技術発展が目まぐるしい中国では、AIにおいても激しい開発競争が繰り広げられている。今後、さまざまな産業でも活用されるであろうAIサービスに必要なこととは何なのだろうか。
昨今、中国をはじめ米国や日本など世界各国で激しい人工知能(AI)開発が繰り広げられている。ディープラーニングによるブレークスルーに伴い、第三次AIブームと騒がれるようになり、多くのサービスにAIが搭載されるようになった。
「ITの発達により年々計算処理能力が高まり、急速にAIの商用化が進んでいる」と語るのは、Huawei 法人向けICTソリューション事業グループ グローバルマーケティング担当プレジデントの邱恒(キュウ・コウ)氏だ。
「多くの産業でAIが求められている。AIへの投資額について、Citibankの2018年3月の調査によると、政府機関では2016年は5億ドルだったが2019年には10億ドルに、製造では2016年は9億ドルだったが2019年に40億ドルになると予想。その他の業界でも、AIに対する投資額は軒並み増えると予想されている」
AIの発達により、翻訳や顧客プロファイリング、画像認識などさまざまな機能が実現し、多くのサービスに搭載されつつある。しかし、このような既存のAIサービスでは、産業用ニーズには対応できないという。
「昨今、さまざまなAIサービスが登場している。しかし一つのAIサービスに一つのAIモデルしか搭載されておらず、サービスとしては『断片的』で、産業用としては不十分だ。複数のAIモデルを統合した、企業のニーズを満たすAIサービスはまだ登場していない」
産業用AIサービスを開発するに当たり、足りないものとは何なのだろうか。
「一般的なAIサービスには、教育用の『データ』、モデルを構築するための『コンピューティングリソース』、AIを構成する『アルゴリズム』が重要だ。一方、複数のAIモデルを統合した産業用AIサービスには、それら要素に加え、産業ごとに異なる要件を把握する『産業理解』、複雑に絡み合う複数のAIモデルを管理する『共通プラットフォーム』、AIサービスを実際に使う『活用(Huaweiでは実践という言い方)』の3要素が必要になる」
ではHuaweiは、どのように産業用AIサービスを開発しているのだろうか。
そもそも日本では、スマートフォンで名が知られるHuaweiだが、自社でAI対応IPコアのチップセットを開発し、サーバやストレージ、ネットワークといったハードウェアやクラウドサービスなどを提供している。また、これらのリソースを生かし、デジタル世界と現実世界を結び付け企業のデジタル変革を進めるAI用「デジタルプラットフォーム」を構築している。さらにHuaweiは、グローバル企業として製品の輸送といった「物流」や、部品調達などに伴う「支払い」など幅広い業務を世界各地で行う。
Huaweiは、これらの幅広い業務から得た「ノウハウ」とAI用デジタルプラットフォームを生かし、パートナーと一緒に産業用AIサービスを開発。それを自社で活用しながら、改善を繰り返すことで、最終的にはビジネスで通用するAIサービスの開発を目指している。
AIサービスとしてHuaweiが活用する業務の一つに、物流における「トラックの荷積みの効率化、コスト削減」がある。従来、トラックの荷積みでは「熟練従業員の経験」と「ソフトウェア」による予測が行われていた。そのため、従業員によって荷積みの精度にばらつきがあったという。さらに荷積みには、国や地域によってルールに違いがあったり、車種ごとの寸法によって入る荷積み量が異なったりと、考慮すべき点も多かった。
そこでHuaweiは、パートナーと協力し、現地の法規制や、コンテナのタイプ、車両種別、パレットデータなどを基に最適な荷積み方法を算出するAIサービスを開発した。
「Huaweiでは、このAIサービスを活用することで、荷積み量の予測精度が、導入前の30%から80%に上がり、1年当たりの物流コストを1000万ドル以上削減した」
またHuaweiは、請求書のリスクコントロールにAIサービスを活用する。リスクコントロールとは、請求書の不備や不正取引を判断し、「高リスクの請求書」「中〜低リスクの請求書」など、リスクごとに請求書を分類することだ。
今まで人が請求書のリスクコントロールを行っていたが、時間もコストもかかる上に、誤分類が発生する可能性があった。そこで、「請求書とその請求書提出の特徴を認識するモデル」「リアルタイムで請求書違反を検出するモデル」「請求書の検査不要のリスクを特定するモデル」などの複数のAIモデルを活用し、自動でリスクコントロールを行う請求書分類AIサービスを開発した。
「このAIサービスを活用し始めてから、分類の手間が大きく減少し、作業時間を短縮できた。また検出率の改善により、高リスクと判断される請求書が増え、リスクを正確に顕在化できるようなった」
Huaweiでは、自社だけではなく都市の政府機関と協力して、スマートシティーの実現のために、街でもAIサービスを活用する。
例えば、AIによるリアルタイムビデオ認識を使い、交差点における交通システムを開発した。この交通システムは、中国で問題となっている「交差点で車両が歩行者に道を譲らない」という交通違反を行った車両の運転手の顔を、AIで認識し、交差点に設置されているディスプレイに掲示するものだ。またビデオに表示された、事故になる可能性の高い運転を行っている運転手をAIで識別。その結果を警察官の端末に通知するという。
「深センの46カ所にこのシステムを設置したところ、2日で1032ケースもの違反があった。またディスプレイに違反者の顔を載せる効果と、違反者への注意喚起や罰金などによって、交通違反がシステム設置前と比べて15%減った」
Huaweiでは、多くのAIサービスを社内で活用し、成功を収めたサービスを自社以外にも提供している。これにより、さらなる改善点を探りサービス強化を図っている。
コウ氏は、最後にAIサービス開発におけるポイントを話した。
「産業用AIサービスに必要な3要素として産業理解、デジタルプラットフォーム、活用を挙げたが、その中で、活用は特に難しい要素だ。導入事例を参考に、AIサービスを使いたいと考える企業は多いが、先行したいという企業はなかなかいない。しかし、率先してAIサービスを活用するパイオニア企業がいないと、開発は進まない。パイオニアとなる企業を見つけて、一緒にチャレンジしていく。それが、産業用AIサービスの発展のキーポイントになるだろう」
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