【USB】第6回 USB充電を大きく変える新規格、USB PDとは?ITの教室(2/3 ページ)

» 2018年12月14日 05時00分 公開
[塩田紳二]

USB PDのパワールールとは

 USB PDの仕様について解説する前に、利用者として最低限理解しておくべきUSB PDの知識である「パワールール」について解説しておく。

 USB PDに関する記事や記述などでは、このパワールールを知らずに書かれたものが少なからずあり、混乱の元になっている。USB PDではパワールールが適用されるため、USB PD電源(ソース)の選択に関してユーザーが仕様や実装を考慮する必要はない。

 簡単にいうとパワールールとは、USB PDの電源は、PDP(Power Delivery Power)と呼ばれる「ワット数」を表記することで基本仕様を記述するものだ。1つの数値のみで、自動的に出力電力に関する基本仕様が一意に決まる。このため、PDPが60Wと表記されたUSB PD電源アダプターは、他の同じくPDP 60Wと表記された電源アダプターと基本仕様は同一で原則交換可能である。ユーザーがUSB PDの電源装置を購入/選択する場合は、出力できる電圧や電流がいくらまでというかは気にすることなく、ワット数でのみ製品を選択すればよい

 もし、自分が利用している機器が40Wと表記されたUSB PD電源(出力はUSB Type-C)を利用しているのなら、40W以上の表記を持つUSB PD電源は必ず互換性を持つ。この条件を満たせば、ユーザーは、出力電力や電圧といったUSB PD機器の仕様を考える必要はない。なお、表記未満のUSB PD電源が使えるかどうかについては、USB PDの仕様上「不明」で、機器側の仕様に依存する。

 どの場合であっても「安全」なのかどうかは、USB PDの問題ではなく、電気機器としての問題である。一般に消費者が入手できる電気機器に関しては、安全であることが法的に求められているが、法律が追い付かない部分(例えば、モバイルバッテリーが電気用品安全法の対象になったのは2018年2月のこと)や、海外からのオンライン通販などもあり、必ずしも「安全」な製品だけが流通しているわけではないことに留意されたい。

USB PDのPDPと出力電圧のパターン USB PDのPDPと出力電圧のパターン
USB PDのパワールールは、対応電源に表記されるワット数(PDP)と出力電圧のパターンを1つに固定し、ユーザーがPDPのみに着目して選択を行えるようにしてある。初出時のグラフに誤りがありました。最新に規格に合わせてグラフを修正しました(2018/12/15)

 例えば、A社のPCに付属していたUSB PD電源が60Wであれば、同じく60WのUSB PD電源を利用するB社のPCでも利用可能である。また、表記ワット数の小さな電源アダプターをより大きなワット数の電源アダプターで置き換えることも問題がない(45Wの電源アダプターが付属するPCを、別の60Wの電源アダプターで充電してもよい)。

 パワールールは、USB PDで実装必須の固定出力の5V/9V/15V/20Vの電圧対応をPDP表記と連動させる。また、20V以外の出力電圧では、原則、最大出力電流は3Aまでとなっている。ただし、パワールールが既定するのは、あくまでもソースの基本仕様であり、USB PDで実装が必須とされている範囲のもののみである。

USB PD出力表記(PDP) 最大出力電流 備考
  5V固定 9V固定 15V固定 20V固定
15W未満 PDP÷5 A 15W以下のUSB PD電源は5Vしか出力できない。W数に応じた最大出力電流は15Wで最大3Aとなる
15W 3A
15Wを越え27W未満 3A PDP÷9 A 15Wを越えると5Vと9Vの出力が可能になる
27W 3A 3A
27Wを越え45W未満 3A 3A PDP÷15 A 27Wを越えると5V/9V/15Vの出力が可能になる。
45W 3A 3A 3A
45Wを越え60W未満 3A 3A 3A PDP÷20 A 45Wを越えると20Vの出力も可能になる
60W 3A 3A 3A 3A
60Wを越え100W未満 3A 3A 3A PDP÷20 A 60Wを越えると20Vで3A以上の出力が可能になる*1
100W 3A 3A 3A 5A 100WがUSB PDの最大出力電力*1
USB PDのパワールール
*1: 3A以上の出力には5Aケーブルの利用が必須

 USB PDでは、メーカーによる独自拡張も認めている。このため、例えば5Vで3A以上の出力ができるUSB PD電源を製造することも可能だ。しかし、それはメーカー独自拡張としてUSB PDの仕様内で、ソースとシンクでネゴシェーションした上で動作させるべきもので、PDPやパワールールは、こうした独自拡張には関わらないが許容はしている。

 シンク側は、ネゴシェーション時に通信で必要な電力をソースに対して要求する。この要求は、必ずしもパワールールに従う必要はなく、任意の電圧を指定できる。しかし、これに対してソース側も自身が提供可能な電圧の中から要求に最も近い電圧を応答する。シンク側は、ソースの応答を受け入れる必要がある(受け入れなければ電力の供給は受けられない)。このとき、ソース側は、パワールールに含まれない独自の電圧などの要求に応えることは可能である。ただし後述するようにUSB PDとしては電圧可変のプログラマブル電源をオプション仕様として用意している。

