「ソフトウェア品質」は時代とともに変化している。本連載では、「品質」というものをもっと分かりやすく理解してもらうために、あらためて「品質」について再考していく。今回はJNLA電磁的記録分野の技術的適用文書の概要について説明した後、「利用時品質」を再考する。
この記事は会員限定です。会員登録(無料)すると全てご覧いただけます。
「ソフトウェア品質」は時代とともに変化している。「品質」というものをもっと分かりやすく理解してもらうために、あらためて「品質」について再考していく本連載『変わる「ソフトウェア品質」再考』。前回から少し間が空いてしまいましたが、皆さんは品質を理論的に考えることについてどんな感想を持ちましたか? ソフトウェアパッケージおよびクラウドアプリケーションに関するJIS(Japanese Industrial Standards:日本産業規格)認証の動きがあることをお話ししましたが、今回は、この動きについてもう少し説明した後、「利用時品質」について考えます。
独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE:National Institute of Technology and Evaluation)認定センターで、電磁的記録分野の試験所認定に関する委員会が設置され、この委員会でまとめられた技術的適用文書のパブリックコメントの募集が2019年の8月28日〜9月11日に行われました。
「電磁的記録分野」とは聞き慣れない言葉ですが、ソフトウェア製品のことを示しています。
「JNLA電磁的記録分野の技術的適用文書」の第1版(JNRP31S15)では、産業標準化法に基づき試験事業者登録制度(JNLA登録)とJNLA(Japan National Laboratory Accreditation system)認定プログラムの要求事項の一部が書かれています。具体的な要求事項とは「電磁的記録試験」のJNLA登録、つまりソフトウェア製品の試験を行うJNLA登録について書かれています。
この技術文書によると、JNLA登録ができる企業には以下のようなスキルを持っている要員が必要となります。
これらの資格を持っている技術者が試験を行う必要があるということです。
読者の中にはCITPという資格を初めて聞く方も多いのではないでしょうか。CITPは一般社団法人情報処理学会が行っている高度の専門知識と豊富な業務経験を有する技術者を認定する制度です。ITSSレベル4以上の上級技術者が対象で3年間の有効期間、CPD(継続研さん、Continuing Professional Development)を前提とした更新制度です。このCITP制度はISO/IEC 24773(ソフトウェア技術者認定)やISO/IEC 17024(適合性評価:要員の認証を実施する機関に対する一般的要求事項)などの国際標準と整合性が取られています。
また、この技術文書の関連文書には、次の4つがあります。
重要なのは、先頭のJIS X 25051という規格です。ソフトウェア製品の試験では、JIS X 25051を活用することを示しています。JIS X 25051は一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(CSAJ:Computer Software Association of Japan)が行っているパッケージソフトウェアやクラウドアプリケーションの品質の認証です。評価する「PSQ(Packaged Software Quality)認証」製品でも利用されている規格でもあります。
JIS X 25051はオンプレミスとクラウドの両方を含む既製ソフトウェア製品に関する一連の要求事項およびそれらの要求事項に対して実施する試験に関する要求事項についての文書です。規格の詳細な説明は、本連載の中で具体的な評価の話とともに説明します。
利用時品質とは人がソフトウェアやシステム(以後、ソフトウェアと表記)を使ったときに感じる品質のことです。ただし、企業向けの製品の場合、利用者にはさまざまな立場の人(役割:ロール)が存在します。システム開発時にペルソナを作って、システムの利用形態などを分析することも利用時品質を意識するためには重要な手法です。
利用時品質は人が介在しないと存在しない品質です。一方、製品品質はソフトウェア自身が持っている特性で、使っても使わなくても変わらず存在する特性です。そのため、製品品質は「どのような人が使っても揺らぐことなく、モノを主語で語ることのできる品質である」といえます。
一方、利用時品質は利用者によって感じ方が異なります。例えば、案件管理システムを例とした場合、現場の営業の方々にとって使いやすいソフトウェアであっても、管理職には使いにくい可能性があります。また、同じ現場の営業スタッフであっても、Aさんには使いやすいけど、Bさんには使いにくいという可能性もあります。
このように利用時品質は、ソフトウェアを利用する人が感じる品質のため、定義も分析もしづらいといえますが、「顧客視点の品質である」と覚えておくといいでしょう。
商用ソフトウェアの場合、製品品質と利用時品質をつなげる役目となるのが、製品に付属するユーザーマニュアルや製品に関するWebサイトでの説明やFAQなどの情報です。JIS規格では、これらの利用者が製品を理解するために提供される、さまざまな文書を「利用者用文書」と定義しています。
筆者と同じ会社でマニュアルの品質保証を専門としている奥山氏と一緒に、製品品質、利用時品質、利用者用文書の品質の関係性をまとめたものが図2の「加藤・奥山コンセプト」です。
利用時品質にユーザー経験(UX:User eXperience)を含めることに意義を持つ人もいますが、UXによって利用時品質は変化していくので、このコンセプトでは含んだ形としています。
ソフトウェアは利用していくことで製品を理解し、より効率良く利用できるようになります。場合によっては利用当初は「価値がある」と感じていたのに、利用し続けると、価値があると感じても不満を多く持つこともあります。このように、利用時品質はそのソフトウェアの習熟度によっても変化します。習熟度が高くなると、「こんな使い方ができないか」「もっと効率の良い使い方ができないか」などと検討するようになり、ソフトウェアの開発元のサポートセンターに問い合わせたり、担当営業に要望を伝えたりすることも多くなると思います。徐々にソフトウェアに関する品質からソフトウェアを取り巻くサービスに関する意識が強くなるため、サービス品質を意識するようになるでしょう。
図3は製品品質、利用時品質、サービス品質の連携についてまとめたコンセプト図です。
製品の提供元はサービス供給者側でもあります。ユーザーが製品を購入した時点でサービス受給者になり、ソフトウェアとソフトウェアを取り巻く品質を感じるようになります。製品利用の当初は利用時品質を意識しますが、利用するにつれてサービス品質の割合が高くなり、最終的には付随するサービスに価値を感じるようになると考えられます。
付随するサービスとはテクニカルサポート、マニュアルなどの技術情報、製品パッチ、バージョンアップなどが該当します。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.