クラウド型テレビ会議サービスで生産性向上と働き方改革を実現しよう!羽ばたけ!ネットワークエンジニア(6)

レガシーなテレビ会議システムは導入費用が高く、利用できる端末にも制約があり、利用シーンが限られていた。これに対して、「クラウド型テレビ会議サービス」はイニシャルコストが低く、PCやスマートフォンからモバイル回線で使えるため、用途が大幅に広がった。今回はクラウド型テレビ会議サービスの活用法について述べる。

» 2018年07月30日 05時00分 公開
[松田次博情報化研究会主宰]

 ここ2、3年、ネットワーク構築プロジェクトでテレビ会議を使うことが増えている。現在も札幌に本社がある大手流通企業のプロジェクトでテレビ会議を利用している。この会社が名古屋の同業を買収したため、その店舗を買収元企業のネットワークに移行しているのだ。

 設計やスケジュールの打ち合わせをするため、札幌と名古屋、筆者のプロジェクトチームがいる川崎(武蔵小杉)の3カ所を結んでテレビ会議を利用している。要件定義から基本設計書のレビューまで何度も会議を行い、今後も移行が完了するまでに進捗会議がある。

 もし、テレビ会議がなかったら、どこかに関係者が集まって打ち合わせをする必要がある。そのために必要な移動時間や交通費、人件費は膨大なものになる。プロジェクトメンバーが離れた場所に分散している場合、テレビ会議はプロジェクトの生産性向上に大きな威力を発揮する。

 武蔵小杉で使っている会議端末はPCだ。それを閉域モバイル網(連載第3回)でイントラネットに接続している。LTEサービスを使っているのだが、画質も音質も問題ない。モバイルが広帯域で安価になり、PCやスマートフォンをテレビ会議端末として使えるようになったことで、テレビ会議の利用シーンが広がったのだ。

レガシーなテレビ会議システムは高価

 これまで企業が使ってきたレガシーなテレビ会議システムを振り返ってみよう。

 レガシーなテレビ会議システムには30年以上の歴史がある。当初は高速デジタル回線と呼ばれる6Mbps程度の専用線で主要都市の拠点間を結んで使っていた。物価が安かった当時でも、テレビ会議システムは1つのサイトで1000万円を軽く超える費用がかかった。

 メーカーごとに独自の専用テレビ会議端末を使う制約は現在も変わらない。ただし、IP化と通信プロトコルの標準化が進んだため、異なるメーカーの端末間をH.323やSIP(Session Initiation Protocol)といった標準プロトコルで相互接続することが容易になった。

 図1がレガシーなテレビ会議システムの構成だ。専用端末は本体、カメラ、マイク、スピーカーがセットになっており、外部ディスプレイとともにシステムを構成する。本体には数拠点程度を接続して多拠点間会議をする機能を備えたものもある。

図1 図1 レガシーなテレビ会議システムの構成 MCU:Multi Control Unit(多拠点制御装置)

 対象とする会議室の大きさや多拠点会議機能の有無によって価格は変わるが、1拠点あたりの機器費用は数10万円から数百万円と高価だ。会議参加拠点数が10拠点程度を超えるとMCU(Multi Control Unit:多拠点制御装置)という専用の装置が必要になる。

 MCUはとても高価だ。10拠点で500万円程度、20拠点だと1500万円程度になる。しかも、年間保守料がそれぞれ約100万円、約300万円とランニングコストも高額だ。会議録画などの機能を使う場合はさらにサーバを用意する必要がある。

MCU不要で軽快な機動性がクラウド型のメリット

 クラウド型テレビ会議システムの長所は、最新のクラウド技術の他、PCやタブレットが備える高性能なカメラやマイク、広帯域で安価になったモバイル回線などを生かし、安価で軽快な使い方ができることだ。複数のサービスを選択でき、どのサービスの構成も似ている。図2はZoom Video Communicationsの「Zoom」の例である。

