生命保険会社のアフラックは顧客に対する価値提供の迅速化を目指し、企業活動の「アジャイル化」を急速に進めている。アフラック流の「デジタルトランスフォーメーション」(DX)の進め方について、組織作り、仕組み作りに携わるキーマンに話を聞いた。
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世の中に次々と現れる新たなテクノロジーを活用した新製品や新サービスが、既存のものに取って代わり、市場状況を一変させる「デジタルディスラプション」(創造的破壊)は、あらゆる業界で起こりつつある。中でも保険を含む金融サービス業は、早い段階からその影響が懸念されていた業界だ。
保険会社のアフラックも、デジタルディスラプションで激変する市場に対応するためのデジタルトランスフォーメーション(DX)を急ピッチで推進している企業の一つだ。本稿ではDX実現に向けた組織作り、仕組み作りに携わるアフラックの担当者に、アフラック流のDXの進め方を聞いた。
アフラックの新鋪洋佑氏(アジャイル推進室 課長代理)は「従来、競合企業といえば同じ業界にあるのが当然でしたが、最近では異なる業界、異なる業種に存在しています。これは保険業界に限った話ではありません。競争環境は激化しており、顧客ニーズも多様化しています。それらにどう対応していくかは大きな経営課題になっています」と話す。
新鋪氏は、顧客ニーズだけでなく、保険の在り方も変化しつつあると語る。
「保険は『事前に保険料を納めておき、将来起こり得るリスクに備えるもの』というのがこれまでの常識でした。しかし、例えば中国では事前に保険料を納めるのではなく、ある加入者に何か問題が起こった時点で、必要な保険金を加入者同士で『割り勘』にして負担するといったような、従来の常識にとらわれない新たなサービスが登場しています。こうした“ディスラプティブなサービス”というのは、今後も次々と出てくるでしょう。実際に、2020年1月末には同様の商品の販売が国内でも始まりました(注)。急速に変化する市場環境や顧客ニーズに対応していくためには、サービスの作り方、さらにはわれわれの働き方そのものを『アジャイル』なものへと変えていく必要があると考えています」(新鋪氏)
※注:プレスリリース「justInCaseが『P2P保険(わりかん保険)』取り扱い開始」
新鋪氏の言うアジャイルは、いわゆる「システム開発手法としてのアジャイル」だけを指すものではない。サービスを生み出し、提供していく過程全体がアジャイルの理念に沿ったものであるべきという考え方だ。新鋪氏の所属する「アジャイル推進室」は、アジャイルの考え方や働き方を社内に浸透させるための取り組みに注力しているという。
アフラックが「アジャイル推進室」の部署設置に至った背景には、2018年1月から始めた「デジタルイノベーション推進部」(DI推進部)での取り組みがあった。DI推進部はデジタル技術の研究・活用を目的としたCDO(チーフデジタルオフィサー)直属の組織だ。DI推進部DI推進課で課長を務める建部友美氏は「サービス提供に『デザイン思考』のアプローチを取り入れていく場合、それに関わる全ての従業員の考え方、働き方を『アジャイル』なものに変革する必要がありました」と話す。
「保険サービスの中でも、生命保険は50年以上の長期契約になるケースがほとんどです。長期にわたる『カスタマージャーニー』の中で、アフラックが提供するサービスを価値のあるものと感じてもらわなければなりません。そこでわれわれは『お客さまにとって必要なものをお客さまの目線で理解し、形にしていくアプローチ』、つまりデザイン思考に注目しました」(建部氏)
デザイン思考によるサービスの展開は「ユーザー(顧客)の声に耳を傾け、仮説を作り、それをプロダクトに反映する。その結果をフィードバックして改善する」というサイクルを短く、何度も反復することが重要だ。しかし、以前情報システム部に所属していた建部氏は「システムとサービスを作る部門が縦割りで分断された組織構造のままでは、デザイン思考型のアプローチで進めるには限界があると考えました」と話す。
この限界を打破するため、アフラックの経営陣は「アジャイルの全社展開」に対して全面的にコミット。アジャイルな働き方を実践するための「理解促進」「組織」「制度」に関する施策を打ち出した。
アジャイルの「理解促進」を目的とした施策の一つは、全役員と管理職を対象としたワークショップだ。
アフラックは2019年6月から「Agileコンセプトワークショップ」と呼ばれる研修を定期的に実施している。従業員に「アジャイルな仕事の進め方とは何か」を理解してもらい、全社に浸透させることが目的だ。当初は役員と管理職を対象とした研修としてスタートしたが、現在は一般従業員向けにも範囲を拡大している。
ワークショップは「レゴブロックによる街作り」を題材にアジャイルの理念にのっとった作業の進め方を体験してもらう、というものだ。最初の段階では、求められる幾つかの要件が記載されたメモだけを頼りに、メンバーが思い思いに「街」を組み立てる。作業はスプリントをイメージした短時間のピリオドで区切り、その都度、スクラムマスター役の講師を中心に振り返りをしながら、完成度を高める。こうしてアジャイル型の働き方を疑似体験させる。このワークショップを体験した従業員の満足度は非常に高いという。
「最初のうちは、自分たちの中だけでサービスを作ろうとしているチームが、スプリントを繰り返す中で、他のメンバーと積極的に対話したり、ユーザー役を兼ねた講師に対してニーズを聴いて内容をフィードバックしたりと短時間アプローチの仕方が変化します。ワークショップの形をとることで、アジャイルは『システム開発手法』の枠組みとしてではなく、ビジネス部門での『仕事の進め方』にも適用できる枠組みだと理解できます」(建部氏)
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