ママさんの思いが詰まった「うんこボタン」――IoTで実現する赤ちゃんの健康管理ボタンと電池だけのハードウェア、情報をどう書き込む?(1/2 ページ)

144Labが開発した赤ちゃんの排せつ物を記録するIoT製品「うんこボタン」。144Labにとって初めてのIoT製品かつB2C向け製品ということもあり、開発にはさまざまな苦労があった。製品に詰められた、ある“思い”とは。

» 2018年08月29日 05時00分 公開
[中尾太貴@IT]
うんこボタン

 赤ちゃんの健康のバロメーターとして重要な役目を持つ、“うんこ”や“おしっこ”などの「排せつ物」。世の中のママさんの多くは、「いつ、うんこやおしっこをしたのか」という時刻、排せつ物の形や色などの情報を、メモ帳やスマートフォンで記録して、喋ることができない赤ちゃんの健康を管理している。

 しかし、メモ帳を探している間に情報を忘れてしまったり、スマートフォンを立ち上げ、ロックを外し、アプリを立ち上げるのは手間がかかったりする。どうすれば、正確に手間なく記録できるのか――排せつ物に関する情報をワンボタンで記録するIoT製品「うんこボタン」を開発した144Labに、開発時の苦労や思いを聞いた。

うんこボタンのきっかけは社長と技術者の雑談

144Lab マーケティングの平山留美氏

 144Labは、エンタープライズ向けソフトウェア開発に20年間携わってきたアクセンス・テクノロジーが、2017年7月に親会社であるスイッチ・イノベーションズに吸収合併される形で、組織を再編してできた企業だ。グループ会社の力を集結して、新たな事業を始めることを考え、144Labと新しい名前を付けて再出発した。

 「新事業を考えるとき、『エンドユーザーの声をもっと身近で聞ける仕事をしたい』とスタッフから要望が挙がりました。そこで会社として、B2Cを中心とした事業を行うという意向になりました」と話すのは、144Labでマーケティングを担当し、現在も子育てをしながら働いている平山留美氏だ。

 そのような形で始まったB2C事業だが、赤ちゃん向けの製品開発を始めたきっかけは、社長とエンジニアの雑談だった。

 「社長に赤ちゃんが生まれたタイミングということもあり、社長がオムツ替えの大変さを実感していました。さらに産院から『うんことおしっこの記録を付けてくださいね』と言われたものの、赤ちゃんのオムツ替えをして、記録のためにメモ帳やスマートフォンを使うのは物理的に大変で、忘れてしまうことが度々あったそうです。そこで、社長が『記録できるボタンがあるといいよね』とポロっと技術者に話したのがうんこボタンを開発するきっかけでした」(平山氏)

 加えて、グループで持てる技術を生かした事業を考えると必然的にIoT製品になったという。

 「144Labのグループ会社にはハードウェアに強いスイッチサイエンスと、機構設計や射出成形のノウハウを持つスイッチエデュケーションがあります。またエンタープライズ向けにソフトウェアを開発してきた技術力もありました」(平山氏)

ママさんにとっての使いやすさを徹底的に追求

 うんこボタンは、「うんこ」「おしっこ」と指定したボタンを押すと、Amazon Web Services(AWS)に構築したデータ記録用のインフラに信号を送ることができる製品だ。Webアプリを通じて、記録されたデータの確認もできる。

 うんこボタンを使うターゲットとして144Labが設定したのは、いわゆる「イクメン」が増えている昨今とはいえ、やはりママさんが中心だ。彼女たちに使ってもらうために、どのように工夫したのだろうか。

 「社内の育児経験者から情報を集めつつ、育児アプリをいろいろ試しました。うんこボタンは、単純な排せつ物の記録だけではなく、育児日記として使ってもらえるようにしたいという思いがありました。そのため、うんこやおしっこの表示を視覚的にかわいいアイコンにしました」(平山氏)

 また、使いやすさを考え、個人認証の基盤としてLINEを採用した。

 「例えば、仕事ではGoogleアカウントがよく使われるかと思いますが、普通のママさんは持っている人は少ないし、持っていてもよく分からない人が多い。LINEであればママさんの間での普及率も高く、使いやすさを考えたら自然に選択肢として挙がりました。またうんこボタンの『指定したLINEグループに通知する』機能を使うことで、家族にイベントを共有できます。もしママさんが外出していても、パパがおむつ替えをし、うんこボタンを押せば、イベントを共有可能です」(平山氏)

 この他にも、ママさんを思って使いやすくしているところは多い。

 「うんこボタンは、赤ちゃんが飲み込めない大きさにしています。ママさんにとって徹底的に使いやすく安全であるように、ママさん代表として、口うるさく要望を出しましたね」(平山氏)

課題は、どうやってWi-Fi情報を端末に書き込むか

144Lab 技術の入江田昇氏

 うんこボタンのハードウェアは、電池の収納部分と2つのボタンだけというシンプルなものだ。シンプルな構成だが、ネットワークにはどのようにつなぐのだろうか。

 「うんこボタンを家庭のWi-Fiネットワークにどうやって接続するかが一番の問題でした。入力用のインタフェースがボタンしかないうんこボタンにどのようにWi-Fiの設定情報を書き込むか、いろいろと試行錯誤しました」と話すのは144Lab 技術の入江田昇氏だ。

 結果、基板のマイクロコンピュータ(マイコン)にWebサーバを入れて、設定する方法を採用した。ユーザーはスマートフォンなどからAWS上にあるWebアプリを通じて、うんこボタンの設定を行うのだが、設定の途中でマイコン内のWebサーバにつながるようになっている。

 「うんこボタンは、終始同じユーザーインタフェース(UI)のWeb画面を見ながら、ユーザーがWi-FiアクセスポイントのSSIDとパスワードといった『秘密情報』を入力するという使いやすい仕組みになっています。最初のころは、スマートフォンの画面にバーコードを表示し、うんこボタン側に読み取り機能を付けて読み込ませたり、スマートフォンから超音波を出して、うんこボタンで認識させたりして、秘密情報を書き込む方法について、さまざまな実験を行いました」(入江田氏)

 試行錯誤の結果、マイコンにWebサーバを入れる方法を採用した。しかし実装には、ネットワークの疎通に関して課題があった。

 Webアプリが表示されている端末がAWS上のWebサーバにつながった状態から、うんこボタン内のWebサーバにつなげ直すとき、うんこボタン側のWebサーバが立ち上がっていない可能性がある。そのため、うんこボタン内のWebサーバが立ち上がっているかを確認してからでないと、秘密情報の設定画面に遷移しないようになっているという。

 また、秘密情報を入力し、動作確認後、うんこボタン内のWebサーバが止まるため、設定完了待ち状態のAWS上のWebサーバに接続を戻す必要がある。しかし、クラウド側のWebサーバにつなげることが確認できるまで、デバイス登録完了画面には遷移できないようにしている。このように、Webサーバの切り替えという複雑な処理を気にせずユーザーが秘密情報を設定できるように、疎通確認と画面遷移をうまく連携させている。

 「うんこボタンは、自宅で使う想定です。そのため、設定する端末が家のWi-Fiにつながったり、うんこボタンのWi-Fiにつながったりする可能性があります。接続先が切り替わるときに、AWSのWebサーバとうんこボタン内のWebサーバをスムーズかつユーザーが迷わず行き来できるように工夫しました」(入江田氏)

うんこボタンの機密情報を入力するときの流れ

 さらに、うんこボタンの設定に使う端末は、PCやスマホ、タブレットと多く、またOSも多種にわたる。その一つ一つでちゃんと設定できるように確認しながら進めるのに時間がかかったという。

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