「いい? 今回の件はね、プレミアが自社でソフトウェアを開発できるようになったから、それまでアンタたちに頼んでいた仕事を内製化した、それだけのことよ。プレミアはごく合理的にビジネスとしての判断をしたにすぎないの。経営者なら、契約を結ぶときにそうした危険を予想して、対策を打っておくべきでしょ」
美咲の視線がさらに厳しくなった。
「悪いことは言わないわ。早いところ新しい製品作りに頭を切り替えなさいよ。そして、今度こそスキのない契約書を作って大手企業と渡り合うのよ」
「私はもう年です。新しい製品開発なんて、とても……」と力なく答える三浦に追い打ちをかけるように、美咲は一層大きな声でまくしたてた。
「だったら、とっとと会社を畳んじゃいなさいよ! その方が、社員もアナタもよっぽど幸せってものよ!」
(ダメだ)……三浦は肩を落とした。お説教ではなく解決策を求めて来たのに、このコンサルタントは、力になってくれるどころか「プレミアが正しい」としか言わない。三浦の心の中に落胆が広がった。
「座して死を待つしかないということですね。分かりました。それでは、私はこれで……」
諦めて帰ろうと三浦が背を向けたときだった。美咲が「松井さんは、何でソースコードごとプレミアに渡そうなんて言ったのかしら……」とつぶやいているのを聞き、三浦はいったん向けた背中を、美咲へもう一度向き直した。
「松井は、ボカを売った金でドローン向けアプリ開発をやりたいと言ってました。それと、こうすることが、世界のソフトウェア産業への貢献になるって……」
「ソフトウェア産業への貢献?」
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