価値をスピーディーに提供、改善するために不可欠なITの注目要素とは特集:日本型デジタルトランスフォーメーション成功への道(2)(1/2 ページ)

デジタルトランスフォーメーションではサービス価値をスピーディーに作り、改善し続けるアジャイル/DevOpsのアプローチが不可欠となる。外注文化、ウオーターフォールが一般的であり続けてきた日本企業において、この新しい開発、運用の仕組みに変革するためには、何が必要となるのだろうか。

» 2018年09月28日 05時00分 公開
[唐沢正和ヒューマン・データ・ラボラトリ]

 一般的な企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組み、差別化の源泉としていくためには具体的に何から始め、何をそろえ、どのようなステップを踏んでいけばよいのだろうか。

 DXではサービス価値をスピーディーに作り、改善し続けるアジャイル/DevOpsのアプローチが不可欠となる。外注文化、ウオーターフォールが一般的であり続けてきた日本企業において、この新しい開発、運用の仕組みに変革するためには、何が必要となるのだろうか。コンテナやコンテナ管理ソフトウェア、PaaSなど、アジャイル/DevOpsを実践するための各種技術は、一般的な企業にとっても活用のハードルが着実に下がりつつある。システムの特性やビジネスの状況に応じて複数のクラウドを使い分けるマルチクラウドも多くの企業の注目を集めている。そうした各種手段を使いこなしてビジネスの成果を獲得する上で、あらためて押さえておきたいポイントとは何か。

 「アジャイル開発/DevOps(CI/CD、パイプライン管理)」「クラウド移行/リフト&シフト」などを中心に、ガートナージャパン リサーチ&アドバイザリ部門 アプリケーション開発 リサーチ ディレクターの片山治利氏に、DX時代の価値創出の仕組みを具体的に聞く。

アジャイル開発、クラウド移行の現状

――DXには、アジャイル/DevOpsのアプローチが不可欠だが、導入状況はどうなっているのか。

ガートナージャパン リサーチ&アドバイザリ部門 アプリケーション開発 リサーチ ディレクターの片山治利氏

 DXのキーワードとして、クラウド上での開発やアジャイル開発、自動化ツールが注目を集めている。その中でも、ここ1年でアジャイル開発への関心が驚くほど高まり、熱を帯びてきているのを感じている。例えば、アジャイル研究会が複数立ち上がり、参加者が増えている。2018年7月に開催された「アジャイルジャパン2018」にも多くの人が集まり、かなり熱気があった。

 企業でも「アジャイル開発を始めなくては」という機運が急速に高まってきている。2018年5月にガートナーが実施したアジャイル開発に関する調査によると、2000人以上の従業員数規模の企業では、アジャイル開発について「採用中」または「採用予定あり」と回答した割合が70%近くに達していた。一方、企業規模が下がるにつれて、採用状況は低くなる傾向にある。

 大規模企業でアジャイル開発の関心が高まっている背景には、基幹系システムなど“モード1”型のSoRの領域にアジャイル開発を適用するというより、SoE領域の“モード2”での新たなデジタルビジネスに向けて、アジャイル開発を活用しようという意識が強まっていることがある。

 人材という観点では、大企業を中心に「センターオブエクセレンス」の取り組みが見られる。アジャイルに対して意欲を持った人材や、適性が高い若手の人材を集めてチームを作り、検討を始めている企業も増えている。

 業種としては、B2C系の企業でアジャイル開発の活用が進んでいる。例えば、通販サイトなど消費者が使うWebサイトやスマホサイトの開発の際には、従来のウオーターフォール型の開発では変化のスピードに対応できないため、アジャイル開発が必須になっている。また、銀行では、スマホ上で口座情報が確認できるアプリケーションの開発などに、アジャイルを活用するケースが見られる。

――クラウド上でのアプリケーション開発やクラウド移行についてはどうか。

 クラウド上でのアプリケーション開発では、全てをクラウド上に乗せる必要はないと考えている。「リフト&シフト」というキーワードもあるが、既存のシステムをクラウド上にリフト&シフトするのは思っているよりも難しい。例えば、銀行の勘定系システムをそのままクラウドに移行するのは、今の時点では現実的ではなく、クラウド上に移行する部分とオンプレミスに残す部分をつなぐという考えも重要になる。

 「クラウドネイティブ」とは、クラウド上でゼロからアプリケーションを開発するアプローチだが、「リフト&シフト」は、将来、目指すべきクラウドアプリケーションの姿にたどり着くための一歩として、クラウドにまずは乗せるというアプローチとして検討するとよいと考える。

クラウドに乗せる基準を持つ:選択肢の特徴(出典:ガートナー 2018年9月)

 国内で先行してクラウド上でのアプリケーション開発に取り組んでいる企業の事例を見ると、あるネット系銀行では、まず周辺業務や一般社内業務をクラウドに移行し、その成果を判断した上で、勘定系をクラウドに移行することの可否を検討するアプローチを採っている。

 一方、ある製造業の企業では、クラウドに移行すること自体にメリットがあると判断し、クラウド上へのリフトアップに取り組んでいる。クラウドへの移行では、サーバのイニシャルコストだけを比較してしまいがちだが、実際にはデータセンターでの設置代や電気代などさまざまなランニングコストがかかっている。イニシャルとランニングを含めたトータルコストを見ると、クラウドへの移行メリットは大きいという考え方だ。

 さらに、新しいビジネスを立ち上げるまでのスピード面でもクラウドにメリットがある。通常、オンプレミスでは、サーバを買って設置し、開発環境のテストから本稼働までに、かなりの時間と工数を要する。これに対して、クラウドであれば、迅速に新しい開発環境を用意できる。

 実際にその企業では、クラウドへの移行によって、初期投資と年間運用コストの大幅削減と開発のスピードアップを実現しているという。

 2011年の東日本大震災をきっかけに、データの安全な保管先としてクラウドがクローズアップされたこともあるが、その時点ではクラウドに基幹系データをバックアップすることよりも、オンプレミスのデータセンターを強固にする企業が多かったと聞く。そうした企業が今、クラウドに移行するタイミングを検討し始めているようだ。

 中小企業の動きとしては、クラウド上でのアプリケーション開発はコスト負担が大きいため、オンプレミス環境で開発を行い、作ったアプリケーションをクラウド上にデプロイして動かすという傾向が強い。一方、営業系や顧客管理系のアプリケーション開発については、kintoneやSalesforceを採用するというケースも増えている。

――先行企業では、どのようにアジャイル開発を進めているのか。

 アジャイルで新しいサービスやアプリケーションを開発するアプローチとしては、全体を作って最適化する手法と、機能ごとに作っていく手法の2つがある。前者は、ある程度全体を作ってから、実際にユーザーに利用してもらい、そのフィードバックを基に修正していく手法で、数カ月のサイクルになる。一方、後者は、入力画面を2週間で作るなど、アプリケーションの機能を小分けにしてスプリントやイテレーションという形で開発を進めていく手法だ。

 また、B2C系で、消費者が使う画面に関わるアプリケーションの開発では、変化に素早く対応できる開発環境が必要になる。そのため、この開発にはCI/CDツールが使われるケースが多い。頻繁にアプリケーションの変更、リリースを行い、そこで良い結果が得られたら次の開発に生かしていく。これを繰り返していくアプローチにCI/CDが適している。

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