後藤さんは、マルチデータ分析プロとして、ヤフーのサービス開発に参加している。時には店舗の現場で利用者の行動を直接観察し、時にはビッグデータから現れるユーザーの行動と向き合う。データに語ってもらう秘訣(ひけつ)と、チームの作り方を聞いた。
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後藤真理絵さんは「文系です」と自分を表現する。
大学時代、「デザイン思考」の世界に触れた。卒業論文は「デザイン思考からのものづくり」をテーマとして書いた。デザイン思考は今では要注目のキーワードと見なされているが、後藤さんが就職活動をしていた時期には、「デザイン思考」と言っても通じなかった。そこで広告制作会社に就職した。「大学時代にプログラミングもやっていたが、職業にできるほどのスキルではないと思い封印した」そうだ。
広告制作会社の仕事はWeb広告の制作が中心で、データ分析ともデザイン思考とも関係はなかった。その一方で、「期日内に成果物を制作するためのプロジェクトマネジメントをたたき込まれた。体で覚えた」と振り返る。マーケティングリサーチのためにデータを活用する仕事でもマネジメント力は求められる。その力を身に付ける上で、この経験は有用だったと考えている。
2009年ごろ、デザイン思考が話題となり盛り上がった。この時期、後藤さんは通信会社系の企業に転職し、リサーチャーとしてアンケート調査などの定量調査やインタビュー調査などの定性調査を取りまとめ、分析レポートを書く仕事をしていた。注目が高まったビジネスエスノグラフィの仕事に手を挙げ、大学時代を思い出しながら関わった。
後藤さんはビッグデータに関わる仕事がしたいと2014年にヤフーに転職した。最近までマーケティング部門の一員として全社のマーケティング施策の効果測定を担当するデータアナリストに従事していた。今は、新規サービス開発にも関わり、企画のためのデータ分析やサービス提供後のユーザーの行動分析も担当する。
後藤さんは、以前は企業から受託してリサーチを実施する立場だったが、今は事業会社でのデータ分析を行っている。専業のリサーチャーと事業会社のデータ分析官ではどのような違いがあるのだろうか。
「終わりがなくなりました」と後藤さんは答える。「以前は依頼された仕様で調査レポートを納品して終わりでしたが、今はアクションに結び付くデータ分析が必要で、永遠に課題と向き合い続けます」。しかし、それを「楽しい。試行錯誤のしようがあります」とも言うのだ。
後藤さんは「PARC Certified Fieldworker」(認定エスノグラファ)の資格を持ち、資格を生かす副業としてデザイン思考ワークショップの会社「Design for ALL」も経営している。
デザイン思考とは「デザイナーの思考回路を解明し、デザイナーではない人でも応用できるようにする手法」と後藤さんは説明する。デザイン思考のプロセスには複数のフェーズがある。共感、分析、アイデア出し、プロトタイピングなどだ。
「共感」のフェーズでは、ユーザーが自覚しておらず言語化できていない事柄も引き出そうとする。そこでインタビューやエスノグラフィが重要な手段となる。エスノグラフィは、ユーザーがどのような課題を抱えているか仮説を立てることに向いているリサーチの手法の一つだ。
ユーザーの現場に入り込み、観察し、多面的に行動を見る。大事なことはユーザーに寄り添って共通の体験をしてみることだ。「ユーザーに寄り添う姿勢はとても大切です。大学時代にそう教えられました。ヤフーの業務でも、そこは大事にしています」と後藤さんは話す。その一方で、仮説を立ててそれを検証する科学的な考え方も求められる。
ビジネスのための分析では「ビジネス目的を達成するためのアクションにつながるか」が一つの基準になる。仮説と違う結果が出る場合もあるが、その場合は、想定外だったユーザーの行動や、起こった事象といった「事実」を深堀りして説明する。大事なのは、仮説から外れた結果だったとしても、次の発想に至る上で有効な「付加情報」をなるべく伝えることだ。その際には必ずしも定量的なログデータの集計だけではなく、定性的なユーザーの行動や意見も多面的に集めて、次の仮説を立てやすくすることを意識している。
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