デジタル変革を起こすには、まずSoRを中心とした従来型のインフラを見直す必要があるのではないだろうか。さまざまな企業のシステムを構築・運用し、運用負荷やコストの削減に詳しいSIerに聞いた。
現在、多くの企業でITインフラのサイロ化が進み、その運用負荷とコストが増大し続けている。こうした中で、来るべきデジタル変革時代に向けて、SoR(System of Record)を中心とした従来型のインフラを見直し、運用負荷やコストを削減しようという企業が増えつつある。
パブリッククラウドと従来型インフラでは、システム運用の運用負荷やコストの考え方に違いがあるという。現状について、TIS IT基盤技術本部 IT基盤技術推進部 主査の浪川英雄氏は、次のように指摘する。
「当社の顧客からも、従来型インフラの運用コストや保守コストの削減を求める声が高まってきています。この要因には、パブリッククラウドの普及などによって、企業側でシステムを運用できる領域が増えてきていることが挙げられます。何でもかんでも丸投げというわけではなく、『この作業に、なぜこれだけのコストがかかるのか』と細かい作業内容レベルで価格交渉してくるケースは珍しくありません。ただ、作業内容を詳しく見てみると、品質を担保するためには工数や納期がかかり、単純にパブリッククラウドのコストとは比較できないのが現実です」
ユーザー企業は、「パブリッククラウドを基準に運用コストをもっと下げたい」と考える一方で、SIerとしては「セキュリティリスクや安定性などが重視される従来型のインフラでは、パブリッククラウドと同じ感覚での運用は難しい」のが実情だ。
TIS IT基盤技術本部 フィナンシャル基盤サービス部主査 兼 IT基盤プロジェクト第3推進部 主査の新原輝彦氏は次のように補足する。「運用負荷やコストを下げるためには、従来型のインフラのままでは限界があり、根本的にアーキテクチャを変えたり、パブリッククラウドに移行したりする必要があることはユーザー企業側も認識し始めています。しかし、実際にそれを行ったときに、今までと同じ品質を維持できるかという点についても理解してもらう必要があります」
企業のインフラ運用コスト削減への要求は強まるばかりだが、コスト削減の課題は今に始まったことではない。では、インフラが抱えるコスト課題はどこにあるのだろうか。
「大きなコスト課題として、インフラの運用管理が人に依存していることが挙げられます。古いシステムほど、この傾向が強く、人が関わる部分が多ければ多いほど、運用負荷と運用コストが肥大化しています」(新原氏)
例えば、新しい機能をリリースするたびに、運用担当者がテストをしてエビデンスチェックを行い、さらにその結果を確認するといった工程にかなりの工数とコストがかかっている。具体的には、インフラレイヤーでのテストは、Linux系のシステムではログを全部取って、テストケースとマッチするログがあるのかを確認。Windows系のシステムであれば、スクリーンショットを撮ってExcelに貼り付けて、間違いなくパラメータが設定されていることを確認する。こうした手作業のエビデンスチェックが運用負荷やコスト増大を招いているというのだ。
また、人に依存したインフラ運用では、設定値を間違えるなど、単純なオペレーションミスによる障害が起こるリスクもある。こうしたオペレーションミスによる障害発生を防ぐために、二重三重のチェック作業をルール化、スキーム化して、インフラ運用を行っていることもコスト増大につながってくる。
こうした二重三重のチェック作業というのは、従来のユーザー企業が全てのシステムでSLA(Service Level Agreement)の高さを重視し過ぎていた傾向によるものだ。しかしAWSが浸透したことによって、「リスクシェア」を理解するユーザー企業が増えてきたという。
「これまでは、日本のSIerがリスクシェアを提案しても門前払いとなっていたが、AWSはそれを覆しつつあります。SIerとしても、システムの中でもSLAを低くしてもよい部分、ダメな部分と切り分けて、ユーザー企業と合意を得られれば、コスト削減についてもう1つ先の次元に行けるのではないかと思っています」(浪川氏)
もう1つ、インフラのコスト課題として指摘するのが、全体最適化、標準化ができていない点だ。サイロ化してしまった従来型のインフラを全て同じ運用方法で管理するのは難しい。運用管理コストの削減が見込める全体最適化を達成するには、仮想化環境を標準化して、統合的に管理できることが求められる。
「今の時代は、仮想化はもう“当たり前”としているユーザー企業の方が多く、SIerからコスト削減策としてサーバ仮想化を提案しても、企業側には響きません。しかし、仮想化を導入していたとしても、全体最適化に向けた標準化ポリシーやシステム構成が考えられていないと、仮想マシンやOSがどんどん増える一方です。サーバ仮想化によって物理サーバを集約・削減して、ハードウェアについては一定のコスト削減効果をもたらしたかもしれませんが、数が増えた仮想マシンやOSの面倒を見るコストに変わっただけという企業も少なくありません。結果的に仮想化したインフラもサイロ化して、運用負荷やコストの増大を招いてしまっています」(新原氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.