メルボルン大学などオーストラリアの研究チームが、さまざまな仕事の人格的な側面を理解することが、自分に合った職業を見つける鍵になることを示唆する研究論文を発表した。デジタル行動には個人の特性や価値が反映されるという作業仮説から始め、「デジタル指紋」を作りあげて、デジタル指紋と職業の関係を調べることでレコメンデーションシステムを作り出した。
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メルボルン大学などの研究チームが2019年12月、自分に合った職業を見つける鍵を扱った研究論文を発表した。さまざまな仕事における隠れた人格的な側面を理解することが要点だという。
なぜこのような研究が必要なのかについて、研究チームは次のように理由を述べている。
「答えは簡単だ。現在、初めて職を探している人々はもちろん、既に職業に就いている人々であっても生涯その職にとどまることができるとは限らない。さまざまな業界で現在要求されるスキルに達していない従業員の比率は30%を超えており、組織内の職位に能力がもはやふさわしくなくなった従業員は20%を超えている。さらに今後数十年で必要となる職業は、まだ誰にも知られていない」
「個人の側からは違う問題が見えてくる。職業に就くということは、経済的な問題を解決する手段にとどまらないからだ。心理的にも満足できるようなキャリアが欲しい。しかし全世界の労働者を対象とした調査では、心理面で満足できている比率は20〜30%と低い」
8458人を対象とした先行研究によれば、性格と合った仕事に従事する従業員は心理的な満足に加えて、収入が最大10%多い傾向にあるという。
今回の研究「ソーシャルメディアで予測される性格特性と価値観は、人々を理想的な仕事に結び付ける際に役立つ」(米国科学アカデミー紀要に発表)では、まさにこの問題を扱っている。
各業種における必要なスキルや経験がどのようなものかを認識して職業を探すだけでは問題の半面だけを扱っていることになる。仕事を特徴付ける人格的な性質や価値、さらにそれらと求職者の性質がどの程度一致しているかを認識することにメリットがあることを指摘した。
研究リーダーであるメルボルン大学ポジティブ心理学センターの准教授、ペギー・カーン氏は次のように今回の研究を位置付けた。
以前から個人の性格によって、適性のある仕事は異なると考えられてきたが、「われわれの研究は、このことを示す過去最大規模の証拠を提示している」
研究チームは基本的な作業仮説として、「特性」と「価値」によって適職が決まるとした。特性とは状況を超えて一貫して続く個人の考え方や振る舞い、感じ方を指し、価値は個人が人生で重視する内容を表す。特性を大きく5つ(外向性、同調性、誠実性、情緒安定性、開放性)に定義し、価値も5つに分類した(他者を助けること、伝統、人生を楽しむこと、成功を収めること、刺激的であること)。ここまでは先行研究の仮説と同じだ。
5つの特性から適職を示唆する研究はこれまでにもあり、個人が記入した調査票から、適職を大まかに示すことにも成功している。
今回の研究では個人から集めた調査票を離れて、Twitterユーザーのツイートを対象とした。ツイートの内容を機械学習にかけて「デジタル指紋」を抽出する研究は既に進んでおり、今回の研究では12万8279人から集めたデータをデジタル指紋に加工し、5つの特性や職業との関係を調べた。すると、デジタル指紋と職業の間にある程度の関係があることがすぐに分かった。
似たようなデジタル指紋を持つユーザーが従事する職業を集めると、職業の大まかな内容が一致したのだ。例えば、あるデジタル指紋のクラスタには、ソフトウェアプログラマーやWeb開発者、コンピュータサイエンティストといった「似通った」技術職が自然に集まった。
このようなクラスタが3513種類見つかった。これは米国労働統計局が定義する867の職業カテゴリーよりも細かい分類だ。さらにさまざまな職業によって、人格的なプロファイルが非常に異なることが明らかになった。
次に、成功していると考えられる個人とデジタル指紋との関係を調べるためにGitHubリポジトリでアクティブなプロファイルを持つ621のオープンソースソフトウェア開発者のセットを作成し、これをトップレベルのGitHub貢献者、影響力のあるGitHub貢献者、主流GitHub貢献者として分類した。プロのテニスプレーヤーについても同様に試みた。するとデジタル指紋と「成功している」ことに強い関係があることが分かった。
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