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» 2018年03月09日 05時00分 公開

「アマゾンとヤマトの戦い」が残した“教訓”とは久納と鉾木の「Think Big IT!」〜大きく考えよう〜(5)(2/2 ページ)

[久納信之/鉾木敦司,ServiceNow Japan]
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「根拠のないコスト削減要求」にどう対抗するか?

 さて、ここまで事態の舞台裏を1つずつ皆さんと一緒にたどってきたわけだが、本連載の主役である「あなた」の目には、これがどう映っただろうか? あなたは、企業内にいて、あるいはIT部門にいて、外部のビジネスパートナーの重要性について考えたことがあるだろうか? ぜひCEOもしくはCTO(最高技術責任者)、CIO(最高情報責任者)になったつもりで、一度真剣に考えていただきたい。

 もしアウトソースを行わず、自らがITオペレーションを実行していたのなら、根拠のない5%(根拠がないのだから7%なんて場合もあるかもしれない!)の削減を毎年繰り返せるだろうか?

 ビジネス革新、サービス革新が進む中、ITILに加えてSIAM(Service Integration and Management)という考え方やフレームワークが生まれてきた。ITサービスマネジメントの重要な基本要素は3Pから4Pへと進化している。4Pとは、従来からある3P - People(人)、 Process(プロセス)、Product(ITSMを実現する上で必要なテクノロジー)に、Partner(外部パートナー = ITベンダー)を加えたものだ。

 ITサービスはさまざまな人、プロセス、テクノロジー、そしてパートナーの組み合わせによって初めて成立すると捉えているわけだ。サービスやビジネスを革新させようとするなら、パートナーたるITベンダーがもたらしてくれる多様かつ専門的な知的支援、テクノロジー、オペレーションやITサービスなくして、革新は成功しない。だから重要なパートナーには、サステナビリティを担保するために適正な利益を上げ続けてもらう必要がある。ITサービスマネジメントは4つ目のPまでを視野に入れて設計する必要があるのだ。

ALT 根拠のない無茶なコスト削減要求は共倒れを招くだけ!?

戦略的パートナーシップ確立に不可欠な2つのポイント

 そこであなたに問いたい。身の回りのビジネスパートナーが適正な利益を得ているか意識したことはあるだろうか? 大きくうなずくか、小さくうなずくかは別として、この問いには大抵の人がYesと答えるのではないだろうか? ではなぜ既述のMS契約継続破棄のような事件が起きるのだろうか? それはもう一歩踏み込んだこの質問で明らかになるのではないか。

 あなたは、パートナーが適正な利益を上げているかどうか判断する能力を持っているだろうか? MS契約は、何もしないとあっという間に業務全体を実態の見えないブラックボックスにしてしまう。これはよろしくない。なぜならその契約料が適切なのか、適正な利益を上げているのかが判断できなくなってしまうからだ。ではどうすれば判断できるようになるのか? どうすればこの辺りが可視化されるのか? そもそもベンダーとの適切な関係とはどういうものか?

 ここで登場するのが、Vendor Relationship Management/Supplier Management (以下VRM)だ。コスト構造の可視化の議論と絡めながら、ベンダーとの適切な関係づくり、戦略的VRMについて考えてみたい。

 ベンダーと適切な関係を作るためには、まずはパートナーを3つのカテゴリに分けると良い。1つ目は戦略的パートナー。その強みを見込んで手を組む相手であり、中長期にわたりビジネスを推進させるのに非常に重要な存在だ。おいそれと代わりは見つけられない。2つ目はコモディティベンダー。汎用的なテクノロジーやサービスあるいは消耗品のような物を提供している。いくらでも代わりが見つかる。悪い言い方をすれば価格さえ安ければ良い存在とも言える。3つ目は1と2の中間的なベンダーということになる。

 2については、大まかに言ってしまえば、要件(Requirement)を明文化し、これを満たすベンダーを価格で選択し続ければ良いので今回は割愛する。問題は1だ。戦略的パートナーとの継続的な関係づくりには、それこそ戦略的に取り組む必要がある。

