ディスラプション時代のリーダーシップについて、IBMのロメッティCEOが語ったGartner Insights Pickup(88)

IBMのジニ・ロメッティCEOは、市場の急速な変化に対応し、IBMのトランスフォーメーションに取り組んできた。同氏は米国オーランドで開催されたGartner Symposium/ITxpo 2018の基調インタビューで、クラウドやAI、ディスラプションへの対応について、自身の見解を語った。

» 2018年12月14日 05時00分 公開
[Heather Pemberton Levy, Gartner]

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 デジタルディスラプション(創造的破壊)が進む中、IBMという巨艦の方向転換を進めてきた会長、社長兼CEO(最高経営責任者)のジニ・ロメッティ氏。「その過程で得た教訓は何か」との質問を受けて同氏が話した最初の答えは、多くのCEOが実感していることだろう。

 「今ほど変化の速い時代はかつてない。このことははっきりしている」。ロメッティ氏は、2018年10月に米国オーランドで開催されたGartner Symposium/ITxpo 2018の基調インタビューで、会場に詰めかけた9000人以上のCIO(最高情報責任者)を前にそう語った。

 「以前は一つずつ順番に変化が起こるように思えたが、今ではさまざまな変化が一斉に起こっている。その勢いはとどまるところを知らない」(ロメッティ氏)

 Gartnerのアナリストでバイスプレジデントのであるデニス・ゴーハン氏と、Gartnerのアナリストでディスティングイッシュト バイスプレジデント アナリストのダリル・プラマー氏の数々の質問に対し、ロメッティ氏は、「IBMは今後も消費者向け製品に手を広げるのではなく、エンタープライズ市場に特化する」と明言した。さらに、IBMがこの基本方針の下で、企業がクラウドの活用や人工知能(AI)を利用した開発、ブロックチェーンや量子コンピューティングの実験の計画や実行をどのように支援するかを説明した。

 ロメッティ氏は、「紛れもなく、われわれはマルチクラウドの世界にいる」と語り、IBMの顧客は平均して6つのクラウド(パブリック、プライベート、ハイブリッド)を使い、これらのクラウドで1000のアプリケーションを運用していると述べた。

 さらに同氏は、IBMを指揮する中で得た最大の教訓を明らかにした。

デジタルディスラプションから学んだ教訓

 ロメッティ氏は市場の急速な変化を目の当たりにして、IBMが組織として迅速に仕事を行い、変革を進めるよう後押しした。だが、スピードを徹底的に追求した2年間を経て、社員が疲弊していることに気付いた。そこで経営陣は、新興企業の変革とスピードへのアプローチを調査し、仕事のやり方を改革した。

 ロメッティ氏はデザイン思考の推進にかじを切った。

 経営チームはできるだけ多くのデザイナー(1万5000人)の採用に尽力し、全ての開発プロジェクトへのデザイン思考の浸透につなげた。これにより、アウトサイドインの共感アプローチが高い優先順位を占めるようになった。ロメッティ氏も認めているように、これはエンジニアリング主導の企業では、必ずしも重視されていないアプローチだ。

 また、実現可能な最小のプロダクトを立ち上げ、部門横断型チームの新設やコロケーションを可能にすることで、アジャイル開発も推進された。さらにIBMは、オープンワークスペースを用意するために不動産に投資し、多彩なツールを開発し、顧客からの評価の向上に向けて、カスタマーエクスペリエンス指標としてネットプロモータースコア(NPS:顧客推奨度)を採用した。

多様性と包含が成功への原動力

 ロメッティ氏は、IBMにおける多様性と包含の歴史を、同社の企業価値向上の原動力として強調した。IBMは、純粋な能力だけでなく人間性も評価して社員を採用しており、そのおかげで社員は包含的な環境に身を置くことができると、同氏は述べた。

 「IBMは社員が『ありのままの自分を出しながら仕事ができる』と思えるようにすることに力を注いでいる。より多様な社員、より包含的な社員が、より良い成果を生み出す」(ロメッティ氏)

 IBMは、女性の再就労を支援する“リターンシップ”プログラムも開始している。女性の間では、新しい技術を学習するのは難しいと尻込みして再就労を自ら断念する傾向があることを知り、IBMは女性の技術学習をサポートする3カ月間のコースを設計した。

技術の責任ある管理

 「クラウドやAI、ブロックチェーン、量子コンピューティングは、企業が重点を置くべき分野だ」と、ロメッティ氏は語った。

 「AIは仕事、産業、職業を一変させるだろう」と同氏。ただし、全ての仕事がAIに代替されるわけではない。AIの最も効果的な実装には、AIによる人間の能力の拡張が含まれるからだと、同氏は説明した。だが、テクノロジー企業は技術を適切に管理し、信頼と透明性の原則を確立しなければならないという。

 ロメッティ氏は、ディスラプションが進む中で組織をリードするための原則として、以下の3つを挙げた。

  1. 新しい技術の目的は、人々の能力を拡張することにある。われわれは作り手であり、人間の能力と連動して機能する技術を開発する責任を、真剣に受け止めなければならない
  2. データは、所有者と作成者のものである
  3. 技術は、人々に不安を与えないように、説明可能性と透明性を確保する必要がある

 「企業に対する評価は、企業が従っている技術原則が良いものか、悪いものかによって左右される」(ロメッティ氏)

出典:IBM’s Ginni Rometty on Leading Through Disruption(Smarter with Gartner)

筆者 Heather Pemberton Levy

Vice President, Content Marketing


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