トラブルの原因は何だったのか、どうすれば良かったのか。実在する開発会社がリアルに体験した開発失敗事例を基に、より良いプロジェクトの進め方を山本一郎氏が探る本連載。今回は「発注」にまつわる失敗談を紹介します――えっ、発注“する”方? 開発会社なのに???
自社サービスの立ち上げを考えているシステム開発会社は多いが、エンジニアがそろわない、予算が捻出できない、マネタイズできるサービスを思い付かない――などなど、実現までのハードルは高い。中には、エンジニアを採用するためにウケの良い「自社サービスの立ち上げ」を会社概要に書いたものの、全く着手もしておらず、本気度を疑いたくなるケースもある。
その一方で、「考える前に飛べ」を実践する企業もある。「たとえエンジニアがいなくても、外部に発注すれば良いではないか」という発想は、一見無謀にも見えるが合理的でもある。ただし、発注の仕方は知っておくべきだろう。
システム開発会社比較検索サービス「発注ナビ」ユーザーのシステム開発会社の方々に過去の失敗事例をお話しいただき、プロジェクト運営の勘所を読者諸氏と共有し、これから経験するトラブルを未然に防ぐことを目的とする、連載「開発残酷物語」。
今回、ご登場いただくのは、無謀なチャレンジによる失敗から多くを学び、今では外部から開発を請け負うまでになった「CLOCK・IT」、代表取締役 飯沼優輔氏、同取締役 東俊輔氏、同システムインテグレーション事業部 チーフ 上甲晋資のお三方だ。聞き手は、残酷ナビゲーター山本一郎氏。
大学生にターゲットを絞った広告入りノート「0円ノート(応援ノート)」や、DSP広告運用支援サービス「Target ON」などの広告関連サービスを展開する「CLOCK・ON」グループが新たな事業領域に進出するため、2017年に設立したのがシステムソリューション企業の「CLOCK・IT」だ。
「Target ONが成功したことを受け、自社で何かWebサービスを立ち上げたいと思いCLOCK・ITを設立しました」(飯沼氏)
「ほうほう」(山本氏)
「ですが、当初はお金もノウハウもなかったため、まずはSES(System Engineering Service)で足元を固めようということになりました」(飯沼氏)
「ええ……(困惑)」(山本氏)
スタートアップ企業が抱える問題の一つが当座の運転資金だ。自社サービスや請負開発の場合、サービス開始や納品まで入金がない。そのため、毎月のキャッシュが入ってくるSESは手を出しやすい領域である。SESとは、請負契約のように完成品を納品するのではなく、業務の遂行そのものを委託される準委任契約のビジネスだ。
しかし、SESをやろうにも人がいない。そこで求人広告を出し、エンジニアを採用しよういうことになったという。
「SESや請負の開発をやりながら、自社サービスの開発もやっていきたいと考えていたのですが、いざ採用してみると消極的な人が多かったのです」(飯沼氏)
ここで言う“消極的な人”とは、与えられた仕事はこなすが、それ以上のことはしない人を指す。こうしたエンジニアは、請負の開発や自社サービスの開発、ましてゼロから何かを立ち上げるというケースにはマッチしないことが多い。
実際、請負の開発案件で裁量を持たせて開発に臨ませようとしたところ、何をしたらいいのかが分からず、勤怠に問題が出てしまったエンジニアもいたという。
SESで売り上げを伸ばすためには、デキるエンジニアをそろえ、一人当たりの単金を上げるか、人数を増やすしかない。しかし、できるエンジニアを育てるには時間がかかるし、人数を増やすには定着率を高めなければならない。
そのような中、もともとパッケージソフトウェアの開発エンジニアだったという上甲氏が入社した。自社パッケージの開発経験があるため、自社サービスの開発にも積極的に取り組んでくれたという。
「今だから言いますが、(上甲氏の採用は)奇跡に近い出来事でした。求人広告では、客先常駐と自社プロダクトの開発と両方やるとうたってはいたものの、応募者たちも半信半疑だったと思います」(飯沼氏)
しかし上甲氏が同社を選んだのは、そこではなかった。
「(求人広告に)唐揚げの写真が前面に押し出されていて、面白そうな会社だと思い、応募しました。そうしたら本当に自社サービスの開発もあって……(笑)」(上甲氏)
「何で唐揚げにつられて会社選びしとるんですか」(山本氏)
「何ででしょう……自分の人生を預けてみようと考えたときに取っ掛かりのある組織だと思えたのが『唐揚げ』だった感じでしょうか」(上甲氏)
CLOCK・ONグループは唐揚げ屋も運営しており、社員の親睦会などもそこで行っているため、他社の求人広告との差別化という意味で、唐揚げの写真を打ち出したそうだ。
こうして、SESと請負開発と自社サービス開発を同時並行で進めていくスタイルがスタートする。しかし、SESは客先に常駐するため、客先と自社を行き来するエンジニアの負担が大きい。そこで、同社は方針を転換し、2018年の6月から自社持ち帰りの請負開発メインに切り替えたという。
「最初のうちはリモートワーク的なやり方でやらせてもらい、段階的に持ち帰れるようにしていきました。お客さまの信頼を得るまでが大変でした」(飯沼氏)
こうしてエンジニアの働きやすい環境を整備し、エンジニアの数も増やしていくことに成功した。
「でも、請負の案件の中にはドキュメントのないものも多く、要件が曖昧だったりして、結局、週に2〜3日は客先に出向いていたりします(苦笑)」(上甲氏)
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