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» 2018年09月28日 05時00分 公開

価値をスピーディーに提供、改善するために不可欠なITの注目要素とは特集:日本型デジタルトランスフォーメーション成功への道(2)(2/2 ページ)

[唐沢正和,ヒューマン・データ・ラボラトリ]
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アジャイル開発に取り組む上で押さえるべきポイント

――日本企業では、開発に外注を使うことも多いが。

 アジャイル開発では、全てのプロセスを内製化する方がやりやすいといわれる。自社のIT戦略の一環として、意欲的なエンジニアやプログラマーを集めてアジャイルチームを作り、「センターオブエクセレンス」という位置付けでユーザー部門と話をしながら案件単位で開発を進めることができる。

 しかし、現実的には全て内製化するのは難しく、外注に頼らざるを得ないケースも多いのが実情だ。外注を使ってアジャイル開発に取り組む場合には、例えば「販売管理システムの開発」など、プロジェクト単位でSIerに開発を任せることになる。この時のポイントとしては、最初に目指すべきゴールをしっかり決めて、要件定義を固めた後に、実装部分をアジャイル開発で仕上げるアプローチがよいと考えている。

 また、外注を使うときの契約形態は、従来のようにSIer側が成果物に責任を負う請負契約ではなく、発注側も責任を負う準委任型や派遣契約型が適している。SIerに丸投げするのではなく、発注者側が主体性を持って、双方が満足するかたちでプロジェクトを進めていくことが、外注を使ったアジャイル開発を成功させるポイントになる。

――アジャイル開発でも、外注を使う際に品質管理が重要になる。ここでのポイントは何か。

 スピード感のあるビジネスを行うためにアジャイル開発を採用している企業では、もはや「アジャイル開発は当たり前」という感覚だが、そうではない企業にとって、アジャイル開発はウオーターフォール開発との比較対象にとどまっているのが実情だ。特に、アジャイル開発は、品質面や失敗のリスクに不安を抱いている企業が多く、実際に「アジャイル開発の品質管理をどうしたらいいのか」という質問も増えてきている。

 アジャイル開発の品質管理のポイントとしては、最後の本番環境に乗せる際に、リリース判定をしっかり行うことが重要だ。また、スプリントやイテレーションについては、それぞれの単位ごとに要件を決めて、進捗(しんちょく)を小まめにチェックしてほしい。最後に1回だけチェックするやり方だと、もしそこで成果物が間違っていたら、もう一度スプリントをやり直すことになってしまう。アジャイル開発は、“最後までほったらかしにしない”のがポイントだ。

――ウオーターフォール型からアジャイル型へ、移行するにはどのようなプロセスが考えられるか。

 “モード1”型アプリケーションでは企業が、ウオーターフォール型を基本としつつ、ペアプログラミングや朝会などアジャイル開発のプラクティスを部分的に導入するというアプローチがある。

 アジャイル開発をよく理解している企業であれば、スクラムやレビュー、チケット管理などの手法まで含めて議論できるが、そうでない企業は“アジャイル”という漠然とした言葉だけで判断してしまう傾向がある。そこで、必要に応じて、できるところからアジャイル開発のプラクティスを取り入れていくことで、従来の開発手法を踏襲しつつ、よりスピード感のある開発へと移行していくことができると考えている。

テクノロジー優先ではなく、ビジネス優先で

――「センターオブエクセレンス」の取り組みが進んでいる大企業がある一方で、調査結果にもあった通り、そもそもIT人材の少ない中小企業は、DXやアジャイル開発になかなか踏み出せない現状がある。どう取り組んでいけばいいのか。

 中小企業だけではないが、社長を含めてビジネス部門側が強力なリーダーシップを持って、トップダウンでアジャイル開発を推進していくことが重要になる。

 ボトムアップの進め方もあるが、その場合は会社のカルチャーによって左右される。IT部門からビジネス部門への意見が通りやすい企業であれば、ボトムアップも可能だが、多くの企業は難しい。例えば、IT部門が「アジャイル開発をやりたい」といったら、「やってみよう」と背中を押してくれるビジネス部門や経営層ならばよいが、IT部門がアジャイル開発を積極的に推進しようとしても、「なぜアジャイル開発なのか」「失敗したらどうするんだ」などと言って、ビジネス部門や経営層がアジャイル開発を断念させてしまうケースもある。

