「イノベーション立県」を目指す広島県。地域や企業の課題を解決するために行っている3つの取り組みとは。
ひろしまサンドボックスは、2018年5月17日に発表された「共同×テスト」を実現するプロジェクトだ。2018年8月には、5つのプロジェクトが選定され、前編では、その中から3つのプロジェクトを紹介した。この3つは、主に産業の課題を解決することを目的としている。
ひろしまサンドボックスでは将来、選定されたプロジェクトを中心に複数の産業でたまったデータを収集、結合し、業種を超えた新しいサービスの創出を目指している。そこで重要になるのが、複数の産業で生まれたデータを結合するための「データ連携基盤」だ。後編で紹介する残り2つのプロジェクトはこのデータ連携基盤に関するものである。
ひろしまサンドボックスで選定された4つ目のプロジェクトは、「広島県民の医療や健康等個人情報にブロックチェーン型情報管理と情報信託機能を付与した情報流通基盤を構築する事業」だ。同プロジェクトでは、広島大学が代表を務め、OKEIOS、NTTドコモ、DPPヘルスパートナーズでコンソーシアムを構成している。
「個人に由来するデータ」は、価値が大きいものの、個人情報保護の観点から、データを横展開したり、活用したりするのが難しい。そこで同プロジェクトは、多くのプラットフォーマーやコンソーシアムが蓄積する個人情報のデータを、個人の承諾に基づいて、異業種やさまざまな企業間で交換し、活用できるようにする情報基盤サービスの開発を目指す。また実現するに当たり、「個人情報」に当てはまるデータに対して、「情報信託機能」を付与し、データを流通させやすくする仕組みも考えている。情報信託機能は、個人が自分の持つデータを把握して、セキュアに管理するとともに、個人の判断に基づいて第三者にそのデータを提供し、対価としてトークンを受け取る仕組みだ。
同プロジェクトでは、まず健康に関する情報で実証実験を進める。例えば、個人がアプリを使って、病院や医者の検診記録やその検査結果、病歴、購買記録などのデータを管理するのだ。コンソーシアムは、個人がアプリ上で行うデータの保管、利活用に関する指示に従い、データを研究機関や企業に提供。データを使う研究機関や企業はデータ活用の対価として、個人にトークンを付与できる。
この仕組みを実現するために同プロジェクトでは、情報基盤サービス内のデータの標準化や運用ルール作り、情報信託機能の開発などを主な事業として進める。最終的には全国展開を考えているものの、向こう3年の目標としては仕組みを開発、最適化し、広島県内全域で検証することだという。
最後に紹介するのは「異なるプラットフォーム間での有機的なデータ結合を行い、新しいサービス創出に取り組める、データ連携基盤(仮称)の構築とその実証」だ。同プロジェクトは、ソフトバンクが代表を務め、広島銀行、中国電力、イズミでコンソーシアムを構成している。
広島県では、人口減に伴う地方経済の縮小、グローバル化によって、県内事業者数の減少や技術者の転出が起きている。また、産業イノベーションを興し、雇用創出、地域経済を活性化するためのソフトウェア基盤が未整備という課題もあった。
そこで、同プロジェクトでは、広島サンドボックスの将来像である“分野を超えたデータ連携”を実現する基盤の構築とその実証を推進する。データ利用権限設定といった、技術仕様を固めたり、データ基盤が将来、自立して運営できるための仕組み作りを実証を進める中で検討し、推進したりするという。
実証に関しては、コンソーシアムに参加する各企業のデータを活用して、新しいサービスの開発を進めていく。ソフトバンクは、携帯端末のデータを基にした人流データ、広島銀行は金融関連データ、中国電力はインフラ(電力)関連データ、スーパーマーケットを運営するイズミは購買関連分析データを持つ。これらのデータを、データ基盤を通じて組み合わせて新しいサービスを開発するのだ。
例えば、「県民スコアリングによる県内サービスの利便性向上サービス」だ。これは、電力関連、金融関連、購買分析の情報など、県民の生活に関わる消費データから、県民個人をスコアリング。県民は、そのスコアを基に、施設利用料や商品購入、電気代などの割引といった恩恵を受けられる。また、このサービスでは、ボランティアや節電を行うといった地域貢献を指標化し、県民に還元するという。
同プロジェクトは、データ連携基盤を開発するとともに、企業が保有するデータおよびオープンデータを活用した研究や新サービスを作り、地域に貢献することを目指す。そして、データ連携基盤そのものを事業化して、広島県発の事業としてグローバルに展開したいという。
ひろしまサンドボックスでは、5つのプロジェクトを選定した第1次公募に続いて、既に第2次公募を進めている。そこで、第1次公募の反省と今後の期待について、広島県 商工労働局 イノベーション推進チーム担当課長(地域産業デジタル化推進担当)金田典子氏は次のように話す。
「第1次公募の反省は、それぞれのプロジェクトが『大手企業が主導のように見えてしまう』ことです。それにより、ひろしまサンドボックスの応募を考えている中小企業やベンチャー企業が、『やっぱり大手ベンダーじゃないと駄目』と感じてしまう懸念があります」(金田氏)
しかし、ひろしまサンドボックスは、もっと多くの中堅中小企業およびベンチャー企業の参加を願っている。
「第1次選考では、ひろしまサンドボックスが自治体のプロジェクトであるためか、実現性を重視した提案が多かった。もちろん実現性も大切だが、革新性にもっと目を向けて、何回失敗してもいいので、チャレンジングなプロジェクトを期待している」(金田氏)
また県内企業にITを浸透させる必要性から始まったひろしまサンドボックスだが、「技術ありき」ではいけないという。
「ひろしまサンドボックスをあえてITとの掛け算で表現すると『地域課題×IT』です。AIや5Gなどさまざまなテクノロジーが生まれているが、どちらかというと『デザイン思考』が重要だと思っています。課題をしっかり捉え、テクノロジーを使って解決方法をデザインする。そして新しい価値を生み出していってほしいと考えています」(金田氏)
製造業をはじめとする県内企業にITを浸透させるために始まったひろしまサンドボックスだが、広島県はその他にも「イノベーション・ハブ・ひろしまCamps」「ひろしまデジタルイノベーションセンター」という取り組みを行っている。次は、この2つを紹介する。
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