和泉氏は、2025年の崖を克服するためのDX実現のポイントとして、「生み出されるデータを有効的に経営に利活用できるように戦略的なIT導入を行うこと。また、つながりを可能とするシステムを構築すること。例えば、協調領域については、個社が別々にシステム開発するのではなく、業界ごとや課題ごとに共通のプラットフォームを構築することで早期かつ安価にシステム刷新することが可能になる」と提言する。
DXレポートには、このDX実現へのロードマップも示されており、2020年までを「システム刷新:経営判断/先行実施期間」、2021〜2025年を「システム刷新集中期間(DXファースト期間)」、2025年以降を「デジタル変革後運用期間」の3つのフェーズに分けている。
「2020年までは東京オリンピックもあり、ITベンダーも企業も本格的にシステム刷新に取り組むのは難しいと考え、DXへの準備期間としている。この期間に、DXに向けたシステム刷新計画の立案や体制構築、経営判断などを行ってもらう。2021〜2025年のDXファースト期間では、経営戦略を踏まえたシステム刷新を経営の最優先課題とし、企業ごとに計画的なシステム刷新を実施していく」(和泉氏)
また、不要なシステムの廃棄やマイクロサービス化による段階的な刷新、協調領域の共通プラットフォーム活用などにより、リスクの低減を図る。このDXが実現すると、2025年以降は、新たなデジタル技術を導入し、迅速なビジネスモデルの変革が可能になる。さらに、大量生産大量消費だけではなく、中量産、試作によって、環境変化に合わせてビジネスを方向展開できるような基幹系システムが構築可能になるという。
経済産業省では、2020年までの「システム刷新:経営判断/先行実施期間」における具体的な施策として、2018年12月に「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」(DX推進ガイドライン)を策定した。このガイドラインは、DXの実現やその基盤となるITシステムを構築する上で経営者が押さえるべき事項を明確にすること、また取締役会や株主がDXの取り組みをチェックする上で活用できるようにすることを目的として策定したものだ。
和泉氏は「DXを巡っては、企業内における経営層とIT部門の対立構造も大きな課題となっている。例えば、IT部門側は『経営トップにはITに関する知見がない』と認識している。しかし経営層側は『ITの知見は十分持っており、IT部門こそがDXの足かせになっている』と認識している。こうしたギャップを埋めるため、経営層とIT部門それぞれの視点で、DX推進へのガイドラインをまとめた。経営層とIT部門が対立するのではなく、政府がまとめたガイドラインを活用して、企業をデジタルエンタープライズに変革させるという一つのゴールに向かって進んでほしい」と訴えた。
DX推進ガイドラインでは、経営層の取り組みについて、まず、DX推進の経営戦略、ビジョンを提示し、経営トップが強いコミットメント持つこと。そして、DX推進のための体制整備、投資などの意思決定を行いながら、環境変化に応じてスピーディーに対応することが重要だとしている。一方、IT部門については、DXを実現する上で基盤となる全社的なITシステム構築に向けた体制、仕組みづくりと実行プロセスにフォーカスし、取り組むべき重点ポイントをまとめている。
さらに和泉氏は、2019年7月末に策定した「DX推進指標」にも言及し、「ガイドラインを作っただけでは、企業がアクションを起こすのは難しいと考えた。そこで、健康診断のように、自社のDX推進状況を診断し、アクションにつなげていくためのツールとして、DX推進指標を策定した」と、その狙いについて説明した。
DX推進指標では、多くの日本企業が直面しているDXを巡る課題を指標項目として、各企業の経営トップが自己診断を行い、DX推進の成熟度を6段階で評価する。この成熟度を利用することで、自社が現在どのレベルにいて、次にどのレベルを目指すのかを認識するとともに、次のレベルに向けて具体的なアクションにつなげることが可能になるという。
今後の展開としては、「現在、企業が自己診断の結果を経済産業省に報告してもらうよう、各業界団体を通じて呼び掛けている。経済産業省では、この結果を基に、DX推進指標のベンチマークを作成する予定で、これにより自社と全体データの比較ができるようになる。2019年9月末までを『自己診断の集中実施期間』として実施し、10月末のベンチマーク公表を目指している」との計画を明らかにした。
最後に和泉氏は、DX推進政策の将来展望について次のように意欲を語った。
「デジタル時代の国際競争の第1幕は、検索やコミュニケーション、消費といった日常の行為をサイバー空間で可能にするサービスが世界に普及し、サイバー空間でのアプリや広告の高度化が競争の場となった。その中で、米国プラットフォーマーが急速に事業を拡大していった。しかし、これから迎える第2幕では、サイバーとフィジカル(現場)の融合が競争の場になると予測する。AIで分析したデータを、製造、医療、介護、工場、農業などのフィジカルに適用し、ビジネスの高度化を図る競争だ。ここでは、日本の強みである『改善』『すり合わせ』『現場力』などを生かせる最大のチャンスだと考えている。一方で、この競争に負ければ、日本は『勝ち筋』を失うリスクもある。経済産業省では、第2幕で勝つために、日本企業がデジタル化やデータ活用の基盤整備を進められるよう、DX推進指標によるベンチマーク化を進めながら、DXレポートの第2弾、第3弾を制作していきたい」
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