 つまり、IT部門が主導して、アジャイル開発の技術や体制を整えると同時にビジネス部門や経営層の意識改革を行うことも重要だ。

 アジャイル開発に成功している企業の共通点としては、組織全体が危機意識を持って取り組んでいることが挙げられる。ある企業の事例では、設備の事故対応で活用するアプリケーションの開発にアジャイルを採用した時の決め手になったのが、組織全体の「やらなくてはいけない」という危機意識と、スキルを持ったスタッフの存在だったという。危機意識を持った経営層が、その意識をいかに社内全体に共有できるかがアジャイル開発成功のカギになってくる。

 この時に、今度はIT部門がブレーキ役になってはいけない。ビジネス部門が旗を振っているのに、IT部門がアジャイル開発のリスクを過度に挙げたり、基幹系システムの面倒を見るので手が回らないといって協力しなかったりするケースもある。これでは、ビジネス部門からIT部門が見放されてしまい、シャドーITが増えることにもつながってしまう。

――DXに向けて、IT部門はどのような役割を担っていけばいいのか。

 これについても、テクノロジー優先ではなく、ビジネス優先で考える必要がある。例えば、中期経営計画で5年後に売り上げを5倍にするという目標があったら、それを達成するためにIT部門として企業の目標にどう貢献できるのかを考える。そして、その手段として、「開発手法にアジャイルを採用する」「営業成績を上げるためにIoTやクラウドを活用する」「業務効率を高めるためにチャットを利用する」など、必要となるテクノロジーを検討していく。

 企業全体の方向性を見据えながら、DXに向けたIT戦略を考え、主導していくのがCIOの大きな役目だと思っている。

――これからDXに取り組む企業に向けてアドバイスを。

 DXに先進的に取り組んでいる企業を手本にして組織体制や開発手法、活用するテクノロジーを検討していくとよい。

 一つ例を挙げると、プロジェクト単位ではなく、プロダクト単位で動くという考え方を取り入れている企業がある。プロジェクト単位の動きでは、開発が終わるとそこで解散になるが、プロダクト単位では、開発した後もメンテナンスなどでそのプロダクトに関わり、柔軟に変化に対応していく。これはサイロ型になるリスクもあるが、プロダクト単位の意識を持ちながら、それを横ぐしで標準化するチームもそろえることで回避することが可能だ。

 例えばあるサービス業の企業では、事業部ごとにIT人材がいて柔軟に開発を行いながら、それを横串で見る組織が標準化を行っていた。

 私が以前勤めていた外資の証券系の企業も、これに近い動きをしていた。株式担当、債券担当、決済など、それぞれの業務領域にITチームがいて、ビジネス部門の要求に迅速に対応する。一方で、全社的な標準を見ている部隊が存在していた。スピード感が必要なビジネスには、プロダクト単位の動きが適しているといえる。

 最後にアジャイル開発について補足すると、これからアジャイル開発に取り組む企業は、第一歩として企業を取り巻く現状に危機意識を持つことが重要だ。そして、危機意識を持った人が起点になって全社に意識共有を広げ、そこからアジャイル導入の計画を立て、IT部門やCIOの協力を得ながら人材や組織を固めていく。体制が固まってきたら必要な技術基盤をそろえていく。まずは、アジャイルに集中できるチームから開発をスタートし、そこで得たフィードバックを次の開発に生かしていく。これを繰り返していくことで、理想の組織や開発体制ができていくと考えている。このステップはDXの推進にも言えることである。

特集:日本型デジタルトランスフォーメーション成功への道 〜“他人事”ではないDXの現実解〜

テクノロジーの力を使って新たな価値を創造するデジタルトランスフォーメーション(DX)が各業種で進展している。だが中には単なる業務改善をDXと呼ぶ風潮もあるなど、一般的な日本企業は海外に比べると大幅に後れを取っているのが現実だ。では企業がDXを推進し、差別化の源泉としていくためには、変革に向けて何をそろえ、どのようなステップを踏んでいけばよいのだろうか。本特集ではDXへのロードマップを今あらためて明確化。“他人事”に終始してきたDX実現の方法を、現実的な観点から伝授する。




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