ブロックチェーンは、まだ成熟した技術ではない。それでも、CIOはブロックチェーンへの取り組みを開始し、戦略的なビジネス展開を探るべきだ。今後の脱中央集権的オペレーションや分散型ビジネスモデルなどがもたらす脅威を軽減するために、計画を立て始める必要がある。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
世界で年間4兆ドル以上の商品が出荷されており、その80%が海上輸送されている。こうした海運ビジネスでは膨大な事務処理が発生する。全ての積み荷の処理と管理に必要な取引書類関連業務のコストは、物理的な輸送コストの5分の1に達すると推計されている。
2018年初めに、ある大手物流企業と大手IT企業が、グローバル取引をデジタル化する共同プラットフォームをブロックチェーン技術を使って開発することを決めた。2社はこのプラットフォームにより、全ての取引を対象に共有可能な不変の記録を確立し、全ての各種パートナーがその情報にいつでもアクセス可能にしようとしている。
ブロックチェーンがビットコインや金融セクターの枠を超えて進化する中、大企業はこの技術の活用によりビジネス課題のソリューション構築を目指すとともに、ディスラプション(破壊的変革)をもたらす新しいビジネスの機会を探ろうとしている。
CIOは、「ブロックチェーンを自社に導入できるかどうか、導入できる場合、どのように導入できるか」といった、企業としての判断に貢献しなければならないというプレッシャーにさらされている。
多くの場合、ビジネスソリューションを実現するのにブロックチェーンは必要なく、既存技術で事足りる。実際、Gartnerは2018年末までに、名前に「ブロックチェーン」を含むプロジェクトの85%が、実際にはブロックチェーンを使うことなくビジネス価値を提供するだろうと予想している。だが、ブロックチェーンについて議論すれば、協調的な議論を行う機会が開ける。特筆すべきは、同様の業務課題を抱える同業他社と議論する機会も生まれるということだ。
CIOに必要なのは、「ブロックチェーンとは何か」「どのような仕組みか」、そしてさらに重要なこととして、「ブロックチェーンをどのように利用すれば、ビジネス上のミッションクリティカルな優先事項を推進できるか、あるいはビジネスに破壊的な価値をもたらすことができるか」を、理解することだ。
「ブロックチェーン技術は、ビジネスやコンピューティングの新しい枠組みを支える一連の機能を提供する。だが、企業がブロックチェーンを活用するには、脱中央集権的なビジネスモデルやプロセスも受け入れなければならない。それは一筋縄ではいかない」と、Gartnerのリサーチバイスプレジデントを務めるラジェシュ・カンダスワミ氏は語る。
ブロックチェーンはさまざまな課題ももたらす。例えば、(業界コンソーシアムなどでの)協調と競争をどう両立するかという戦略的な課題や、技術的な相互運用性の欠如、セキュリティ問題、さらには欧州連合(EU)の「一般データ保護規則(GDPR)」への対応などの隠れたデータ管理課題がある。
しかしGartnerは、ブロックチェーンが生み出すビジネス上の付加価値が、2026年には3600億ドルをわずかに上回り、2030年には3.1兆ドル以上に急増すると予想している。これは、企業が将来価値を実現するために、そして脱中央集権的オペレーションや分散型ビジネスモデルなどがもたらす競争上の脅威を軽減するために、計画を立て始める必要があるということを意味する。
ブロックチェーンは、いずれは「プログラマブルエコノミー(プログラムが可能な経済)」と「スマートコントラクト(契約を自動化する仕組み)」を通じ、経済と産業を再定義するかもしれない。だが現時点では、この技術は成熟していない。
ブロックチェーンは基本的に、時系列でグループ化され、合意に基づいて検証される取引のブロックで構成されている。こうしたブロックは鎖のように連結され、全てのやりとりを記録し共有される。これにより、よく知らない、または未知のパートナーの間で信頼が確立される。情報は多数の異なる分散した場所に保存され、中央の仲介機関(銀行や企業)は存在しない。この情報が保存される台帳が、「イミュータブル(変更不能)」な取引記録を形成する。この取引記録は最初の取引、つまり取引の発生までさかのぼることができる。
セキュリティは、データの永続性、復元性、不変性を保証する暗号プロトコルおよび技術で確保される。
ビットコインは、ブロックチェーンの最も有名な例だろう。この場合、暗号通貨の取引記録を“ブロックのチェーン(chain-of-blocks)”というデータ構造に格納する。そして取引記録の塊であるブロックが数分ごとに追加され、際限なく連鎖する。この台帳は、各取引の順序と全ての“コイン(情報ビットとして保存される仮想通貨)”を記録する。
ビットコインの台帳は、「信頼できない環境における信頼できる記録の確立」という目標の達成を、大量の計算能力と当事者または「マイナー(採掘者)」による取引の検証と確認に依存している。この検証と確認は、金銭的報酬と引き換えに取引記録をブロックチェーンに追加する構造化されたプロセスで行われる。
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