前回、これからの時代はITエンジニアも経営力を鍛える必要性をお伝えしました。ビジネスゲームのレベルを上げるためには、経営力の装備が必須です。では、どうやって鍛えていけばいいのでしょうか。
一番手軽な方法は、自分が抱えている作業を改善し、効率化することです。ツールやマクロを作って改善してもいいし、プロセスを見直して、やらなくてもいい作業を省いたり、集約したりするのもいいでしょう。改善を行えば、自分の作業が楽になると同時に、経営力を高められます。改善は経費を下げる活動であり、経営の投資効率を上げる活動につながるからです。
経営の投資効率を難しく考える必要はありません。一番身近な資産は「自分の時間」です。まずは自分の時間の効率化を徹底的に頑張るのです。その資産は自分の資産であると同時に、会社の資産でもあります。これは立派な投資効率への貢献です。
最初は微々たるものかもしれませんが、同僚へと水平展開したり、チーム、部署、会社、クライアントと、少しずつ影響範囲を広げたりしていくのです。影響範囲を広げていけば、組織の中で注目される瞬間が訪れます。どういった形でチャンスがやってくるかは分かりませんが、常にチャンスの種をまいておけば、必ずチャンスは訪れます。
ここで少し注意を促しておきます。ITエンジニアが技術力を高める意識はとても重要ですが、行き過ぎは逆効果です。
第1回で書いたように、技術力と年収は比例しません。技術コンテストで賞金を稼ぐぐらいのレベルならば話は別ですが、一般的な会社でITエンジニアとして稼いでいくのならば、技術力を追い掛け過ぎない勇気が必要です。
これからは、世界の技術エリートたちがガンガン新しいサービスを創り出し、そのサービスを手軽に利用できる時代が加速します。われわれのような普通のITエンジニアは、「サービスの特性を見抜く目」と、「それらを使いこなすスキル」を磨くことに集中した方が、はるかに投資効率が良いのです。
これらのサービスの多くは、エンドユーザーでも簡単に使いこなせるように工夫されているでしょうから、ITエンジニアは使いこなすスキルは問題ないでしょう。大切なのはサービスの特性を見抜く目です。
このスキルを養うには「業務知識」が必要です。第2回で語ったように、これからは事業部門がライバルになります。「ITはビジネスの効率化を図るただのツール」であることを忘れてはいけません。
業務知識を身に付けると、上流工程へのステップアップにつながります。業務知識は、ITスキルよりも普遍的なものが多い傾向にあるので、一度身に付ければ、長期にわたって活用できるし、少し応用すれば汎用(はんよう)的に使えます。例えば、製造業の業務知識を覚えれば、投入する材料や最終的な完成品が異なるだけで、中のカラクリには多くの共通点があります。
経営力が高く業務知識が豊富なITエンジニアは、かなり貴重です。
20代のうちにキャリア戦略を立て、それに沿って行動をしていけば、30代になるころには社内で欠かせない人材になっているはずです。昇進のチャンスもあるし、他社から声が掛かることだってあります。フリーランスも現実味を帯びてきます。コロナ禍で、働き方は大きく変わっていますが、ビジネスの本質は何も変わっていません。繰り返しになりますが、そのことに近道や裏技はありません。
3回にわたって、2020年代を生き抜くITエンジニアの年収向上戦略をお話ししました。
第1回 戦略編では、上位にあたる商流の会社へ移る必要性を説明しました。第2回 戦術編では、経営力や業務知識を身に付ける必要性を説明しました。第3回 事例編では、ぼくの経験を参考に戦略と戦術のおさらいをしました。
このシリーズはエンジニアの年収アップを目的としていますが、年収アップだけが全てではありません。年収はそこそこでも技術力を追求することに生きがいを感じるエンジニアもいます。それはそれで正解だと思います。また、年収アップ方法についても、ぼくがお伝えした戦略はほんの一例です。データ解析やAIやクラウドなど、一昔前には存在しなかった領域のテクノロジーも生まれてきており、これらの分野で第一人者になるのも、高年収へとつながると思います。どういう生き方が、自分にとって一番充実したエンジニアライフを過ごせるのか?――それが一番大切だと思います。
最後に、ぼくが転職活動時に受けた印象深い質問を紹介します。それは、「これまでで一番の修羅場を教えてください」です。何に意識を向け、どのように課題設定をし、どう乗り越えてきたのかが全て分かる魔法の質問だと思いました。
そして大切なのは、「逃げなかった」という実績です。修羅場に遭遇すると逃げ出したくなりますが、逃げたところで得るものはありません。
成功している方は、数多くの修羅場を経験し、それを乗り越えたことで真の実力を身に付けたのです。修羅場から逃げるように転職をしたりフリーランスへ転身したりしても意味はありません。若い読者の皆さんが、いまのうちからしっかりと地に足を着け、スキルを磨き、30代になったときに飛躍していただければ、同じIT業界を生き抜く先輩としてこんなにうれしいことはありません。
勝ち逃げ先生
ベンチャー企業、派遣企業、大手製造業社内SEと渡り歩き、現在は外資系IT企業で働くITコンサルタント。体脂肪率8%の細マッチョでもある。
エンジニアライフ「ITエンジニアの高年収戦略」
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