 戦略的パートナーシップの確立には、まず互いの上級マネジメント間で基本合意を締結することが最優先となる。その一番の目的は、このパートナーシップが互いの利益、ひいては互いの継続的成長に結び付いていることを確認することにある(Win-Win)。この中長期的かつ戦略的信頼関係が下地にあって初めて、ビジネスの戦略的方向性の共有や、ビジネスのためのITサービスを「協業して」ビジネス側に提供する3Pが実効性を帯びてくる。ポイントは、ITベンダー側も同じ船に乗り、自身の役割と責任を認識し、相応の能動的な努力・提案をすることを合意・遂行する点にある。

 業務を委託する側は、これを丸投げするのではなく、オペレーション状況とそのコスト構造を妥当なレベルまで可視化する必要がある。つまり(前回第4回目のSLA策定でも触れたが)、提供されるべきサービスを明文化し、要求されるそのサービスレベル、それを履行するための日々のオペレーション業務、それを支える機能と、順番にひも付けて記述していく。そして、ITサービス財務管理のアプローチを用いて、オペレーションに費やされるリソース・単価・頻度を入力することで、かかる費用の概算を積み上げることができるようになる。

 ポイントは、「発注する側の目にも、増額してでも強化すべき範囲と、無駄であり削減されるべき範囲を可視化できる点」と、「これによりパートナーからの提案に対してタイムリーかつ適切に、根拠のない精神論ではなく、自身のアセスメントを拠り所に議論することができるようになる点」にある。上記2つのポイントを合わせると、両者がより広い視野、より長いスパンで、当事者意識を持って戦略的な議論に臨めるところが肝となる。

 IT人材の不足が年々深刻になる中、今一度このようなVRMについて考えてみてはいかがだろう。持続可能なWin-Winの関係があり、真の戦略的パートナーシップを築けている会社は地に足が着いた形で中長期的にビジネスの伸長戦略を描くことができている。あなたにとっても関係する外部ベンダーとの間で信頼関係に基づいたWin-Winの関係構築をリードできるようになれば、将来のキャリアアップにつながるのではないだろうか。

 ITとはまったく関係のない話だが、夫婦間においてもこの話は当てはまるのだろうか。筆者の家庭における日々の忍耐についてはどこかで可視化したいが、何に幾らお小遣いを使っているかはブラックボックスのままにしておきたいので、HRM(Husband Relationship Management)の提唱はやめておく、結婚生活のサステナビリティ(持続可能性)のために。

著者プロフィール

久納 信之(くのう のぶゆき)

ServiceNow ソリューションコンサルティング本部 エバンジェリスト

米消費財メーカーP&Gにて長年、国内外のシステム構築、導入プロジェクト、ITオペレーションに従事。1999年からはITILを実践し、ITSMの標準化と効率化に取り組む。itSMF Japan設立に参画するとともにITIL書籍集の日本語化に協力。2004年からは日本ヒューレット・パッカード株式会社、その後、日本アイ・ビー・エム株式会社においてITSMコンサルタント、エバンジェリストとして活動後現在に至る。「デジタルビジネスイノベーション=サービスマネジメント!」が標語・座右の銘。EXIN ITILマネージャ認定試験採点を担当。著書として『アポロ13に学ぶITサービスマネジメント』『ITIL実践の鉄則』『ITILv3実装の要点』(全て技術評論社)などがある。

鉾木 敦司(ほこき あつし)

ServiceNow ビジネス推進担当部長

日本ヒューレット・パッカード株式会社に19年間勤務。顧客システム開発プロジェクト、ハードウェア・プリセールス、ソフトウェア・プリセールス、プリセールス・マネージャー、ソフトウェアビジネス開発に従事。2017年より現職。一男三女の父であり、30年後も多くの日本企業が世界中で大活躍する野望実現のため、サービスマネージメント・プラットフォームの重要性啓蒙活動にいそしむ。電気情報通信学会発表論文に『OSS市場と市販製品の動向-市場成熟度が製品シェアに与える影響』がある。


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