トラブルの原因は何だったのか、どうすれば良かったのか。実在する開発会社がリアルに体験した開発失敗事例を基に、より良いプロジェクトの進め方を山本一郎氏が探る本連載。今回は、外国人エンジニア同士の感情のもつれが由来のトラブルと、ユーザー企業の営業部門(発注元)と運用部門(納品先)の合意が取れていなかったために納品後1年以上もシステムが塩漬けにされたトラブルの2本立てでお送りします。
「サンシステム」は、大手ソフトウェア開発会社でSEやFE(フィールドエンジニア)として開発、営業、新規サービス立ち上げを経験し、その後、物流企業の社内SEとしても活躍した経験を持つ林健司氏が、2015年に独立開業したシステム開発会社だ。
残酷ナビゲーター山本一郎氏が、システム開発会社比較検索サービス「発注ナビ」ユーザーのシステム開発会社の方々に過去の失敗事例を伺い、プロジェクト運営の勘所を読者諸氏と共有し、これから経験するトラブルを未然に防ぐことを目的とする、連載「開発残酷物語」。
今回は、サンシステムの2つの失敗事例を紹介する。
1つ目は、海外オフショア開発での現地トラブル、2つ目は、ユーザー企業の経営層と現場の温度差から生じたシステム要件上のトラブルだ。いずれも開発プロジェクトが頓挫してしまう最も避けるべき事態を伴ったものだった。
サンシステムは、林氏の豊富な経験を生かし、システムコンサルティングからソフトウェアの受託開発までトータルに手掛けている。さらに、林氏の前職時代の人脈を生かし、創業当初から一部の開発をベトナム企業に委託する、いわゆる海外オフショア開発も行っている。
1つ目の失敗事例は、委託先のベトナム企業で発生した。
「現地でベトナム人エンジニア同士がケンカして、開発がストップしてしまいました」(林氏)
「ほう! つかみ合いとか殴り合いとかですか?」(なぜかうれしそうな山本氏)
「いえ、そこまでは至っていません」(林氏)
「そうですか……」(山本氏)
「しかし、ムードは険悪で、お互いが相手を『一生恨む』と言い合っていて」(林氏)
「おっ!」(山本氏)
「さらに『他社に移る』と言いだしたので、慌てて仲裁に入りました。彼らはケンカに関係のない他のメンバーまで引き連れて転職しちゃうことがありますので」(林氏)
「あぁ、分かります。私も、以前ベトナムでのオフショア開発関連の仕事に携わったことがあるのですが、彼らは地縁で動くんですよね」(山本氏)
「そうなんです。『誰それが働いているなら自分もここで働く』『誰それが辞めるなら自分も辞める』という話は珍しくありません」(林氏)
そもそも、なぜそのような険悪な事態になったのだろうか。
林氏によれば、それは1年から1年半のスパンで開発するプロジェクトだった。前述の「地縁で動く=突然辞める」リスクを鑑みて、「1人に任せるのはリスクが大きい」と考えた林氏は、多くのパートを2人体制にしたが、それがかえってアダになってしまったという。あるパートを開発している2人の間で意見が衝突してしまったのだ。
同社はベトナムの開発会社との間に日本の会社を1社挟んでいたが、意思伝達の効率面から自社の社員も現地に駐在させていた。
「意思伝達の効率面から、ベトナムには弊社の社員を駐在させていました。最初の2年ほどは私が駐在していたのですが多忙になったので、その頃は若手社員を駐在させていました。駐在といっても日本と行ったり来たりですが」(林氏)
ところがその若手社員が、現地のエンジニアをきちんとコントロールできなかった。そうして半年ぐらいたった頃、ベトナムのコーディネーターから林氏のもとに「すぐに来てほしい」と連絡があったのだ。
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