スマホやIoT機器が生成するデータをお金に換える「IoTデータの証券取引所」と日本経済の行く末ものになるモノ、ならないモノ(73)(2/2 ページ)

» 2017年06月22日 05時00分 公開
[山崎潤一郎@IT]
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データ流通プラットフォームはIoTデータ主導社会の核となる

 「データ主導社会」の実現を目指すこの国も、IoT時代のデータ流通の必要性を理解し、霞が関を上げて環境作りを急いでいる。経済産業省、総務省、IoT推進コンソーシアムは、共同で「データ流通プラットフォーム間の連携を実現するための基本的事項」を取りまとめている。さらに、内閣総理大臣の下に設置された「未来投資会議」が2017年6月9日に取りまとめた「未来投資戦略2017」においても、「データ利活用基盤の構築」と銘打って「事業者間のデータ流通」を促進する環境整備(法制度やガイドラインなど)の必要性に言及している。

経済産業省、総務省、IoT推進コンソーシアムが共同で取りまとめた「データ流通プラットフォーム間の連携を実現するための基本的事項」概要(2017年4月公表)から引用

 記事「総務省 情報通信国際戦略局に聞く、IoT時代のSDN/NFV、個人情報、デジタルビジネスの在り方」にもあるように、IoT時代の日本は、“モノ”が吐き出す「データ」をフル活用して国を富ませる青写真を描いている。データ流通プラットフォームは、その中でも要となる大切な機能を提供することになるのだろう。

 では、エブリセンスジャパンは、具体的にどのようなビジネスモデルを構築してデータ流通のプラットフォームになろうとしているのだろうか。最初に思い浮かべたのは、現在の「名簿業者」のような業態だ。名簿業者は、住所や電話番号といった個人や企業の情報を手に入れストックしておき、それを必要とする相手に販売している。名簿情報が、IoTデータに置き換わったイメージなのだろうか。

 だが、そんな筆者の考えはあっさりと否定された。「弊社でデータを購入し価格を設定して販売する、商社的なビジネスではない。証券取引所のようなものを想像してほしい」(真野氏)という。つまり、エブリセンスジャパンは「売りたい人と買いたい人のニーズをマッチングする仕組みを提供するだけで、データの取引価格は、全て市場原理に委ねる」(真野氏)そうだ。

IoTデータをやりとりする証券取引所

 「IoTデータの証券取引所」と言われても、まだまだ雲をつかむような話で、にわかにはイメージしにくいのだが、それを理解する上でのヒントになりそうなスマホアプリがある。エブリセンスジャパンが開発した「EveryPost」だ。冒頭で説明した、「スマホが自動取得するデータを企業などに提供する」ためのアプリであり、既にリリースし実験を始めている。

「EveryPost」の設定画面。提供に同意するデータの種別だけをONにしておくことができる。iPhoneとAndroidに対応している

 「EveryPost」は、利用者の属性に加え、加速度センサー、歩数、位置情報などのデータをアプリ利用者の同意を得た上で収集し、企業や研究機関などからの求めに応じて提供するためのシステムだ。提供者には、ポイント交換サイトでマイレージや電子マネーなどに交換できる独自のポイントが付与される。アプリをインストールして個人的なデータを提供しているだけでは、IoTデータの証券取引所の全貌をすぐに理解することはできないが、データを流通させるという振る舞いがどのようなものであるかは、何となくイメージできる。

 また、この仕組みが発展すればデータの証券取引所が成り立つであろうこともおぼろげながら感じ取れる。というのは、EveryPostのユーザーには「GW行動調査(最大2000ポイント相当)」などという形でデータ提供の依頼が非定期で通知される。ユーザーは、その依頼内容と報酬を“てんびん”にかけ、「データを提供してもよい」と判断した場合にのみ、企業などにデータが提供される仕組みだ。初歩的ではあるが、証券取引所的なデータ市場の仕組みがそこに存在する。

IoTデータが市場にあふれ返り無価値同然になる?

 価値が市場原理で決まるデータ流通の世界を思考実験的に想像してみよう。まず、あらゆる“モノ”がデータを吐き出すようになると、データのビッグバン状態が訪れるのだろう。それは、相対的にあらゆるデータの価値の下落を招くことになるのではないか。ありきたりなデータは、市場にあふれ返り無価値同然になる。その一方で、引き合いが多く希少なデータには高値が付く。

 市場原理というのは、そういものだと思うのだが、IoTデータの流通に現在の株式や商品取引と同じような交換価値の力学が働くのかどうかは、筆者の知識では判断できない。例えば、銀嶺の頂に設置した各種気象センサーから得られるデータは希少かもしれないが、仮にそれを欲する人がいなければ価値はない。

 と同時に、デジタルデータであるから簡単にコピーできるIoTデータに、価値が付くのだろうか。複製物が増殖すれば価値も下がる。そもそも、IoTデータに財産としての権利が認められるのであろうか。経産省と特許庁がビッグデータを著作権的な見地から検討しているようだが、IoTデータの価値は、その議論の方向性にも左右される。

 それに、IoTデータというのはあくまでも業務などの副産物であり、IoTデータを生成して販売することを主たる目的に日々の業務を行う人はいない。そのような世界に市場原理の力学がどういう形で働くのか、全く予測できない。もしかしたら、“素”のデータは無価値でも人工知能により分析、解析したデータには高値がつくのかもしれないが、それは、分析、解析という付加価値に付いた値段でありデータそのものの価値とは言い難い。そもそも、データの分析、解析という行為は、特定の事業領域に特化したデータを生成するためのもので、それを市場に出しても必要とする人がいるかどうかさえ不透明だ。

 とまあ、ちょっと考えただけでも、IoTデータ流通の世界は、未知の領域だけに多くの謎を孕んでおり、実際にどうなるのか予想もつかない。ただ、政府がもくろむように、IoTが日本の成長を下支えする新しい産業領域にとして成長しなければ、日本経済の地盤沈下は避けられないであろう。エブリセンスがいうデータ取引市場が、「データ主導社会」をけん引する付加価値の高いIoTビジネスとして花開くことを期待している。

著者紹介

山崎潤一郎

長く音楽制作業を営む傍ら、インターネットが一般に普及し始めた90年代前半から現在に至るまで、IT分野のライターとして数々の媒体に執筆を続けている。取材、自己体験、幅広い人脈などを通じて得たディープな情報を基にした記事には定評がある。著書多数。ヴィンテージ鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」「Combo Organ Model V」「Alina String Ensemble」の開発者であると同時に演奏者でもあり、楽器アプリ奏者としてテレビ出演の経験もある。音楽趣味はプログレ。

TwitterID: yamasaki9999


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