リーダーが人工知能(AI)を活用して価値を生み出すには、「AIはどんな仕組みなのか」「どこに限界があるのか」を十分理解する必要がある。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
「AIは全てを自動化し、人々の仕事を奪う」「AIはSFの技術である」「ロボットが世界を支配する」――。人工知能(AI)がもてはやされる中、主流のメディアや取締役会、企業内で、さまざまな誤解がまかり通っている。「オールマイティーの」AIが世界を支配するのではないかと心配する人もいれば、AIは流行語にすぎないと断じる人もいる。真実はその中間のどこかにある。
「コロナ禍でも、大多数の組織はAI投資を維持したり、増加させたりしている。だが、こうしたプロジェクトの半数しか本番運用に入っていない」と、Gartnerのアナリストでシニアディレクターのサーニエ・アライビエ(Saniye Alaybeyi)氏は語る。
AIは定型業務を支援するだけではない。ITリーダーはAIの実用的なアプリケーションを提供し、コスト削減や業務改善などのビジネス効果を生み出すことで、AIの価値を創造する必要がある。
Gartnerは、AIについて広く流布している6つの誤解として、以下を挙げている。
AIはコロナ禍において、コスト最適化や事業継続の重要なツールとなっている。「企業がキャッシュフロー(資金繰り)や不安定な経済状況に苦労している場合、AIは不必要なぜいたく品だ」という誤解に反して、AIは売上高を生み出している。顧客とのやりとりの改善やデータの高速分析、潜在的な障害の早期警告、意思決定の自動化などを実現するからだ。
機械学習(ML)はAIの一部だ。MLは、考え抜かれたトレーニングとデータ収集戦略を必要とする。これに対し、AIはMLやルールベースのシステムから最適化手法、自然言語処理(NLP)にまで至る、幅広いコンピュータエンジニアリング手法を包括する用語だ。
完成したMLの成果物は、自ら学習できるという印象を与える。だが、現実はそうではない。人間の、経験豊富なデータサイエンティストが問題を設定し、データを準備し、適切なデータセットを決定し、トレーニングデータの潜在的なバイアス(偏り)をなくし、そして最も重要なこととして、ソフトウェアを継続的に更新し、次の学習サイクルに新しい知識とデータを統合できるようにしている。
AI技術は全て、人間の専門家によるデータやルール、その他の入力に基づいている。人は誰もが生来、何らかのバイアスを持っているため、AIもバイアスを持つことになる。例えば、ソーシャルメディアからの新しいデータなどを使うような、頻繁に再トレーニングされるシステムは、無用なバイアスや意図的な悪意の影響をより受けやすい。
現在のAI戦略が「AIは要らない」であっても、AI戦略は、調査や検討に基づいてしっかり立てる必要がある。
「今のところ、バイアスを完全に取り払う方法はない。だが、われわれは、バイアスを最小限に減らすために最善を尽くす必要がある」と、Gartnerのアナリストでバイスプレジデントのアレクサンダー・リンデン(Alexander Linden)氏は指摘する。
「多様なデータセットのような技術的なソリューションを使用するだけでなく、AIを扱うチーム内の多様性を確保し、チームメンバー間でお互いの作業をレビューし合うことが重要だ。このシンプルなプロセスにより、選択や確証のバイアスを大幅に減らせる」(リンデン氏)
AIの予測や分類、クラスタリングといった機能を活用することで、組織はより的確な判断ができる。組織は、こうした機能を提供するAIベースのソリューションを職場に導入し、定型業務を代替するためだけでなく、複雑な業務の担当者をサポートする目的でも利用している。
例えば、医療における画像処理AIの利用について見ると、AIベースの胸部X線アプリケーションは、放射線技師よりも迅速に疾病を検知できる。金融・保険業界では、ロボアドバイザーが資産管理や不正検知に利用されている。これらのAI機能によって、こうした業務への人間の関与が不要になるわけではない。だが、いずれは人間の役割は、これらの機能の監視と例外的なケースへの対応に限られるだろう。それを前提にして、業務プロファイルの定義や人員計画を調整し、現行スタッフに再トレーニングの選択肢を提供する必要がある。
全ての企業が、AIが自社の戦略に与える潜在的な影響を検討し、この技術を自社のビジネス問題にどう適用できるかを調査しなければならない。AIを活用しなければ、次の段階における自動化のさまざまな機会を逃すことになる。そうなれば、企業は競争上、不利な立場に陥る恐れがある。
「AIによって問題が直ちに解決しなくても、定期的に方針の見直しを検討すべきである。AIの力を利用して、人間の作業や意思決定、インタラクションを強化したり、機能のイノベーション機会を増やしたりする適切なユースケースが見つかるまで、そうする必要がある」(アライビエ氏)
今後4年間に、マネジャーが現在行っている仕事の69%は自動化される見通しだ。こうしたディスラプション(創造的破壊)が予想される環境では、組織は、AIをどのように戦略に統合するのが最適かを予断を持たずに検討し、今後に備える必要がある。
出典:6 AI Myths Debunked(Smarter with Gartner)
PR Manager Germany & Scandinavia at Gartner
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