ここまで、Build(構築)・Measure(計測)・Learn(学習)のサイクルを踏まえ、エンジニアチームがBuildを実現している前提の上で、Measureを組織に装着するプラクティスを紹介しました。しかし、Learnについては「一筋縄ではいかない」のが所感です。本稿では、問題意識と参考事例の提示に留めます。
というのも“仮説”を知らないと“検証”できないからです。Build・Measure・Learnに言及した書籍『リーン・スタートアップ』(日経BP社刊)では、最初に【ビジョン】→【戦略】→【戦術】の仮説を設計した上で、リスクの大きい要素について検証サイクルを回し、効率的に学習することが重要だと述べています。
筆者の担当現場では“仮説”をチーフプロデューサーに問い掛けました。回答を聞いたエンジニアたちが「いや、俺はこう思う!」と声を挙げて、対話の活性化につながりました。
事業担当役員主導の下、製品ブランドを再検討するワークショップの機会を得て、「どのような顧客に対してどのような価値を提供するのか」について、所属会社や部署を横断してプロダクトに関わる全員がそれぞれの意見をぶつけ合いました。
対話を通して分かったのは、各自の意見が主観まみれだったことです。
「真のデータ駆動組織を実現する」ということは、これらの問いに答えることなのかもしれません。
組織によるデータ活用を考えるときに、筆者は自身が所属するリクルートグループの取り組みが参考になると考えています。
リクルートグループは、これまでも社会にインパクトを生み出してきました。女性向け就職メディアを立ち上げることで女性の社会進出を支援したり、クーポン雑誌から予約サイトに提供価値を転換したりといった具合です。これらの背景にはデータ活用があったのだと筆者個人は解釈しています。
営業が店舗に出向いてデータ(事実)を収集してきました。データ(事実)を持ち寄って、視点の異なる部署間で意見をぶつけ合ってきました。結果として市場を再定義して、新しいビジネス価値を構築することにつながってきたのです。
営業以外でも本質は同じです。いわゆる「IT」としてのデータではないかもしれません。しかし、担当業務の中で何らかの形でデータを扱っているはずです。どんな業務であっても、直接的ではないとしても、不確実な市場環境に対して、学習と意思決定を積み重ねることで、顧客価値を創造することが期待されているはずです。
全ては顧客や現場を理解するところから始まります。
営業が足を使ってデータを集め、クライアントと徹底的に向き合い、勝ち筋を見つけ出す。そうやってリクルートのこれまでの50年を作ってきました。そしてメディアを通して世の中に影響を与えてきました。
エンジニアが手を使ってデータを集め、カスタマーと徹底的に向き合い、独自価値を見つけ出す。そうすることがリクルートのこれからの50年を作るはずです。そしてプロダクトを通して世の中に影響を与えていくはずです。
これはリクルートに限った話ではありません。「Software Is Eating The World」(ソフトウェアが世界を飲み込む)とはMarc Andreessen氏の言葉です。これからの世界を作るのは、誰よりも製品と顧客に精通したソフトウェアエンジニアの役割です。データ活用はその第一歩だと思っています。
本連載では「使われるデータ基盤」構築の事例を通して、データを活用するために乗り越えるべき壁について紹介してきました。
必ずしもそのまま当てはまるわけではないと思いますが、ご自身の担当に合わせながら読むことで、何かしらの気付きを得ていただけたなら幸いです。1つでも多くの開発現場がデータを活用し、世の中に良いプロダクトを提供するヒントになれたらと思っています。
最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。
※なお、本連載で紹介した取り組みは筆者1人の成果ではなく、ステークホルダー全員がベストを尽くしたことで実現しました。また、本連載の執筆に当たっても、多くの関係者のお力添えを頂きました。誌面の都合上一人一人の名前を申し上げることはできませんが、この場を借りてお礼申し上げます。
リクルートテクノロジーズ プロダクトエンジニアリング部所属
途上国から限界集落まで各地放浪、ベンチャーキャピタルから投資を受けての起業や会社経営、リクルートグループ会社における複数の新規事業の立ち上げを経て、現職。
現在は急成長プロダクトを対象に、システムアーキテクチャの再構築やエンジニアチームの立ち上げ、立て直しに従事。
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