「デジタルビジネステクノロジープラットフォーム」(DBTP)は、ソフトウェアエンジニアが初期段階のビジネス能力を開発し、時間とともにビジネスニーズや技術の変化に合わせて能力を追加できるアーキテクチャを提供する。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
医療保険会社が、加入者が保険証の発行や薬の再処方を受けられるアプリをリリースした場合、その目的は、デジタルビジネスの最適化によって既存ビジネスを改善することにある。だが、この会社がテレヘルス(遠隔医療)部門を立ち上げた場合は、完全にデジタル化された商品によるデジタルビジネストランスフォーメーションを目指しているといえる。
最終目標が最適化とトランスフォーメーションのいずれであるかにかかわらず、その実現のためには、企業は「デジタルビジネステクノロジープラットフォーム」(DBTP)を必要とする。
DBTPが提供するアーキテクチャは、デジタルビジネスにとって重要な、重複する5つのテクノロジーサブプラットフォームを組み合わせてオーケストレーションを実現する。この5つはそれぞれ社内ITシステム、カスタマーエンゲージメント、データとアナリティクス、モノのインターネット(IoT)、パートナーエコシステムを支える。
これらの異なるデジタル能力を接続し、統合するDBTPのアーキテクチャのおかげで、企業はステークホルダー(顧客、パートナー、従業員、モノなど)のアクティビティーを検知し、どのように対処するかを決定し、情報を活用して実行できる。
医療保険会社の例で言えば、アプリをリリースした場合は、受け取ったデータを計算し、加入者が服用している薬がなくなりそうなことを把握し(検知)、再処方する(決定、実行)。また、テレヘルス部門を立ち上げた場合は、パーソナルフィットネスデバイスを介して、加入者の健康に問題があることを検知し(検知)、遠隔診療を予約するよう提案する(決定、実行)。
それぞれのユースケースによって異なるアプリケーションやツールのセットが必要だが、どちらのセットを構成するアプリケーションやツールもDBTPと統合され、DBTPを介して実行する。
だが、DBTPを構築するにはどうすればよいのか? それには、デジタルビジネスに関する明確な目標を立てる必要がある。それはつまり、これまで行ってきたことの最適化か、トランスフォーメーションのいずれかだ。またデジタルビジネスリーダーは、明確な期待値を設定する必要もある。
DBTPの構築は長期的かつ段階的なプロジェクトであり、一貫性のある反復作業によって規模を拡大し、関連性を維持しながら改善していく必要がある。目標を立て、ビジョンを描いたら、デジタルビジネスリーダーは、次の10のステップを踏むとよい。
企業のデジタルビジネスの目標は、顧客に価値を提供するデジタルビジョンとその支援能力に翻訳される。どんな能力をどんな順序で開発し、どんなスケジュールで成果物を生み出していくかを決める必要がある。この順序を決めることは、DBTPの構築が複数の段階を踏む長期的な取り組みになることを周知するのに役立つ。
最初の大きな節目は、実用最小限の製品(MVP:Minimum Viable Product)を開発することだ。MVPはプロジェクトの進捗(しんちょく)を示し、DBTPの機能の検証に使用できる。
成功を測定するさまざまな指標を定義する。この指標には、企業のオペレーションパフォーマンスや財務パフォーマンスの改善を定量化する従来の重要業績評価指標(KPI)に加え、企業の目標達成の進捗状況を示すデジタルビジネス指標なども含まれる。
デジタルビジネスは、始まりと終わりがあるプロジェクトではなく、毎年資金を投入し、展開していく必要がある取り組みだ。「Gartner 2020 Building Digital Platforms Survey」によると、売上高が50億ドル以上の企業の80%が、デジタルビジネスソフトウェアおよび専門サービスプロバイダーに年間500万ドル以上を投じていることが分かった。売上高が10億〜50億ドルの企業では、年間200万ドル以上を投じているところが90%に上る。
グローバル企業の75%では、50人以上の担当者がデジタルビジネスプラットフォームに携わっている。こうした担当者の領域横断型チームは、ソフトウェアアーキテクト、クラウドエキスパート、データアナリスト、ビジネスアプリケーションスペシャリストなどで構成される。DBTPチームをIT部門内に置いている企業は45%にとどまる。必要な能力を開発できるようにスキルを高める意欲のある人材をチームに配置し、外部リソースで補完する。
ほぼ全ての企業がサービスプロバイダーを利用して、DBTPを構築する。一般的に、企業がプロバイダーの力を借りる目的は、技術の選択(70%)、目標の定義(66%)、長期的な開発とメンテナンス(64%)だ。
いずれは、サービスプロバイダーは役目を終える。そのとき、社内のチームが引き継ぐ準備を整えていなければならない。そのためには、必要なスキルをまず洗い出し、それらのスキルを持った人材がいつまでに何人必要なのかを見積もり、必要なスキルのある人材が、どの分野で足りないかを見極める。さらに、従業員のどのスキルを育成し、どのスキルの人材を雇うべきかを判断し、週単位の仕事のサイクルに継続的な学習とスキル開発を組み込む。
デジタルビジネス目標を首尾よく達成する企業は、多くの新しい技術や手法を利用している。例えば、クラウドネイティブアプリケーションアーキテクチャ、アジャイル/DevOpsアプリケーション開発手法、イベント駆動型アーキテクチャといった具合だ。ほとんどのDBTPはクラウド上に構築される。その目的の一つは、初期コストを最小限に抑え、限られた予算でDBTPを迅速に稼働させることにある。コストは、DBTPが提供する能力(と価値)の増大とともに上昇する。
DBTPを介してさまざまなアプリケーションシステムや技術機能を連携させるには、効果的で安全な統合が必要だ。多くの企業は、メッシュアプリケーションおよびサービスアーキテクチャ(MASA)によってこれを実現する。MASAは、ユーザー向けアプリケーションに接続し、トラフィックを管理する外部APIと、プラットフォーム内でアプリケーションシステムやマイクロサービスを相互に接続する内部APIを含んでいる。
アーキテクチャを用意したら、チームは能力開発を開始できる。機能セットやシナリオをさまざまなグループに割り当て、同時並行で作業を進めさせることも可能だ。完全なMVPの開発前でも、実際の条件下で迅速に開発、テストできる機能を優先する。
アーキテクチャの価値を証明したら、チームは、自社のデジタルビジネス目標の達成に不可欠なプラットフォーム能力を開発できる。市場の変化に対応するために、目標と関連する能力を定期的に再検討し、再定義する。また、関連する技術の進化に伴い、元のアーキテクチャを部分的に見直す必要も出てくる。
出典:How to Build a Digital Business Technology Platform(Smarter with Gartner)
Contents Writer, Gartner associate
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