 一般にこうした機能拡張は、PCと付属するACアダプターなど、特定の機器との組み合わせでのみ有効になるものだ。USB PDとしては、任意の機器の組み合わせで汎用的に利用できる独自拡張はあり得ず、汎用的に利用したいのであれば、手続きを経てUSB PDの必須仕様にとして取り込むべきという立場だ。

 PDP表記が15W未満の場合は、5Vしか出力ができない点に注意したい。9Vの出力はPDPが15W以上から可能になる。15W以上27W未満のUSB PD対応電源は、5Vと9Vの出力は可能だが、15V/20Vの出力は行わない。同様に27W以上で、5V/9V/15Vの出力が可能になり、45W以上で5V/9V/15V/20Vの出力が可能になる。さらに60W以上となると、20Vで3Aを超える出力も可能になるが、この場合、USB Type-C 5Aケーブルを使わないと20V3Aを超える電力を出力できない。また、USB PDの仕様から表記されるW数の最大値は100Wとなる。

 USB PDでは、電圧固定出力は必須となっているが、オプションで、出力電圧を可変できる「プログラマブル電源」に対応することもできる。この場合、5V/9V/15V/20Vは、可変電圧の上限を示す「代表値」となる。プログラマブル電源とは、シンク側の要求に応じて、出力電圧を可変できる電源装置だ。このようにすることで、シンク側が必要とする電圧を提供できるため、シンク内で、電圧を落とす回路などが不要になり、電力の利用効率が上がる。

PDP(W) 最大出力電流 備考
  5Vプログラマブル 9Vプログラマブル 15Vプログラマブル 20Vプログラマブル  
  3.3〜5.9V 3.3〜11V 3.3〜16V 3.3〜21V  
15W未満  PDP÷5 A 15W以下の場合5Vプログラマブル電源のみ
15W 3A
15Wを越え27W未満 (3A) PDP÷9 A 15Wを越えると9Vプログラマブル電源が可能(5V可変電源はオプション)
27W 3A
27Wを越え45W未満 (3A) PDP÷15 A 27Wを越えると15V可変電源が可能(9V可変電源はオプション)
45W 3A
45Wを越え60W未満 (3A) PDP÷20 A 45Wを越えると20V可変電源が可能(15V可変電源はオプション)
60W 3A
60Wを越え100W未満 PDP÷20 A 60Wを越えると20V可変電源で3A以上の出力が可能になる。ただし3A以上は5Aケーブルが必須
100W 5A
USB PDのパワールール(プログラマブル電源の場合)
PDPが15Wを越える場合、下位クラスのプログラマブル電源を持つことも可能だが3.3Vから出力可能であり、2つ以上のプログラマブル電源を持つ必要はない。

 なお、パワールールの出力電流の3Aという数字は、USB Type-Cケーブルの仕様から決まるものだ。USB Type-Cケーブルが流すことができる電流の上限値は電圧にかかわらず最大3Aとされており、それよりも大きな電流を流すことができる仕様を持つUSB Type-Cケーブルは、コネクターにeMarkerを内蔵し、シンク側と通信を行って、5Aケーブルであることを認識させることが必要になる。

 シンクは、認証チップの入った5Aケーブルでないことが確認できた場合には、3A以上の電流を出さない。USB PDでは、この他、デバイス間のネゴシェーションの結果として、必須の固定電源、オプションのプログラマブル電源以外の電力定格を持つ電源を提供することもできる。ただし、USB Type-Cの電流に対する定格が3Aまたは5Aであるため、これを超える電流を出力することはできない。

 USB PDの電力を消費する側(シンク)は、ソースに対して任意の電圧を要求できるが、原則、実装が必須である5V/9V/15V/20Vの固定電圧を受け入れて動作しなければならない。ただし、USB PD電源から受け取った電力を内部で変換して別の内部電圧として利用することは可能である。シンクは、オプションで対応可能なUSB PD仕様外の電圧を利用することは可能だが、USB PDに準拠しているならば、そのときのみしか動かないものであってはならず、必須仕様の電力を受け入れて動作しなければならない。

 このため、USB PDでは、「電源(ソース)のPDP(W数) >= シンクのPDP」という関係さえ満たしていれば、必ず動作できるようになっている。また、仕様としての互換性から、この関係を満たせばソースとシンクは同一メーカーの製品である必要もない。

 USB PDでは、USB PDに対応した機器同士で利用可能だが、USB PDに対応しない機器との関係も明確に定義されている。原則、USB PD対応機器とUSB PD非対応機器の接続では、USB 2.0/3.2または、USB-BCあるいはUSB Type-Cで既定される5V電圧のみが利用される。

