ブロックチェーンは長期的に見ると、サプライチェーンに破壊的な変革をもたらす可能性がある。だからこそ、現在ITベンダーが宣伝しているブロックチェーンソリューションの検討は、注意をもって行うべきだ。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
サプライチェーンに関する最高責任者(以下では、Chief Supply Chain Officerの略で「CSCO」と呼ぶ)の中には、「ブロックチェーン」という言葉を聞いたことがある人がいるかもしれない。だが、ブロックチェーンが何であり、何でないか、今後数十年にわたり、サプライチェーンにどのような影響を与えるかを深く理解している人はほとんどいない。サプライチェーンリーダーは、取り組みを拙速に進めて時間、資金、リソースを浪費しないように、ブロックチェーンの可能性にどう対処すべきかを知っておく必要がある。
「CSCOは、ブロックチェーンは付加価値の面で『主にビジネスにどう貢献するのか』というテーマを明確に設定しないまま、ブロックチェーンの実験をするのは避けなければならない。ブロックチェーンはベストのソリューションではないことが多いだろう」と、Gartnerの主席リサーチアナリストを務めるアレックス・プラダン氏は指摘する。
ブロックチェーンでは、何らかの取引に関し、非中央集権的な分散型のデジタル記録を作成する。この記録は匿名で、改ざん耐性に優れ、変更できない。この技術は、成功した全ての取引が分散ネットワーク全体にわたる複数の場所に記録、保存されるようにすることで、未知の、またはよく知らないパートナーの間での信頼を確立する。またブロックチェーンでは、取引情報の正確さと完全性を実証するために複雑なメカニズムが働く。理論上は仲介者が存在しない。実際は必ずしもそうとは限らないが、この理論上の特徴のおかげで犯罪者の介入や不正な取引の機会は大きく減少する。
ブロックチェーンの可能性を踏まえ、多くのIT企業が企業ニーズをサポートするためにブロックチェーンサービスを提供し始めている。だが、CSCOは注意する必要がある。ベンダーが宣伝しているようなタスクの一部は、既存のさまざまな成熟した技術で処理できるからだ。ブロックチェーン技術の実験は、この技術を適用する対象がブロックチェーンソリューションを本当に必要としている問題に限って行うべきだ。
例えば、多くの企業が完全に非中央集権的なブロックチェーンではなく、許可型ブロックチェーンの考え方を試し始めている。許可型ブロックチェーンは、どのような情報を共有するかについて、全員があらかじめ合意している既知のユーザーのグループによって利用される。だが、この種の例では、企業は他のソリューションの方が同等以上に便利であることが考えられるにもかかわらず、ブロックチェーンを使用するリスクを冒すことになる。
サプライチェーンの複雑化が進む中、ブロックチェーンはサプライチェーンにおける詐欺、可視性/トレーサビリティ(追跡可能性)、効率性という問題の優れた解決策になる可能性がある。サプライチェーンでは、原材料や商品が多くのサプライヤー、メーカー、地理的な場所、ステークホルダーを経由するようになっている。これは、サプライチェーンにおいて商品や原材料を扱う企業やその他の企業が、問題が発生していてもそれに気付いていないかもしれないということを意味する。理論上、企業はサプライチェーンの全てのパートナーを知っているはずだが、今日では、現実は必ずしもそうではないかもしれない。
ブロックチェーンが広く導入されるのは10年以上先になりそうだが、CSCOは、自社でのブロックチェーンの潜在的用途を検討し始めるべきだ。ただし、その検討に当たっては、懐疑的な視点を堅持しなければならない。今のところ、簡単に購入できるブロックチェーンツールはなく、この技術を現在手掛けているベンダーの多くは新しいさまざまなプロバイダーに取って代わられるだろう。それでも、今から同僚とともにブロックチェーンの可能性を探り、この技術の応用について正式な議論を開始するのが得策だ。
出典:Why Blockchain Matters to Supply Chain Executives(Smarter with Gartner)
Brand Content Manager at Gartner
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