AI技術により、クラウドとエッジの双方がインテリジェント化されたコンピューティングプラットフォーム上で、地球上のあらゆる人々が、より多くのことを成し遂げられる世界を作る――近年のMicrosoftが掲げてきた、このミッションに向けたさまざまな成果が、急速に具体的な姿を見せ始めている。日本マイクロソフトが2019年5月末に開催した、開発者およびITエンジニア向けイベント「de:code 2019」の基調講演では、その一端が披露された。全体で約3時間に及んだ基調講演の中から、この記事では、主に直近の「オープン化」に関連した同社の動向と、「インテリジェントエッジ」にまつわる部分をまとめる。
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米国で毎年5月上旬に開催されるMicrosoftの開発者イベント「build」での発表内容を中心に、独自の情報も盛り込んで、日本の開発者およびITエンジニア向けに最新情報を紹介するイベントとしてスタートした「de:code」も、2019年で6回目の開催となった。
基調講演において、日本マイクロソフト 代表取締役社長の平野拓也氏は「地球上の全ての個人と全ての組織が、より多くのことを達成できるようにする」という、同社の企業ミッションを再度強調した。このミッションを果たしていくためのコアは「テクノロジー」であり、それをベースに構築された各種の「プラットフォーム」が、開発者やエンジニアに、そのテクノロジーを最大限に活用するための手段を提供する。
同社では、クラウドプラットフォームである「Microsoft Azure」を基盤とし、その上に「Microsoft Dynamics 365 & Power Platform」「Microsoft 365」「Microsoft Gaming」といった各プラットフォームを構築。これらを今後、より多くの開発者、ITエンジニアに開放することで、今後のビジネスエコシステムの中核を作りだそうとしている。
「Dynamics 365」は、ERP/CRMといった業務向けのアプリケーションサービス群。「Microsoft 365」は、WindowsやOffice 365にモバイルサービス、セキュリティサービスを付加した統合ソリューションの名称として既におなじみだろう。
「Power Platform」には、現在、ビジネスアナリティクスツールの「Power BI」、ワークフローエンジンの「Flow」、アプリケーション開発プラットフォームの「PowerApps」といった製品群が属している。これらの製品は、「Office 365」や「Dynamics 365」向けの拡張機能のような立ち位置にあったが、Microsoftでは、その適用範囲を広げ、Azure上で提供されるさまざまなサービスに対応する、総合的な機能拡張フレームワークに位置付けたい考えだ。
また、平野氏が「今後さらに注力する」と述べたのが「Microsoft Gaming」である。2019年5月17日に、Microsoftとソニーが発表した、Azureを用いたゲームやコンテンツのストリーミング分野および半導体とAI分野における戦略的提携に関連する領域であり、両社は今後、これらの分野についての共同開発、協業を推進していくとしている。
このソニーとの提携をはじめ、近年のMicrosoftは「オープン化」および「パートナーシップの拡大」に関する動きを加速させている。平野氏は、特にここ半年以内でのそうした動向についても、基調講演の中で紹介した。
2018年の「Microsoft Ignite」で発表された、Adobe SystemsやSAPらとの提携による「Open Data Initiative」については、2019年3月に新たに12社の参加が決定した。Microsoftが提唱するデータフォーマット「Common Data Model」(CDM)を通じた、クラウドベースでの大規模なビジネスデータの活用や再利用が、より現実味を増してきている。
その他、2019年5月に入ってからは、Microsoft CEOのサティア・ナデラ氏が、Red HatやDell Technologiesといったベンダーのカンファレンスへ次々に登場して話題を集めた。Red Hatとは、Azure上で提供されるOpenShiftのマネージドサービス「Azure Red Hat OpenShift」について、Dell Technologiesとは、Azure上でのVMwareソリューション「Azure VMware Solutions」について、それぞれ提携の発表を行っている。
「Microsoftは、オープンなプラットフォームに、多くのパートナーを巻き込むことで、ダイナミックにビジネスを展開している」(平野氏)
平野氏は、現在の日本マイクロソフトが注力するテーマとして「日本の社会変革に貢献できるイノベーションの推進」を挙げた。その中で、特に産業分野に関する取り組みとして触れられたものの一つが「Azure Smart Storeリファレンスアーキテクチャ」である。
これは、主に流通小売業界向けのシステムについて、共通化できる業務シナリオ、サンプルアプリケーション、サンプルコードなどを無償で公開するというもの。例を挙げると、スマホ決済や商品マスター、トランザクション管理などに関するサンプルが用意されているという。これらを活用することで、流通小売業の企業は、新しいサービスの開発期間や開発、運用コストを削減しつつ、AIやIoTを用いたより先進的なソリューションの導入や、付加価値の高い業務への投資が行いやすくなるとしている。
また製造業における、先進的なMicrosoftテクノロジーの採用例として紹介されたのが、トヨタ自動車による「Mixed Reality(MR)」の導入だ。トヨタ自動車では、同社の作業員による故障診断や点検といった業務にMicrosoftのMRデバイス「HoloLens 2」を活用する。2019年内に本格的な導入を開始する予定だ。
トヨタ自動車では、作業員がMR環境において、自動車内部を見ながら作業手順書や修理書を参照できるコンテンツを「Dynamics 365 Guides」を使って作成。併せて、AIによる作業ミスや作業漏れの検出機能の開発、検証を行っている。これによって、70〜80%の作業効率向上を見込んでいるという。
「HoloLens 2」については、基調講演の最後のブロックで、Microsoftのテクニカルフェローであるアレックス・キップマン氏による紹介も行われた。キップマン氏は、HoloLens 2が目指したゴールについて「より深い没入感」「より高い快適性」「価値を生み出すまでの時間の短縮(Time to Value)」の3つを挙げた。
初代の「HoloLens」と比べ、「HoloLens 2」では、ハードウェア的な機能向上や性能強化を行っていることはもちろんだが、それに加え、プロトタイプ的な位置付けが強かった初代に対し、ビジネス分野への導入を迅速に行うための環境を、リリース時から用意している点も重要な進化のポイントとなっている。これは、キップマン氏の言う「Time to Value」を体現したものだ。
例えば、トヨタ自動車の導入事例で登場した「Dynamics 365 Guides」もその一つだ。Dynamics 365では、これ以外にも、HoloLens 2を通じて遠隔地にいる人との共同作業を支援する「Remote Assist」や、店舗やショーケースのレイアウト作業を支援する「Assist Layout」といった個別のソリューションを用意している。キップマン氏は「これらは、作業者間のスキルギャップを埋めるために、多様なビジネスに関するナレッジをあらかじめ組み込んだソリューションとなっている」と説明。これらを活用することで、「企業がMRから価値を生み出せるようになるまでの時間を、数カ月から数分に短縮できる」と述べた。
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