産業技術総合研究所は日立製作所と共同で、オンプレミスとクラウドに構築した異なるシステムを安全に連携させたハイブリッドクラウドのAI開発環境を構築した。この環境に向けた汎用プロトコルだけを利用したジョブデータ管理技術も開発した。
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産業技術総合研究所(産総研)の産総研・東工大 実社会ビッグデータ活用 オープンイノベーションラボラトリでラボ長を務める小川宏高氏と同主任研究員の滝澤真一朗氏は2020年12月14日、日立製作所と共同で、オンプレミスとクラウドに構築した異なるシステムを安全に連携させたハイブリッドクラウドのAI(人工知能)開発環境を構築したと発表した。試験運用も同年12月に開始している。
また、今回のAI開発環境に向けた高度な認証機能とセキュリティ機能を持つ汎用(はんよう)のクラウドオブジェクトストレージプロトコルだけを利用したジョブデータ管理技術も開発した。このジョブデータ管理技術はユーザー権限で稼働する。そのため導入に特別な権限は必要なく、容易にハイブリッドクラウドを構築できるという。
産総研はこれまで高性能計算研究の一環としてクラウド上でのジョブ実行を実現する機構の研究を続けてきたものの、専用プロトコルを用いていたため、一般的なクラウド環境では使いにくかった。
今回構築したAI開発環境は、プログラムの実行に必要なライブラリをまとめて持ち運べるコンテナ技術を活用しており、異なるシステムでも同じプログラムを実行できる。
さらに、メタジョブスクリプト技術によって、異なるシステムでも同じジョブスクリプトでジョブを実行できるようにした。これらの工夫によって、オンプレミスと同じ使い勝手を確保した。
今回構築したシステムの応答時間は短いという。日立中央研究所内のオンプレミスのAI開発環境を、産総研のABCI(クラウド)に構築したAI開発環境に接続して、AI開発ジョブ投入の応答速度を測定した(国立情報学研究所のSINET5経由で接続)。
ABCIに直接ログインしてジョブを投入した場合の応答時間は0.3秒。それに対して、日立中央研究所のオンプレミス環境からリモートでジョブを投入した場合の応答時間は0.59秒だった。ユーザーの使い勝手に影響を与えない遅延時間で連携できることを確認したとしている。
近年、製造機器や自動車、人の動きなどのデータを、コンピュータで解析、予測して生産計画などを最適化するシステムの活用が進んでいる。こうした予測に利用されるAIの開発には、一時的な演算性能需要の増加などに柔軟に対応できることから、オンプレミスとクラウドをつないだハイブリッドクラウドが多く利用されている。
ところがハイブリッドクラウドにAI環境を構築するには、機密情報のセキュリティ確保や、仕様が異なるシステムの使い分け、管理者権限が必要な専用ソフトウェアの利用が必須などの課題があった。今回のシステムはこれらの問題の解決を助けるという。
今回の成果の一部は、2020年12月21日から開催される情報処理学会の「第177回ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)研究会」で発表される予定。
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