今や、どのような企業も自社としてのクラウド戦略を策定しなければならない。では、どのような戦略を立てればいいのか。これを考える際に、主な意思決定者とステークホルダーが答えるべき、5つの質問を紹介する。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
クラウドコンピューティングはITの世界で主流の一角を占め、多くの企業に大きな影響を与えるようになっている。もはや企業の命運を左右する。そのため、ITリーダーやエンタープライズアーキテクトは、自社にとっての包括的なクラウド戦略を策定することが重要だ。
「クラウドの安全な活用を成功させるには、さまざまな部門が連携し、クラウド展開に関するビジネス本位の意思決定の枠組みと、ベストプラクティスに基づくITオペレーションモデルを構築する必要がある。そうすれば、クラウド戦略を全社的に標準化するとともに、さまざまなユースケースやビジネス部門に固有のニーズを満たすアプローチに役立つ」と、Gartnerのバイスプレジデント兼ガートナーフェローのディヴィッド・カーリー氏は指摘する。
さらに、カーリー氏はこう付け加える。
「あなたの組織のクラウド戦略を定義するには、主な意思決定者とステークホルダーが集まり、次の5つの質問に皆で答えるとよい」
ITリーダーは、クラウドコンピューティングの導入に向けたユースケースシナリオを体系的に検討し、導入判断を行う枠組みを作らなければならない。そうした枠組みが、成功するクラウド戦略のバックボーンを形成する。
この枠組みではまず、ユースケースシナリオに含まれるアプリケーションのタイプと技術的な特徴、関連するデータのニーズと制約、そのアプリケーションおよびデータと他のシステムの統合について理解する。さらに、それが新しいアプリケーションか既存のものかも考慮する。
次のステップとしては、特定のユースケースにおけるクラウドコンピューティングのメリットとリスクを評価する。メリットが大きくリスクが小さければ、パブリッククラウドサービスを導入すべきだ。メリットが小さくリスクが大きければ、クラウドは避けなければならない。“クラウドファースト”戦略を取っている企業も、メリットは小さくリスクが大きいユースケースでは、パブリッククラウドサービスへの移行は二次的な選択と考えなくてはならない。
クラウドの潜在的メリットが大きいものの、実際のリスクや知覚リスク(購入者が感じる不安や懸念)も大きい場合は、詳しく分析する必要がある。リスクを引き起こしている具体的な原因を特定し、リスクを軽減できる可能性がある対策を検討しなければならない。
リスク軽減策には、「懸念に対応可能なSLAを提供するベンダーを選択する」「特定のリスクに対処するためのベストプラクティス、ツール、ハイブリッドアプリケーションアーキテクチャを実装する」「各種のプライベートクラウドアプローチを利用する」などがある。こうした施策のいずれかで問題に対処できるのであれば、クラウドサービスの導入を模索するとよい。対処できない場合は、従来のアプローチを継続すべきだ。
ほとんどの組織は、さまざまなパブリッククラウドサービスに加え、従来型のアプリケーションやインフラを使用する。プライベートクラウドサービスを併用する可能性もある。その結果としてハイブリッド環境を運用することになるが、そこでは固有のセキュリティや管理、ガバナンスの問題が発生する。
こうした環境に対応するには、IT部門の各オペレーショングループがベストプラクティスを生み出し、ツールを実装しなければならない。ベストプラクティスやツールが成熟していけば、個々のユースケースで特定された潜在リスクへの対応力が向上する。特定のユースケースについて検討した際に見つかった固有の問題に対処するために、オペレーションのベストプラクティスのさらなる改善や拡張が行われることもある。
この質問に答えるのは容易なことではない。クラウドは組織におけるアプリケーションの在り方にさまざまな次元で影響するからだ。古いソフトウェアをSaaSモデルに置き換えることが出発点になる。だが、デプロイするソフトウェアを購入するか、開発するか、あるいはプライベートまたはパブリックのどちらのIaaSやPaaSサービスにデプロイするか、シナリオを検討しなければならない。
アプリケーションチームは、既存アプリケーションをクラウドIaaSやPaaSに移行する時期および方法や、クラウド環境を活用するための既存アプリケーションを改修する価値を考える必要がある。
だが、多くの場合、これらのアプローチがもたらすメリットは小さい。また、こうしたアプローチでは、クラウド環境の価値を最大限に活用できず、クラウド環境に固有の課題に対応することもできない。アプリケーション開発戦略はクラウドに最適化され、クラウドネイティブなハイブリッドアプリケーションの新しい構築アプローチを定義し、最大の価値を発揮できるように進化させなければならない。
多くの組織にとって、データセンターや従来のインフラのアプローチはこれからも重要だ。だが、クラウドコンピューティングを導入するに当たっては、クラウドブローカリング(各種クラウド技術の適切で円滑な利用を図るための調停作業)への戦略的なシフトが必要になる。
インフラブローカリングチームは、組織内でパブリッククラウド、プライベートクラウド、従来のインフラモデルおよびそれらの最適な活用に関する専門ノウハウを提供し、ビジネス部門が適切なときに外部クラウドサービスを手に入れ、実装するための実質的な窓口となり、合意された意思決定の枠組みの順守を確保する。
今日のインフラチームにとって重要な課題は、プライベートクラウドコンピューティングを利用すべきかどうか、そしてどのように利用すべきかを判断することだ。プライベートクラウドコンピューティングには、以下が含まれる。
包括的なクラウド戦略の中で最後に取り上げるのは、組織がどのようにクラウドサービスを自社として提供するようになるかに関わる側面だ。クラウドスタイルのコンピューティングは、デジタルビジネス戦略の一環として外部向けにアプリケーション、情報、ビジネスプロセスサービスを提供するためのベストプラクティスといえるアプローチだ。顧客やパートナー向けのシステムが、新しいクラウドネイティブアプリケーション開発の先頭を切ることが多い。そこで得られたノウハウは、新しい社内カスタムアプリケーションにも利用できる。
出典:5 Questions to Answer When Building a Cloud Strategy(Smarter with Gartner)
Manager, Public Relations
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