山本 一連の流れで「公取委の個人情報に関する扱いや競争政策の枠内で考えていることを、事業者がちゃんと理解しないとまずいかな」という認識にようやくなってきたと思います。
鈴木 公取委が言っていることがざっくり過ぎて趣旨がよく分からない。世間的には単純に「Cookieが使えなくなるのでは」という声があり、Cookieが「個人情報等」に入っているから全部規制だ、プラットフォーム事業者はみんな規制だとも聞こえちゃう。ただ、内容を見ると、個人情報保護法のルールを守っていない場合だけに限定されているようでもありますけど、何のためにそういう規制に踏み込むのかよく伝わっていないように思います。
山本 結局、「矢面に立ちたくないけど、何かやらなければいけないかな」と予防線も兼ねていろんなことを言っているだけの気もします。
高木 本来のデータ保護の趣旨を踏まえるべきとか、EUでどう言われているかなど、もう少し議論したいですね。
日本は3年遅れているだけなんじゃないですか。つまり、3年前にEDPSに指摘される前の時点で、向こうの競争法のコミュニティーで言われていたことをマネしたのが今回の「考え方(案)」なのでは? 課題を世界で共有しているのでしょう?
山本 ある程度はしていると思いますよ。
高木 何年か前にEUの競争法コミュニティーでいわたことを日本でもやるぜとマネしたものの、その後EUではひっくり返されて軌道修正されたのに、それを知らず初期案のままに走っているんじゃないか……。いや、ただの臆測ですが。
山本 どうなんですか?
板倉 ドイツのFacebookの場合は、仮処分の段階なのでどうなるかは分かりません。GDPRの前の事案で課徴金が高くなかったので、あっちを使いたかったのではというのも言われています。事件自体では課徴金は課してないのですが。
山本 課徴金をより多くふんだくるためですか? 抑止的な意味も含めて。
板倉 EUデータ保護指令に基づく旧データ保護法は抑止力が少ないので、殴るためには競争法が出てくる必要があるという発想があって。それは日本でもあるわけです。今回の大綱骨子も課徴金を入れるとはいっていません。
他方、優越的地位の乱用には課徴金の規定がありますから、それを使いたいというインセンティブは全体としてはあるかもしれません。ただし、EUみたいに裁量型課徴金ではないので、式に当てはめないといけない。式に当てはめたときに、優越的地位の乱用でどれくらいの課徴金になるかを計算するのはそう簡単ではない。
もともと、個人情報についての損害は先ほどいったように精神的な損害でしか捉えていないので、経済法の中で無理やり当てはめて、課徴金としていくら取れるのかは非常に難しい。
山本 課徴金を取るのは、大事なプロセスになるんですかね。それ以前に歯止めをかける議論をもうちょっとちゃんとやった方がいいじゃないかと思いますが。課徴金そのものが強い抑止力になるとは感じられないです。
高木 そのためには「何がいけないのか」を明確にしないと。今の公取委の「考え方(案)」に示されているのは、個人情報保護法のルールに違反した場合の列挙ばかりでは、違うでしょうと。本人同意を取ってやる場合は個人情報保護法上は合法であっても、優越的地位により事実上同意せざるを得ない場合に問題とするとか、そこに着目してこそ公取委なのに、そういうことが注にしか書いていないんですよね。ちょっと議論が足りな過ぎでは。
山本 あまり力が入っていないんですかね。官邸でGAFA対策会議が立ち上がったくらいから、公取委も含めたデジタルプラットフォーム事業者に対する政策全般の迷走が始まったような気がしてしょうがないですけど。
板倉 GAFA対策会議というのは、正式には、内閣官房デジタル市場競争本部といいますが、本部の下にデジタル市場競争、その下にさらにワーキンググループを設置して議論しています。デジタル市場を巡る競争政策として入っているメニューの中に、優越的地位の乱用についての指針、合併の告示の改訂などもあります。全部のメニューの中ではちゃんとそろえなければならないということはある。
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