Gartnerは、「企業や組織が2020年に調査する必要がある」とした戦略的テクノロジートレンドのトップ10を発表した。RPAからさらに広がる「ハイパーオートメーション」やヒトの意思や感覚を介した「マルチエクスペリエンス」などを挙げた。ブロックチェーンに関する言及もある。
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Gartnerは2019年10月21日(米国時間)、「企業や組織が2020年に調査する必要がある」とした戦略的テクノロジートレンドのトップ10を発表した。
Gartnerは戦略的テクノロジートレンドを、「テクノロジーが出現したばかりの状態を脱し、幅広く使われて広範な影響を与え始め、大きな破壊的変革をもたらす可能性を持つようになったトレンド」や、「今後5年間で重要な転換点に達する、変動性が高く、急成長しているトレンド」と定義している。
Gartnerのバイスプレジデント兼フェローのデビッド・カーリー氏によると、Gartnerは、2020年の戦略的テクノロジートレンドの主な影響を整理、評価するに当たって、ヒトを中心に据える考え方である「スマートスペース」を念頭に置いた。
スマートスペースは、ヒトと技術システムがよりオープンで、高度に接続され、調整が行き届いたインテリジェントなエコシステムの中でやりとりする物理環境を指す。ヒトやプロセス、サービス、モノなど、多くの要素がスマートスペースに集まり、没入型でインタラクティブな自動化されたエクスペリエンスの実現に至るという。
2020年の戦略的テクノロジートレンドトップ10の概要は次の通り。
ハイパーオートメーションは、機械学習(ML)やパッケージ化されたソフトウェア、自動化ツールを組み合わせ、作業を実行することを指す。自動化のステップには、発見や分析、設計、自動化、測定、監視、再評価が含まれる。
ハイパーオートメーションの主要な焦点は3つある。「自動化メカニズムの範囲」「自動化メカニズムの相互関係」「自動化メカニズムを組み合わせて調整する手法」だ。ハイパーオートメーションでは、ヒトが作業に関わっている部分を複製する作業を支援するためのツールの組み合わせが重要になる。
ハイパーオートメーションのトレンドは、RPA(Robotic Process Automation)が契機となって始まったが、ハイパーオートメーションはRPAにとどまるものではない。
ユーザーがどのようにデジタル世界を理解し、どのようにデジタル世界とやりとりするかという点で、ユーザーエクスペリエンスは2028年までに大きく変わる。これらの変化を引き起こす技術として、会話プラットフォームやVR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)が挙がる。
「ヒトに代わってコンピュータが、ヒトの意図を翻訳するようになる。さまざまな感覚を介したユーザーとのコミュニケーション能力によって、きめ細かな情報を提供するリッチな環境が提供される」(Gartnerのリサーチバイスプレジデント、ブライアン・バーク氏)
大規模でコストがかかるトレーングがなくても専門知識を入手できるようになることを「民主化」と呼ぶ。民主化には、技術的な専門知識(MLやアプリケーション開発など)の民主化と、ビジネスの専門知識(販売プロセスや経済分析など)の民主化の2分野がある。
民主化の例として、アクセスがたやすくなることによる“市民アクセス”(市民データサイエンティストや市民インテグレーター)に加え、市民開発モデルやノーコードモデルの進化などがある。
Gartnerは、2023年までに民主化トレンドが加速すると予測した。民主化トレンドには4つの重要な側面がある。
ヒトの拡張とは体験に不可欠な認知機能と身体機能の向上実現を指す用語だ。
ヒトの拡張には2つの意味がある。一つは、ウェアラブルデバイスなどの技術要素を使った物理拡張。もう一つは、従来のコンピュータシステムによる情報アクセスやアプリケーション利用と、スマートスペースにおける新しいマルチエクスペリエンスインタフェースによるコグニティブ拡張だ。
今後10年間でこうしたヒトの拡張が一般化し、新しい“コンシューマライゼーション”効果をもたらす。企業の従業員はこれを利用して、自分の能力拡張とオフィス環境の向上を求めるようになる。
個人情報の価値と管理の重要性に対する消費者の認識が高まり、企業や政府の対応が進む中、透明性とトレーサビリティーは、デジタル倫理とプライバシーニーズをサポートする重要な要素となっている。
