Amazon Web Services(AWS)の「Amazon Connect」は、コールセンターをクラウド上にソフトウェアで構築できるサービスだ。最大の特徴はコールセンターの構築・運用コストの大幅な削減。だが、従来型のコールセンターシステムを、ビジネスの変化に柔軟に対応できるツールに変えたいという用途にも適している。AWSとセールスフォースの説明に基づき、このサービスをあらためて紹介する。
Amazon Web Services(AWS)の「Amazon Connect」は、コールセンターをクラウド上にソフトウェアで構築できるサービスだ。最大の特徴はコールセンターの構築・運用コストの大幅な削減。機械学習/AI系サービスの併用などにより、自動応答を増やすことで、オペレーターのコストを減らす効果も期待できる。
Amazon Connectは2017年4月に発表されたサービスだが、2017年6月には北米に加えてアジアパシフィック(シドニー)で提供開始(東京リージョンは2017年9月時点で未提供)、またサービスメニューやドキュメントの日本語化も実現した。
一方、AWSはAmazon ConnectをSalesforce.comのService Cloudと連携できるソフトウェアアダプタを開発しており、米国のAppExchangeでは提供されているが、日本のAppExchangeにも2017年9月21日にリストされる予定という。アマゾンウェブサービスジャパンとセールスフォース・ドットコム(セールスフォース)は、協力してこの連携ソリューションを国内で拡販するという。
以下では、2社が2017年9月19日に行った説明に基づき、Amazon Connectを紹介する。
Amazon Connectは、AWSのサービスの中では異色の存在だ。企業のITシステムで、構築に時間と費用がかかる部分をクラウド化して「価格破壊」を起こすという点では、データウェアハウスの「Amazon Redshift」などと似ている。だが、SaaSに近いサービスであり、AWSやITに関する知識はほぼ必要ない。コールセンターを担当するビジネスマネージャー自身が、数分あるいは数時間でグラフィカルなインタフェースを通じて構築できる。
セールスフォースのプロダクトマーケティングシニアディレクターである御代茂樹氏は、2017年9月19日の説明で、2社が共同して拡販する理由として「セールスフォースは(企業内の)エンドユーザーに強く、AWSはIT部門に強い」と話したが、確かにその言葉通り、Salesforce.comのサービスを利用してきたようなビジネス部門の人たちが、ビジネス活動の延長線上で使うのに適しているといえる。AWSユーザーよりも、Salesforce.comユーザーの間での採用の方が、早期に広がる可能性すらある。
Amazon Connectは、「コールセンターの機能を全体的にクラウド化し、短時間で簡単に構築・運用できるようにしたサービス」だ。
サービスの説明には、「コンタクトセンター」という用語が登場するため、電子メールやその他デジタルなコミュニケーション手段での顧客対応を統合しているとの誤解も受けそうだが、このサービスはあくまでも電話による問い合わせなどに対応するもの。自動呼分配(ACD)や自動音声応答(IVR)を使った、複雑なルーティングを含むシステムを構築できる。通話を自動録音する機能も標準で備える。
IVRでは、AWSの文章読み上げ(text-to-speech)サービスである「Amazon Polly」を簡単に利用できる。すなわち、コールフローをビジュアルに設定する一環で、自動応答用のテキストを入力しておけば、Amazon Connectがこれを自動的に読み上げるように設定できる。
自動応答に関しては、簡単なプログラミングが必要になるものの、チャットボット構築サービス「Amazon Lex」との連携により、電話による問い合わせなどに対応する無人応答システムも構築できる。Amazon Lexにとって、Amazon Connectは重要な用途の1つだという言い方もできる。ただし、本稿執筆時点で、Amazon Lexは英語のみに対応している。日本語への対応時期は未定。
また、AWSの他のサービスと組み合わせて開発を行うことで、アカウントロックの自動解除などのシステムを構築することもできると、AWSでは説明している。
顧客管理の機能はサービスに含まれていない。外部の顧客情報データベースとの連携を図ることになるが、この部分はプログラミングが必要。Salesforce.comのService Cloudとの連携では、前述のソフトウェアアダプタにより、この作業が簡単に行える。
Service Cloudとの連携では、「発信者番号通知に基づき、該当の顧客情報をポップアップ表示する」「Service Cloudの顧客情報画面で、顧客電話番号をクリックすることで、その顧客に電話がかけられる(click-to-call)」などが実現している。
前述の通り、Amazon Connectの最大の特徴は中立的に言っても「価格破壊」と表現できる料金にある。
自動呼分配装置などのハードウェアへの投資は不要。電話番号の利用も含めて、完全に従量課金だ。
Amazon Connectの料金は、図のようにサービス利用料金、インバウンド/アウトバウンドコールの通話料、電話番号の利用料金で構成されている。サービス利用料金は分単位の課金。これはコールセンターの営業時間などとは無関係で、通話時間のみにひも付いている。従って、コールセンターを設置したものの、利用がゼロであれば、サービス利用料金はゼロということになる。
他には通話料金と、電話番号利用料がかかる。電話番号利用料のみ、実際の通話がなくても支払う必要がある。電話番号としては050、および0800が利用可能だ。
このようにAmazon Connectは、料金面では全体的な低さ、従量課金による小規模利用および期間限定利用のしやすさが特徴だ。セルフサービス型であり、専門業者は不要で、構築作業は数時間で完了できるという点も、コストおよび時間の節約につながる。
このため、既存コールセンターのリプレイスの他、期間限定キャンペーンなどの一時的なコールセンターニーズへの対応に利用できる。
加えて、顧客情報と連動した対応の差別化をフローに組み込むのも容易だ。また、ビジネスニーズに応じて、自動応答メッセージやコールフローを機動的に変更する、さらには自動応答機能を段階的に強化するといった使い方もできる。
つまり、従来型のコールセンターシステムを、ビジネスの変化に柔軟に対応できるツールに変えたいという用途に適していると考えられる。
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