「周りの意見は聞くな」――起業家エンジニアの若き日の後悔Go AbekawaのGo Global!〜Dean Drako編(後)(1/2 ページ)

幾つもの企業を設立したDean Drako(ディーン・ドレイコ)氏。「製品を市場に展開するその仕組みに関わる人全てが、私の顧客」と語る同氏は、若きエンジニアに「周りの人の意見は聞くな」とアドバイスする。その真意は何か?

» 2019年07月19日 05時00分 公開

 世界で活躍するエンジニアの先輩たちにお話を伺う「GoGlobal!」シリーズ。前回に引き続き、「Eagle Eye Networks」の社長兼CEO(最高経営責任者)であるDean Drako(ディーン・ドレイコ)氏にご登場いただく。後編では従業員への思いや未来のエンジニアに向けたメッセージなどを伺った。

顧客に必要とされることの重要性

阿部川“Go”久広(以降、阿部川) ドレイコさんは幾つも事業を立ち上げていますが、事業をする上であなたが「一番ワクワクする」ことは何ですか。

ドレイコ氏 子どものころから変わらず、「何かを作り上げること」ですね。会社というものは製品を作り出す究極の道具だと思います。良い製品を作ること以上に楽しいことを、私は知りません。素晴らしい製品は、力にあふれたもので、それによって顧客の顔がほころび、笑顔がもたらされるものです。その上、私もその製品を作り上げるプロセスを心ゆくまで楽しむことができ、試行錯誤によって多くのことを学ぶことができます。

 チームが一丸となって、素晴らしい製品は作られていきます。これらを行えるベストな形式が会社ですから、会社そのものを作っていくこと自体も、私の大きな喜びなのです。これが私の原点であり、それをずっと続けています。

画像 Dean Drako(ディーン・ドレイコ)氏 「Eagle Eye Networks」の社長兼CEO(右)

阿部川 素晴らしい製品をチームで作り上げる最適な形が会社である、ということですね。では少し意地悪な質問です。ドレイコさんが立ち上げた事業の中には売却されたものも幾つかあります。「事業を育て、その事業を売って得た資金で新しい事業を立ち上げる」というのは起業家としては自然な流れだと思いますが、ドレイコさんもそのような方針でしょうか。

ドレイコ氏 いいえ、ほとんど考えたことがありません。最初から他者に売ることを目的として会社を設立した場合は、事業経営について「賢いとは思えない意思決定」をしてしまうと思うからです。私の考え方は「より長期的な視野に立って経営する」ということです。100年ぐらいの長さに耐えられるような企業を作りたいといつも思っています。

阿部川 なるほど、それは日本の経営者の思想に近いと思います。起業や顧客に対して短期的ではなく長期的な関係を構築するということですね。

ドレイコ氏 そうです。会社を売ることばかりを考えていると、どうしても短期的な思考に陥りがちです。私が関わっている企業は、中堅程度の規模の企業ではあっても「雇用を作り出し、顧客に必要とされる良い製品を提供する」というのがビジョンです。あるいは「十分な規模に成長することで上場し、公的な企業としてサービスを提供する」ことも大切ですね。

「ドレイコファミリー」の幸福とは?

阿部川 幾つもの企業を束ねる経営者として、いわば「ドレイコファミリー」ともいえる従業員の方々の幸福や将来のことをお考えと思います。そうした中で経営者として一番大切なことは何だとお考えですか。

画像 阿部川“Go”久広

ドレイコ氏 人それぞれなので一概には言えないかもしれませんが、人々を幸福にする要素は2つあると思います。1つ目は、人は、重要な仕事をしたいと思っているということです。誰も自分の行った仕事が、すぐに役に立たなくなったり、あるいは人々から疎んじられたりする、そんな仕事をしたいとは思いません。

 学生時代にしたインターンの経験で分かったことがあります。業務の成果の60%くらいが市場に出荷されることなく終わることがある、とことです。例えば2年かかったプロジェクトであっても、いきなりキャンセルになることがあります。とても悲しいことです。営業であろうとマーケティングであろうとエンジニアであろうとそれは同じです。

 だから仕事としてやったことが、しっかり会社にインパクトを与え、とても重要なものであると伝えることが大切だと考えます。

 2つ目は学ぶことと成長すること。仕事ではこの2つが提供され、より学ぶことで大きく成長し、そこからまた、より多くのことを学べます。

 これらの2つがバランスを持って仕事の中で経験できれば、人間としての成長にもつながっていくと思います。

阿部川 「マズローの欲求5段階説」はご存じかと思いますが、上位概念の2つは「尊敬」と「自己実現」です。そしてこの5段階のピラミッドは、従業員だけでなく、顧客や投資家にも当てはまるといわれています。

ドレイコ氏 おっしゃる通りです。私はこれまで努力して企業文化というものを創り出そうとしてきました。それは顧客ケアに焦点を当てることですし、顧客をハッピーにすることです。これが非常に大切であることを皆に理解してもらい、それをしっかりと自分ごととして考え、一緒に行動してもらう、そうでなければ私たちの企業が目指していることは達成できないと思います。

阿部川 このインタビューの中でも、ドレイコさんはそれを何度も強調されていますね。

ドレイコ氏 Eagle Eye Networksはエンドユーザーに直接製品を販売しません。ですから私が顧客という場合は、製品を販売してくれるチャネルの販売パートナーのことでもありますし、製品を使ってくれる顧客でもあります。製品を市場に展開するその仕組みに関わる人全てが、私の顧客なのです

 まず顧客としての販売パートナーはしっかり利益を享受できなければなりません。ユーザーとしての顧客は、私たちの製品に満足し、ハッピーでなければなりません。そしてEagle Eye Networksとしてしっかり利益を出して、従業員に給与を還元しなければなりません。それがドレイコファミリーの一員であることの誇りにもつながると考えます。

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