 USB PD非対応のホストに、USB PD対応の電源が接続された場合、どのような場合でもUSB 2.0/3.2または、USB-BCあるいはUSB Type-Cで既定される5V出力で動作しなければならない。USB PD対応ホストは、非USB PD対応デバイスに対してUSB 2.0/3.2、またはUSB-BC、USB Type-Cで既定される5Vのみを出力しなければならない。

パワールールの具体例

 実際のところはどうなのだろうか。ここでは、USB PD電源を採用する2つのPCでその動作を見てみることにする。現状、PCに付属のACアダプター(USB PDのソース)は、出力電力表示はあるものの、どの製品でも明確にそれがUSB PDの供給電力であることを表示してはいない。また、PC側(USB PDのシンク)に関しても供給電力を明記していない。カタログなどに「USB Power Deliveryに準拠」といった表記がないことも多く、対応仕様も不明であることが多い。USB PDに関する情報が混乱しているところから、誤用などによる事故には関わりたくないというメーカーの雰囲気が感じられる。

 評価に利用したのは、日本HPの「HP x2 210 G2背面カメラ付き(以下、HP x2)」とレノボジャパンの「ThinkPad X1 Yoga 2017年モデル(以下X1 Yoga)」の2機種である。なお、どちらの機種も本体にも電源にもスペックなどにUSB PDに準拠しているという表記はない。

HP x2 210 G2背面カメラ付き HP x2 210 G2背面カメラ付き

ThinkPad X1 Yoga 2017年モデル ThinkPad X1 Yoga 2017年モデル

 HP x2は、45WのACアダプターが付属し、ACアダプター単体でも購入できる。一方、X1 Yogaは購入時に65Wと45WのACアダプターが選択でき、どちらのACアダプターも単体で購入が可能だ。

HP x2 210 G2背面カメラ付きの45W ACアダプター HP x2 210 G2背面カメラ付きの45W ACアダプター

ThinkPad X1 Yoga 2017年モデルの65W ACアダプター ThinkPad X1 Yoga 2017年モデルの65W ACアダプター

 つまりシンク側となる本体は、HP x2とX1 Yogaのどちらも45Wに対応している。USB PDのパワールールによれば、どちらの機種も、45W/65Wの電源で動作できるはずだ。実際に双方のACアダプターを入れ替えても充電が可能だった。45WのUSB PD電源は5V/9V/15Vの出力が可能で、65Wではさらに20Vの出力が可能になる。違いは20V出力の有無である。

 X1 Yogaの付属ソフトウェア(Lenovo Vantage)には、接続されているACアダプターの表示を行う機能がある。これによればX1 Yogaは、65Wと45WのACアダプターを判別していることが分かる。

Lenovo Vantageの画面(65W ACアダプター接続時) Lenovo Vantageの画面(65W ACアダプター接続時)

Lenovo Vantageの画面(45W ACアダプター接続時) Lenovo Vantageの画面(45W ACアダプター接続時)

 それでは、64Wと45Wの電源を接続したとき、供給電圧はどうなっているのだろうか? USB PDに対応したUSB電圧計を使って見てみよう。

 まずは65W電源を接続した場合、出力電力は19.6V(USB PDでは±0.5Vの誤差が許容されている。また、校正された電圧計での測定結果でもない)となり、おそらくUSB PDの20Vが選択されている。

X1 Yogaに65W電源を接続した場合のUSB電圧計の値 X1 Yogaに65W電源を接続した場合のUSB電圧計の値

 次に45Wの電源を装着してみる。今度は14.5Vとなり、15V出力を選択している。つまり、X1 Yogaは接続された電源を判別し、可能な電力を引き出していることが分かる。

X1 Yogaに45W電源を接続した場合のUSB電圧計の値 X1 Yogaに45W電源を接続した場合のUSB電圧計の値

 HP x2では、どちらをつないでも14.6Vまたは14.7Vで15V出力になっていた。HP x2には接続されているACアダプターの供給電力を表示する機能はないが、IBM製のACアダプターを接続すると「純正の電源を接続して」といったメッセージを表示する。

HP x2に65W電源を接続した場合のUSB電圧計の値 HP x2に65W電源を接続した場合のUSB電圧計の値

HP x2に45W電源を接続した場合のUSB電圧計の値 HP x2に45W電源を接続した場合のUSB電圧計の値

HP x2にIBM製のACアダプターを接続した際のメッセージ HP x2にIBM製のACアダプターを接続した際のメッセージ

 振る舞いだけを見れば、どちらもUSB PDに準拠しているようだが、レノボのACアダプターは「for Lenovo information equipment only」とあり、HPのものにも「for use with HP Product only」といった表記がある。ただ、オンライン通販サイトなどを見ると、こうした機器向けのUSB PD電源なども販売されている。このあたりに関しては、PCメーカーよりはサードパーティー製品の充実に期待したいところだ。

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