ユーザー企業がこのシステムを導入する目的として契約書などに記述したのは、「顧客サービスの強化と営業活動支援資料の迅速な作成と分析、売掛請求の迅速な請求書の発行と請求および記帳の合理化、経営管理資料の迅速な作成と分析」などである。前述の2つの問題を見ると、「2」は直接的に、「1」も間接的に、請求の迅速化、合理化という目的に逆行する仕様である。
無論、これらはシステムのバグではない。
詳細な仕様が、現実の業務や目的とズレていたのである。つまり要件定義の不備に他ならない。通常であれば、このような不備は要件定義の主体であるユーザー企業の責である。しかし、前述した通り、このプロジェクトではベンダーが要件定義をサポートしている。
「システムの操作者というものは、画面を50回も切り替えないものです。条件検索を入れるなどして一発で必要コードを見つけられるようにしましょう」「銀行に自動振替を依頼するなら、これでは情報が足りません」といったアドバイスが専門家として必要だったということだろう。ユーザー企業の主張も、おおよそそうしたものだったと考えられる。
一方で、「この程度のことであれば、ベンダーのサポートなどなくともユーザー自身で気付くべきではないか」という論もあろう。私もベンダーの立場であれば、きっとそのように声高に叫んだと思う。
ただ、この辺りはユーザー企業のITスキルや使用しているパッケージソフトウェアの機能、そもそも請求システムとはどのようなものであるのかについての理解によっても異なるし、それに応じてベンダーが提案時に示した支援内容にもよる。一概にはいい切れない部分なので、裁判の争点になったのだろう。
いずれにせよ、目的に合致しない要件を定義してしまった責任は、作業の主体であるユーザー企業とITや請求システムについて高い専門的知識を持つはずのベンダーのどちらにあるのだろうか。
裁判所の判断を見てみよう。
こんなことも知らないんですか? ベンダーって勉強不足ですね
ユーザーの「無知」は罪なのか?
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