ストレージ装置を使い続けることになるだろう。

ストレージ製品はハードウェア志向とソフトウェア定義に分化

 では、HCIを除くストレージ製品に、性能や機能の強化以外の変化はないのか。いわゆる「Software Defined Storage(SDS)」として、Dell EMCは「Elastic Cloud Storage(ECS)」「ScaleIO」といった製品を持っている。一方、「Isilon」や「Unity」、さらには「Data Domain」の仮想アプライアンス版である「Data Domain Virtual Edition」も、IAアーキテクチャで動くという点では、ソフトウェア定義だ。これらの製品では、デルのサーバプラットフォームの活用が新たなテーマとなってくる。

 関連して、IsilonとECSでは興味深い発表があった。スケールアウトNASシステムであるIsilonと、オブジェクトストレージソフトウェア製品であるECSについて、共通の目的のために使い分けられるようにする取り組みは進行中という。

 これは「Project Nautilus」と名づけられたプロジェクトで、IoTなどのストリーミングデータをリアルタイムで保存・分析するためのソフトウェアツールを開発している。ストレージバックエンドとしてIsilonあるいはECSを利用できることになるという。

 Hadoopベースでストリーミングデータを取り込み、分析のできる仕組みは現在でも作れるが、Project Nautilusの利点はストレージに対して直接データを送ればいいという点にあるという。WCSをストレージエンジンとして使えば、グローバルなネームスペースを生かして、複数拠点に分散したシステムを作れる。Isilonを使えば、単一拠点で大量データを扱える。なお、Isilon、ECSのどちらを使う場合も、HDFSをインタフェースとして用いる。

 IsilonとECSは出自こそ異なるが、ストリーミングIoTデータへの対応という点では選択肢として並ぶことになる。このように、純粋なソフトウェアストレージなのか、アプライアンスをベースとした製品なのかといった違いよりも、用途やニーズによって製品を選択できるようにしていることが興味深い。

クライアントソリューションとの相乗効果とは

 以前、「米デル、EMCの買収完了であらためて考える、新会社の存在価値とは」という記事で紹介したが、デルとEMCの統合で生まれた事業会社は「Dell Inc.」だ。デルという企業の事業部門として「Infrastructure Solutions Group(ISG)」「Client Solutions Group(CSG)」「Global Services」が発足。ISGは「Dell EMC」ブランドでサーバ、ストレージ、ネットワークなどのITインフラ事業を展開。一方CSGは、「Dell」ブランドで、PCや周辺機器、プリンター、端末セキュリティ、IoT端末/ゲートウェイなどを担っていく。

 では、デルとEMCの統合によって、クライアントソリューションについては、どのような新しいメリットを顧客に提供できるようになったのだろうか。この質問を、シニアバイスプレジデントでCSGのゼネラルマネージャーを務めるSteve Lalla(スティーブ・ララ)氏に投げかけると、同氏は真っ先に5月8日(現地時間)発表の「Dell EMC VDI Complete Solutions」を挙げた。これはVxRailあるいはvSAN Ready NodeでVMware Horizonを利用し構築、あるいは構築済みのパッケージとして提供されるデスクトップ仮想化に適用されるファイナンスプログラム。月額1シート当たり最低8ドルで、デスクトップ仮想化ソリューションを利用できる。

参考記事[速報]Dell EMC、HCIでクラウド的な消費モデルと約300万円の低価格機種を発表

 「これまでも、PCハードウェアを対象としたファイナンスは可能だった。今回の大きな違いは、VDIに必要なソフトウェアとハードウェア一式を、一括して月額課金にできることにある。これで大きな初期費用を負担することなく、VDIを始められる。特に中堅・中小企業がVDIに取り組みやすくなる」(Lalla氏)。

 大企業にとってもメリットは大きいという。VDIを導入しながらも、常に高性能なPCを従業員に使わせたいと考える企業はある。今回のようなファイナンスプログラムを使えば、定期的にPCを最新の機種へ買い替える仕組みが作りやすくなるという。

 Lalla氏は、クライアントセキュリティとの相乗効果も生かしていきたいと話す。

 「中堅・中小企業では、セキュリティについてどうすればいいか、考えあぐねているところが多い。大きなコストを掛けられないということも、悩みにつながっている。CSGではデータに着目し、ハードウェアとの連動による暗号化や、データに対する操作の制限を実現する製品を提供している。例えばあなたが無許可でデータをメールで転送するなどした場合に、このデータを閲覧不可するとか、消去するといったことができる。こうした機能を使えば、ユーザーが勝手に任意のクラウドサービスを使ったとしても、データの秘匿性を確保することが可能で、最後の砦になるといえる」(Lalla氏)。

 こうしたセキュリティ技術もファイナンスプログラムに含められるため、企業は導入しやすくなる。Dell EMCとDellにとっては、製品ジャンルで個別に選択し、導入するというよりも、企業におけるPC利用の課題を包括的に解決するソリューションとして、利用してもらいやすくなるという。

[取材協力:Dell EMC]

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