図2 図2 クラウド型テレビ会議システムの構成 Zoom Video Communicationsの「Zoom」を示した

 図2中央上に示したMeeting Roomが先ほどのMCUに相当する機能を持つ。会議の主催者が利用の都度、Meeting Roomを開設し、ミーティングIDの入ったメールで社内外の参加者を招待する。Meeting Roomには主催者を含め最大100拠点が参加できる。参加者はURLをクリックするだけで簡単に会議に参加できる。

 料金はMeeting Roomを1つ開設できるライセンスが約5000円/月である。レガシーなテレビ会議システムで同時に100拠点が使えるMCUの費用は天文学的なものになるが、それに対してクラウド型の安さが際立っている。参加する側にはライセンスが不要なので、無料で会議に参加できる。Meeting Roomのライセンスを複数契約するとその数だけ同時に複数の会議を開催できる。現在、Zoomの最低契約ライセンス数は10ライセンスからとなっている。

 拠点側の端末として、図中の支社のように広い会議室ではPCに大型ディスプレイを3台まで接続して利用できる。制御にはZoom RoomsというiPadベースのコントローラーを使用する。Zoom Roomsはオプションとなっており、Meeting Roomとは別に月額約1万円の料金が必要だ。なお、中小拠点やテレワークのようにPCやタブレットを単独で利用する場合、Zoom Roomsは不要だ。

 本社にある既設のレガシーなテレビ会議端末は、Virtual Room Connecter (H.323/SIPコネクタ)を使って接続できる。

 このようにクラウド型テレビ会議サービスは専用端末が不要でPC、タブレット、スマートフォンでも会議に参加できるため、中小のオフィスや在宅勤務だけでなく、工事現場の作業者とつないで相談や支援に利用できる。レガシーなテレビ会議システムより格段に利用シーンが増えたのだ。

 レガシーなテレビ会議システムでは会議の録画にはそのためのサーバが必要だったが、ZoomはMeeting Roomの料金に録画(クラウド上またはローカルPC)機能が含まれている。録画以外にも表1のように豊富な機能が入っている

表1 表1 Zoomの機能 「*」を付けた機能はオプション料金が必要

 表2に主なクラウド型テレビ会議サービスを示した。どれも機能的にはほぼ同じだが、注目したい項目が「接続数増大に伴う遅延」だ。

 会議に参加する拠点数が増えると、サービスによっては遅延時間が大きく、支障が生じることがある。例えば、画面上でマウスを動かし「ここを見てください」と言うと音声はすぐに聞こえるのだが、映像の動きが2秒から3秒遅れることがある。これではどこを指しているのか分からない。拠点数が増えても遅延が小さいサービスを選択すべきだ。

表2 表2 クラウド型会議サービスの例

 今回はレガシーなテレビ会議システムとクラウド型テレビ会議サービスを対比して解説した。

 コストでも、大会議室から現場まで適用できる機動性や豊富な機能から考えても、レガシーなテレビ会議システムの時代は終わった。クラウド型テレビ会議サービスを働き方改革やプロジェクトの生産性向上に生かす時代になったといえる。積極的な活用をお勧めしたい。

筆者紹介

松田次博(まつだ つぐひろ)

情報化研究会主宰。情報化研究会は情報通信に携わる人の勉強と交流を目的に1984年4月に発足。

IP電話ブームのきっかけとなった「東京ガス・IP電話」、企業と公衆無線LAN事業者がネットワークをシェアする「ツルハ・モデル」など、最新の技術やアイデアを生かした企業ネットワークの構築に豊富な実績がある。企画、提案、設計・構築、運用までプロジェクト責任者として自ら前面に立つのが仕事のスタイル。『自分主義-営業とプロマネを楽しむ30のヒント』(日経BP社刊)『ネットワークエンジニアの心得帳』(同)はじめ多数の著書がある。

東京大学経済学部卒。NTTデータ(法人システム事業本部ネットワーク企画ビジネスユニット長など歴任、2007年NTTデータ プリンシパルITスペシャリスト認定)を経て、現在、NECスマートネットワーク事業部主席技術主幹。


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