早速、概要を見ていこう。
あるソフトウェア開発企業(以降 元請け企業)が、自ら受注した文字入力システムの開発を下請け企業に再委託したが、開発は難航し、結局、システムは完成しなかった。この結果を受けて、下請け企業は、この再委託は、事実上の派遣契約であるから、要員が作業した分の費用を請求できると主張した。
しかし元請け企業は、これはあくまで請負契約であり、システムが完成しなかった以上、支払いの義務はないと主張し裁判になった。
契約形態がハッキリしないままシステム開発が終わる例は少なくない。
契約書に、成果物の名前とともに納品日が書かれているにもかかわらず、要員の月ごとの工数も記述され、支払う金額が工数に応じて決められているものもあれば、逆に、成果物名/納品日と工数のどちらも書かれておらず、双方がどんな債務を負っているのかも判然としない契約もある。
本裁判で争われたプロジェクトは後者に近かったようで、請負なのか派遣なのか判断する材料が非常に乏しい契約書だったようだ。
下請け企業が強調したのは、「元請け企業が、開発の実施中に一度、それまでにかかったシステム開発費を支払っている」点だった。請負であれば、システムの完成まで、支払いは行われないはずである。これを払ったということは、元請企業は本契約を派遣と認識していた証拠だと下請け企業は主張した。
判決文を読むと、当初請負だという申し合わせがあったものの、途中から労働者派遣契約に変更したいという申し出が下請け企業からあったようだ(これに元請けが合意したのかどうかは判然としていない)。
裁判所は、「請負なのか派遣なのか」を何かを頼りに判断しなければ、双方の権利と義務を判断できず、元請けが下請けに費用を払うべきかどうかの判決を導き出せない。
そこで裁判所は、契約書の内容を吟味して、1つのヒントを見つけ出した。
判決文の続きを見ていこう。
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