カルチャーハック、成長型マインドセット、リーンスタートアップが、企業がデジタルトランスフォーメーションの強力なビジョンを実現するのに役立つ。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
デジタル技術は、企業、産業、さらには社会全体を根底から変えるさまざまなトレンドを巻き起こしてきた。企業がデジタルトランスフォーメーションプログラムを展開するには、ビジネスリーダーと経営者が、従業員がプログラムの目標にベクトルを合わせ、その実現に取り組むよう継続的に後押しし、従業員の総力を結集する必要がある。
「われわれの2019年CEO/上級経営陣向けサーベイでは、回答者の82%が、自社のデジタル化を推進するデジタルトランスフォーメーションプログラムを実施中だと答えている」。Gartnerのアナリストでディスティングイッシュト バイスプレジデントのマーク・ラスキーノ(Mark Raskino)氏は、2019年11月にバルセロナで開催されたGartner IT Symposium/Xpoでそう語った。
「だが、この調査は『ビジネスモデルの転換の浸透』などの指標で芳しくない数字を示している。そのため、デジタルトランスフォーメーションの取り組みの多くは、十分に進展していない可能性があると考えている」(ラスキーノ氏)
デジタルトランスフォーメーションを成功させるには、「コーポレートガバナンス」「経営」「実行」という3つのレベルで取り組みを展開する必要がある。だが、3つのどのレベルにおいても、トランスフォーメーションを妨げる間違いを犯す企業が見られる。どこでこうした間違いが起こるのかを知っていれば、それらの落とし穴を避けるのに役立つ。
企業は、最初から状況を見誤る場合がある。例えば、デジタル要因によって業界がどのように変わるかを検討しないことや、商品やビジネスモデルのイノベーションを見抜く先見性に欠けることなどによるものだ。業界で何が起こっているかを的確に理解していないと、デジタルトランスフォーメーションによる変革が表面的なものになったり、狭い範囲で行われたりする恐れがある。
ラスキーノ氏は、企業はデジタルを利用して、業界が何をするかを再発明することを考えるべきだとアドバイスしている。
企業は、顧客ニーズやそれらがもたらす機会や市場全体の競争環境を分析し、事例や知見を探ってビジネスに生かすよりも、自社のやり方や、やりたいことにこだわりがちだ。「このようにこだわる考え方は、『デジタル変革は、業務モデル変革の一種だ』と見なしていることからくる。だが、この認識は間違っている」と、ラスキーノ氏は語る。
「業務モデルの側面ばかりに注目する見方は、市場全体を考慮していない。主に、効率と効果に焦点を当てている。これに対し、ビジネスモデルの側面を視野に入れた見方は、市場に加え、収益化の方法も考慮している。成功しているデジタルトランスフォーメーションプロジェクトの大半は、外部の視点による評価やチェックを踏まえて行われている」(ラスキーノ氏)
一部の取締役は、デジタルトランスフォーメーションを自らの守備範囲に入らない経営事項として扱う。また、一部の経営陣はデジタルトランスフォーメーションに対し、課題として向き合わず、IT部門が責任を持つ事項として扱う。こうしたばらばらな行動が連鎖すると、本当の変革には至らない。
デジタルトランスフォーメーションは企業ミッションの一環として取り組む必要があり、リーダーは優先課題と位置付けるべきだ。さもないと、企業として徐々に改善を進めることはできるだろうが、革新的な進化を遂げられないだろう。
デジタルとは何かが定義されていないと、企業のデジタルトランスフォーメーションのビジョンはあいまいで混乱したものになる。こうした企業は、このビジョンに具体性がないか、あるいは一貫した計画を持っていない。野心があり、一連のクールなプロジェクトが立ち上げられ、意欲的に行われているが、デジタルの取り組みで具体的に何を目指しているのかは不明だ。
企業がデジタルトランスフォーメーションプロジェクトを計画に沿って進めるには、前もって多くの労力を割いて目標を定義し、具体的な中間目標と指標を設定し、プロジェクトの各段階で成果を測定し、それらに照らして評価する必要がある。
デジタルとは何かが定義されていないと、デジタルトランスフォーメーションの取り組みが日々改善を積み重ねることに終始し、本当の変革に向けた資金投入やシステム展開、具体的計画の策定が行われない場合がある。経営者は、本当の変革が進んでいるかどうかをチェックしなければならない。
デジタルビジネスは売上高の増加、ビジネスモデルの変革、商品の再発明という形で実を結ぶ。これらにつながる構造改革投資の機会を探るとよい。もしその機会がなければ、デジタルトランスフォーメーションは望めないだろう。
固定型マインドセットは、能力を制約する要因の1つだ。固定型マインドセットを持つ人は、学習意欲が低い。企業は、成長型マインドセットを育成し、デジタルビジネス時代の成功の鍵である革新的な文化を構築する方法を見いださなければならない。
成長型マインドセットは、「適切な方針で賢く学習し、他人の意見にも耳を傾けることで、新しい能力を身に付けられる」という考え方に立っている。成長型マインドセットを持つ人は、課題に直面することを成長や進化の機会と捉え、失敗しても立ち直りが早い。
デジタルトランスフォーメーションでは、計画以上に実行が重要になる。企業は、計画段階で議論が堂々巡りになり、そのせいでトランスフォーメーションプロジェクトが遅れてしまう場合がある。それを防ぐには、プロジェクトのあらゆるレベルで「リーンスタートアップ」を実践する仕組みを作り込む必要がある。
リーンスタートアップの考え方では、計画よりも実験を重視する。リーンスタートアップのプロセスは、「イノベーションを生み出し、それを基に、顧客に提供可能な“最小限の実用的な成果物”を作り、これに対するフィードバックを生かしてイノベーションを進化させるサイクル」を、迅速に反復することを目指している。
企業は、“次の大きな波”についてのハイプ(誇大宣伝)に乗せられないように注意すべきだ。代わりに、技術ツールを総動員して、業界を再発明することに力を注ぐ必要がある。トランスフォーメーションは、決して次の大きな波を起こすことではない。
「満たされていないニーズ――つまり、自社が属する業界がこれまで対応してこなかった市場や顧客のニーズに照準を合わせ、技術ツールを結集して、これまで誰もできなかったことを実現するソリューションを発明すべきだ」(ラスキーノ氏)
文化は、デジタルトランスフォーメーションのスケーリング(大規模な展開)を阻む最大の障害の1つだ。大きな存在であり、変えるのは面倒で大変と思われている。だが、人々がトランスフォーメーションの展開の障害となる文化的特徴を持っていても、立場が変わればそれを促進する文化的特徴を持つ可能性がある。
そのため、企業が文化の変革を進めるには、目的や信念をリセットしなければならない。まず、「自社の目的は何か、それは世界に何をもたらすか、従業員の信念は何か」を見極める。そしてカルチャーハックによって、トランスフォーメーションの障害となる文化を、アクセラレータに変えるようにする。一部のカルチャーハックは、48時間以内に実行できる。
出典:Avoid These 9 Corporate Digital Business Transformation Mistakes(Smarter with Gartner)
※この記事の原文は2019年11月にスペインで開催したGartner IT Symposium/Xpo 2019の講演内容をベースとしたものであり、その時点での世界の企業の状況を前提としています。
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