透明性とトレーサビリティーの構成要素は幾つもある。規制や倫理に対する姿勢や行動、支援技術、プラクティスだ。企業は、透明性と信頼あるプラクティスの確保を図る中で、3つの分野に重点を置く必要がある。(1)AIとML、(2)個人データのプライバシーと所有、管理、(3)倫理的に整合性の取れた設計だ。
エッジコンピューティングは、コンピューティングトポロジーを指す用語だ。情報の処理やコンテンツの収集、配信の際、遠隔地にあるサーバではなく、情報やコンテンツのソース、リポジトリー、利用者の近くで処理を進める。
エッジコンピューティングの狙いは、トラフィックと処理をローカルにとどめることで、レイテンシを低減することにある。さらにエッジが持つ機能を活用して、エッジにおける自律性を向上できる。
「現時点では、多くの場合、製造や小売りといった業種において、IoTシステムで求められるネットワークに接続されていない処理や分散機能を実現することに焦点が当てられている。だが、エッジコンピューティングはほぼ全ての業種で主要な要素となっていく。そのとき、エッジコンピューティングは、高度な演算リソースや大容量データストレージで支えられるようになるだろう。ロボットやドローン、自動運転車のような複雑なエッジデバイスが、こうした動きを加速させる」(バーク氏)
分散クラウドは、パブリッククラウドサービスの提供拠点を複数の場所に分散したもので、パブリッククラウドプロバイダーがそのサービスの運用やガバナンス、更新、進化に責任を持つ。
つまり、現在ほとんどのパブリッククラウドサービスで採用されている集中管理モデルからの大きな転換であり、クラウドコンピューティングの新時代を開く。
「自律的なモノ」は、AIを利用して、これまでヒトが担ってきた機能を自動化する物理デバイスを指す。最も分かりやすい例はロボットやドローン、自動運転車などだ。こうした自律的なモノにおける自動化は、固定的なプログラミングモデルによる自動化を超える。AIを利用することで、周囲の環境やヒトとの自然なやりとりを含む高度な動作を行う。
技術が向上し、規制が緩和され、社会的に受け入れられるようになるにつれて、自律的なモノが、誰も管理していない公共空間にますます展開していくだろう。
「自律的なモノの増加とともに、製造や宅配などさまざまな分野で、スタンドアロンのインテリジェントなモノから、複数のデバイスが連携する協調型のインテリジェントなモノのグループへのシフトが進むだろう。例えば、異種ロボットは、組み立てプロセスで協調動作するようになる。配達サービスの最も効果的な解決策は、自律走行車を使用して荷物を目的地に運ぶことだろう。ここにロボットやドローンが搭載されれば、荷物の最終配送にも影響が出るだろう」(バーク氏)
分散台帳の一種である「ブロックチェーン」は、信頼の実現や透明性の提供、ビジネスエコシステム間の価値交換の実現により、産業を変革すると期待されている。コストの削減や取引の完了に要する時間の短縮の結果、キャッシュフローの改善をもたらす可能性がある。さらに、ブロックチェーンが提供する資産の出どころを追跡する機能や、模造品を防ぎ、部品のトラッキングによって製品のリコール処理を単純化するアイデンティティー管理といった特徴が役立つ分野もある。アイデンティティー管理はスマート契約にも役立つ。イベントがアクションをトリガーできるためだ。例えば、商品の受け入れ時に自動的に支払いができる。
「ブロックチェーンは、現時点ではスケーラビリティや相互運用性の低さなど、さまざまな技術的問題があり、企業に導入できるほど成熟していない。だが、ディスラプション(創造的破壊)や収益創出といった観点から見て、大きな可能性があるため、企業はブロックチェーンの評価を始めるべきだ。近い将来に積極的に導入する予定はないとしてもだ」(バーク氏)
AIとMLは、幅広いユースケースに応用されていくだろう。ハイパーオートメーションが進み、(8)で取り上げた自律的なモノを用いたビジネス変革の機会が生まれる。
ただしAIの拡大に伴って、IoTやクラウドコンピューティング、マイクロサービス、スマートスペースにおける高度に接続されたシステムにおいて、潜在的な攻撃ポイントが大幅に増加する。
セキュリティとリスク管理のリーダーは、(1)AIを利用したシステムの保護、(2)AIを活用したセキュリティ防御の強化、(3)攻撃者によるAI悪用の予測――という3つの重要分野に注力する必要がある。
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