アクセンチュアが発表した調査レポートによると、時代のニーズに合わない教育や企業研修システムによって、デジタル技術によって可能になる経済成長を達成できない恐れがあるという。新しいスキルを効果的に習得するには、教育や企業研修を3つのアプローチで変革することが必要だとしている。
アクセンチュアは2018年11月21日、時代のニーズに合わない教育や企業研修システムによって、デジタル技術がもたらす可能性がある経済成長を達成できない恐れがあるとの調査レポート「求められる教育の変革(It's Learning. Just Not As We Know It.)」を発表した。
同社によると、主要20カ国(G20)のうち14カ国において、AI(人工知能)などの先端技術への投資により、今後10年間に11兆5000億ドルのGDP成長が見込まれる。
だが、企業や教育機関が新しい学習アプローチを積極的に取り入れない限り、求められるスキルとのギャップを埋めることは難しく、経済成長の可能性を逸してしまう恐れがあるという。
同レポートは、アクセンチュアがG20若手起業家連盟(G20 YEA)と共同で作成したもの。先端技術によって職務や役割がどのように変化するかを明らかにした上で、新たな職務や役割の実行に求められる新しいスキルを特定している。そして、これらの新しいスキルを効果的に習得するには、教育や企業研修を3つのアプローチで変革することが必要だと指摘した。
同レポートでは、労働時間の50%以上について先端技術による高度化の余地があり、同30%以上に自動化の可能性があるとしている。例えば米国では、看護師などのケア&サポート関連の職種が、先端技術の導入によって生産性を最も高める余地がある分野であり、労働時間の60%以上について高度化できる可能性があるという。この分野では人材の増員も見込まれており、先端技術を活用するためのスキル習得に向けた適切な投資が不可欠だとしている。
他の分野も同様で、同レポートでは、ほぼ全ての職種で「高度な論理的思考」「創造性」「社会的知性」「センシング力」といったスキルの重要性が高まりつつあるとしている。これらのスキルはいずれも座学ではなく、実践や経験を通して習得されるものだ。
そこでアクセンチュアでは、求められるスキルとのギャップ解消に向けて、(1)経験学習の加速化、(2)組織ではなく個人に焦点を当てる、(3)AI弱者に学習の機会を与える、という3つのアプローチを推奨している。
アクセンチュアの戦略コンサルティング本部で人材・組織管理のマネジング・ディレクターを務める宇佐美潤祐氏は、「日本ではリスキルの重要性がことのほか大きい。AIなどの先端技術を活用できる人材を効率的に育成できなければ、日本の経済成長に10年間で5440億ドル、GDPで毎年マイナス1.6ポイントの悪影響を与えるという調査結果が出た。この数値は調査対象14カ国の中で、中国、インド、米国、ブラジルに次ぐ5位の規模だが、逆に言えばAIの活用余地が大きいことを意味している。経営のトップアジェンダとして位置付けて、取り組みを進めることが重要だ」と述べている。
一方、同マネジング・ディレクターを務める植野蘭子氏は、「日本企業は、もともと現場でのOJT(On the Job Training)に根差した経験学習や、幅広いスキルセットを持った人材の育成に長けており、リスキルの土壌はある。AI時代に求められる新たなスキルセットを明確に定義できれば、むしろ今後、日本企業の優位性の源泉になる可能性がある」と述べている。
今回の調査対象国はアルゼンチン、イタリア、インド、英国、オーストラリア、カナダ、中国、ドイツ、日本、ブラジル、フランス、米国、メキシコ、南アフリカの14カ国。
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