ここ数カ月、Windows 10の機能更新プログラムおよびISOメディアを使用したバージョンアップグレードに関して、特定の条件下で発生する既知の問題が明らかになっています。企業のクライアントPCのバージョンアップグレードを今計画している場合は、影響を受けないように注意してください。
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「Windows 10」のバージョンアップグレードに関連する既知の問題とは、1つ目はWindows 10 バージョン1903以降へのインストールメディア(ISOイメージ)を使用したアップグレードを実施した際に、特定の条件下で「コンピューター証明書」や「ユーザー証明書」が失われる問題です。
2つ目は、Windows 10 バージョン20H2(October 2020 Update)への機能更新プログラムやISOイメージによるアップグレードを実施した際に、アップグレード後に「ローカルユーザーとグループ」スナップインなどでエラーが発生し、1分後に自動的に再起動してしまうという問題です。
そして3つ目は、Windows 10 バージョン2004または20H2にアップグレードすると、濁点や半濁点を含む半角片仮名と全角片仮名をWindows 10 バージョン1909以前は同じ文字として解釈していたWindowsの関数が、同じ文字として解釈しなくなる問題です。
詳しくは、筆者の以下の連載記事で説明しています。
いずれも企業のIT環境にとって、重大な影響を及ぼす可能性がある問題です。1つ目の問題はVPN(仮想プライベートネットワーク)接続や証明書ベースの認証ができなくなる原因になりますし、2つ目の問題はローカルユーザー管理に大きく影響します。3つ目の問題は、「Microsoft Access」や「Microsoft Excel」のVBA(Visual Basic for Applications)マクロに広範囲な影響を及ぼす可能性があります(画面1)。Windows 10 バージョン1903は「2020年12月8日」にサポートが終了します。Windows 10 バージョン1909以降へのアップグレードを計画している企業は、発生条件や回避策、業務アプリへの影響などを確認した上でアップグレードを実施するようにしてください。
1つ目の問題はオンライン(Windows Updateにアクセスできる状態)でアップグレードを実施する限り、セットアップ関連の更新プログラムがダウンロードされることにより、影響は回避されます。
しかし、「Windows Server Update Services(WSUS)」で機能更新プログラムを配布したり、その他の配布ツールでISOメディアによるインストールを配布したりする場合は影響を受ける可能性があります。
2020年10月以前にWSUSに提供された機能更新プログラムや、2020年10月以前にボリュームライセンスおよび「Visual Studioサブスクリプション」向けに提供されたISOイメージは、この問題を受けるからです。問題の解消には、2020年10月の品質更新プログラムが統合された、リフレッシュされた機能更新プログラムやISOイメージが必要です。
WSUSについては、2020年11月11日(日本時間)に提供されたWindows 10 バージョン1909、2004、20H2の機能更新プログラム(リリース日:2020年11月10日)で、1つ目の問題が解消されています。それ以前の機能更新プログラムを承認している場合は、承認を取り消し、リフレッシュされた機能更新プログラムをあらためて承認してください(画面2)。
なお、Windows 10 バージョン1903については、「2020年12月8日」にサポートが終了するため、リフレッシュされた機能更新プログラムの提供はありません。また、Windows 10 バージョン1909および20H2の「機能更新プログラム(有効化パッケージを使用)」は、もともと問題の影響を受けません。
ボリュームライセンスなどのISOメディアを使用してアップグレードを展開している場合は、2020年10月以前に入手したISOイメージに基づく配布パッケージの提供は中止してください。Windows 10 バージョン1909および2004については、入手元のチャネルからリフレッシュされたISOイメージ(updated Nov 2020)が2020年11月に提供されました。Windows 10 バージョン20H2のISOイメージについては、Windows 10 バージョン2004の2つ目の問題の修正を含めた上で、今後、数週間以内にリフレッシュされたISOイメージが提供される予定です。
現状、Windows 10 バージョン2004の2つ目の問題は、ビルトインアカウント(AdministratorやGuest)を別の名前に変更している場合に影響を受けます。名前を元に戻した上でアップグレードすれば問題を回避できますが、台数によっては大変な作業になるでしょう。配布対象がこの影響を受ける場合は、この問題が更新プログラムによって完全に解消されるまで待った方がよいでしょう。
濁点や半濁点を含む半角片仮名と全角片仮名のテキスト比較の問題は、企業によっては広範囲に影響する可能性があります。アプリのコードを修正して対応する、WindowsのNLS(National Language Support)バージョンをダウングレードするなど、回避策はないわけではありませんが(回避策については「連載:山市良のうぃんどうず日記 第194回」の最後に記載したリンクにあるOfficeサポートチームの公開情報で確認してください)、前者は対象のアプリが膨大な場合は大変ですし、後者はシステムの別のところで問題が発生しないとも限りません(画面3)。
この問題はWindows 10 バージョン2004および20H2の新しいNLS 6.3の問題であり、これらのバージョンに対して更新プログラムで問題の修正が提供されることはないそうです。Officeサポートチームは複数の回避策を示していますが、Microsoftの公式見解は「Currently, there is no workaround for this issue.(現状、この問題の回避策はありません)」です。
場合によっては、Windows 10 バージョン2004および20H2をスキップして、後継バージョンでの修正を待つという判断が必要になるかもしれません。
クライアントPCがWindows 10 バージョン1803以降(Pro以上のエディション)で、Windows Updateから機能更新プログラムを取得する環境の場合、または「Windows Update for Business(WUfB)」で機能更新プログラムを管理している環境の場合は、WUfBのポリシーを利用して新バージョンの機能更新プログラムを受け取らないように構成できます。
それにはWUfBの「ターゲット機能更新プログラムのバージョンを選択する」ポリシーを有効にし、「ターゲットバージョン」に現在のWindows 10と同じバージョン番号(現時点で指定可能なのは、1803、1809、1903、1909、2004、20H2)を指定します(画面4)。
これにより、このポリシーを解除するまで、またはそのバージョンのサポート終了まで、現在のバージョンを維持することができます。なお、現在のバージョンを維持するようにポリシーを構成した場合、そのバージョンのサポートが終了して60日経過すると、新しい機能更新プログラムが自動配布されることになります。また、WUfBのポリシー設定は、WSUSによる配布をブロックするものではないことにも注意してください。
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Cloud and Datacenter Management(2020-2021)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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