既存のデータセンターを刷新して長期的なメリットを得るには?Gartner Insights Pickup(218)

既存のデータセンターのインフラを再構築することにより、新しいビジネスサービスをサポートするとともに、運用コストの削減が可能になる。

» 2021年08月06日 05時00分 公開
[Meghan Rimol, Gartner]

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 通常、インフラストラクチャとオペレーション(I&O)の担当リーダーは、ビジネス価値を提供する新しいアイデアやテクノロジー、方法に力を入れる。だが、データセンターインフラストラクチャのようなレガシーなテクノロジーへの再投資がキャパシティーの拡大や運用コストの削減という形で実を結ぶことも多い。

 「多くのI&Oリーダーは、クラウドの移行やエッジ戦略、顧客に近い場所へのワークロードの配置に注力している。だが、中核となる一連のワークロードは今後もオンプレミスのままである可能性があることを覚えておく必要がある」と、Gartnerのアナリストでディスティングイッシュト バイスプレジデントの、デイヴィッド・カプッチオ(David Cappuccio)氏は語る。

 「従来型の古いデータセンターへの投資を継続することは、矛盾に思えるかもしれない。だが、そうすることが短期および長期の計画に大きな利益をもたらす場合がある」(カプッチオ氏)

 以下では、I&Oリーダーが既存のデータセンターを最大限に活用して、新しいビジネスサービスをサポートする3つの方法を紹介する。

デリバリーを強化する

 一般的に、キャパシティーが限界に近づいているデータセンターは、物理的なスペースや機器の増設に対応できる電力、適切な冷却機器の不足によって拡張が制限されている。その結果、企業は次世代データセンターの構築か、コロケーションやクラウド、ホスティングサービスを利用かを選択することになる。

 これらは有効な選択肢だが、どれを選んでも、従来型のオンプレミス運用から外部へワークロードを移行する必要がある。そのためにリスクが生じ、複雑さが増してしまう。既存データセンターの長期的なアップグレードを実現する選択肢は、自己完結型のラックソリューションを利用することだ。

 自己完結型ラックユニットは、中程度から高密度のコンピューティングに対応したラック群を格納した製造済みのエンクロージャを指す。これらは冷却メカニズムを備えている場合が多い。これらのソリューションの多くは、高密度コンピューティング環境で使われるように設計されているからだ。データセンターを刷新するこの選択肢は、データセンタースペースの使用効率を高めるシンプルで効果的なソリューションだ。

スペースを最大限に活用

 データセンターの最も面倒が少ない刷新手法は、フロアスペースの小さい区画を解放し、こうした自己完結型ユニットの1つを設置することだ。ベンダーによっては、自己完結型ラックユニットに既存のPDU(Power Distribution Unit:電源分配ユニット)から給電する必要がある。場合によっては、RDU(Refrigerant Distribution Unit:冷媒分配器)やCDU(Cooling Distribution Unit:冷却分配器)が必要になることもある。ラック当たりのスペースが20%程度増加する場合、追加のサポート機器を考慮することになる。

 ラック内冷却ソリューションは自己完結型であるため、ホットアイル/コールドアイル(暖気通路/冷気通路)の構成やコンテインメント(囲い込み)は必要ない。これにより、データセンターフロアに新しいラックを柔軟に配置できる。

 ユニットを設置したら、他のフロア区画から新規ラックへの段階的なワークロード移行を開始する。この移行は1対1で行われるわけではない。これらのラックユニットは高い冷却密度をサポートできるからだ。多くの場合、既存データセンターのラックキャパシティーの使用率は平均50〜60%にとどまる。ラックの密度が高くなると、フロアにホットスポットが発生するからだ。新しい自己完結型ラックに移行され、実行されるワークロード量は、既存ラックのワークロード量と比べて、ラック当たり40〜50%大きくなることがよくある。例えば、新しい自己完結型の4ラックユニットは、既存フロアの6〜8ラックのワークロードを移行できる。

 そのため、新しいエンクロージャに移行されるワークロードは、移行元が全て同じラックとはならないだろう。サーバエリアの従来の区画は、移行によってHDDの細分化のように、空きラックが数多く散在することになる。そこでプロジェクトの次のフェーズでは、この環境の“デフラグ”(細分化)を行う。つまり、キャパシティー使用率の低いラックからワークロードを移行し、フロアスペースにさらに空きを作る。

 具体的には、ワークロードを移行し、ラックが空いたユニットを物理的に再配置して、フロアスペースに次の空き区画を設け、次の自己完結型ラックユニットを設置する。この手順を繰り返せば、ラックユニットを設置するごとにラック当たりの合計コンピューティング密度は高くなる。その結果、データセンターにおける単位面積当たりのコンピューティング密度は大幅に向上し、ラックの設置面積は縮小する。

 既存サーバが経済的ライフサイクルのどの段階にあるかによっては、この移行フェーズはサーバの更新を検討する最適なタイミングかもしれない。より小さなフォームファクタのサーバを実装すれば、ラック密度が高くなり、必要な電力量と冷却量が全体的に減少する。

 カギとなるのは、データセンターに供給される電力だ。高密度ラックに適した電力供給が必要になる。その負担を補って余りある1つのメリットは、より多くのワークロードを高密度ラックに移行するにつれ、全体的な冷却負荷が実際に減少することだ。冷却用エアフローの大半はラック内で処理され、データセンタースペース全体で必要なエアフロー量が減少するからだ。

インフラストラクチャを刷新する

 新しいチップ設計では、プロセッサの発熱抑制が図られているものの、求められる処理能力の増大から機器の高密度化が進み、ひいては冷却要件が厳しくなっている。高密度サーバが増加するにつれ、I&Oリーダーはコンピュータルームに十分なレベルの冷却を提供する必要がある。

 量子コンピューティングやAI(人工知能)アプリケーションの活用を視野に、データセンターの刷新によって単位面積当たりのコンピューティング密度を大幅に高めようとしている企業は、液体冷却システムなどを有力な選択肢として検討すべきだ。Gartnerは、2025年までに、特殊な冷却および高密度技術を展開するデータセンターは、運用コストが20〜40%減少すると予想している。

 環境は千差万別であるため、I&OリーダーがPUE(Power Usage Efficiency:電力使用効率)やDCSE(Data Center Space Efficiency:データセンタースペース効率)などの詳細な指標を用いて、こうした投資によるメリットやコスト削減を見積もることが重要だ。

 データセンターの段階的な刷新により、I&Oリーダーは既存施設を大幅に拡張させながら、冷却要件を削減し、浮いた電力で追加のITワークロードに対応できる可能性がある。この取り組みにはリスクが伴い、稼働中のデータセンターにおける物理機器の移動には必ずリスクが付きまとう。だが、管理しやすい小さなステップを積み重ね、長期プロジェクトとして遂行すれば、多大なメリットが得られるだろう。

出典:Your Data Center is Old. Now What?(Smarter with Gartner)

筆者 Meghan Rimol

Senior Public Relations Specialist


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