ただし、多重下請けが起こる事情と、下請け取引が適正に行われているかどうかは別の問題です。
下請け取引の現場で起きる諸課題を、経済産業省から委託され、みずほ情報総研が調査し、2017年3月にまとめた資料として「平成28年度取引条件改善事業(情報サービス・ソフトウェア産業における下請取引等に関する実態調査」があります。
同調査報告では「人月単価方式による不透明な価格」「下請け企業への丸投げによる元請け企業の責任不履行」「準委任契約業務における無断再委託」「セキュリティなどの要求水準の上昇に対応するための価格の据え置き」「アジャイル開発や成果報酬型の契約形態などの新しい開発・取引形態への対応」などが調査項目に挙げられています。
例えば「丸投げによる元請け企業の責任不履行」に関するヒアリング調査では、「発注者の『最終ユーザーとの交渉や上位の責任者に対する説明』に対する印象」が「あまり適切に実施されていない」が一次請け、二次請けで1割を超えています。「最終ユーザー(顧客)との打ち合わせにおいて、元請け企業は若手社員1人のみが参加し、顧客への説明はほぼ全て下請企業が行っている」という声も聞かれたそうです。
丸投げする際に中間マージンが抜かれる、いわゆる「ピンハネ」が行われるため、こうした責任の不履行が是正されない限り、下請け企業に勤めるエンジニアは、商流が上の企業と同じ仕事や責務を負いながら、低い給与に甘んじ続けるほかありません。
一次請けを頂点としたピラミッドの中では多くの二次請け、三次請けが互いに競争し一次請けにさまざまなアピールを行う構造が生まれます。その中では本来なら一次請けが担当すべき顧客への説明やプロジェクトマネジメント、品質確認などの業務まで下請けがカバーして他社との違いを示す競争に陥りがちです。その構図が進行すると、一次請けはますます本来の業務を移管していき、何もしないのにその立場だけで報酬を得る「ピンハネ」につながります。
一次請けのSIerがピンハネ病に陥るのは、このような環境からくる“生活習慣病”ともいえるでしょう。カウンターとなる下請けもこの構造を脱さない限りは、本来下請け側の土俵である技術力以外のものが求められ、プレゼン力やプロマネ力を磨くための消耗戦を強いられます。
多重下請け構造には「稼働人月を平準化する」という本来の目的があるものの、その副作用として階級が固定化しピンハネにつながるという特性があります。それを前提に、「委託範囲を技術的な支援に限定し管理業務を元請けが担う」ことや、「単なるピンハネの制限」などの運用を考えなければ、下請け側の自助努力で多重下請け構造から脱出するのを期待することは難しいでしょうし、元請け側の課題意識からの解決を期待することもまた難しいのです。
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