「クラウドセンターオブエクセレンス」(CCOE)を立ち上げようと考えている組織のために、そのメリットと課題、ベストプラクティスを解説する。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
組織のクラウド戦略は千差万別だが、クラウドコンピューティング全体はデジタルビジネストランスフォーメーション時代の中で、市場のディスラプター(創造的破壊者)からITに求められる基本機能へと進化している。こうした状況を背景に組織でクラウドの大規模導入が進むとともに、「クラウドセンターオブエクセレンス」(CCOE)が必要になる可能性がある。そのメリットと課題を知っておこう。
Gartnerのアナリストでディスティングイッシュト バイスプレジデントのリディア・レオン(Lydia Leong)氏は、最近発表した調査レポートで、CCOEがそれぞれの組織に適しているかどうかの重要な判断材料を提供するとともに、CCOEを設置し、活用するためのベストプラクティスを解説した。
以下では、このレポートの概要を紹介する。
CCOEは、組織におけるクラウドコンピューティングの導入をリードし、そのガバナンスを統括する、エンタープライズアーキテクチャ(EA)の中核組織だ。中央のIT部門はCCOEを通じて全社的なクラウド戦略を実行し、ビジネス部門が最適なソリューションを選択できるようにし、ポリシーとクラウド管理ツールによってガバナンスを確保し、自社のスキルを向上させてベストプラクティスの発見と定着を促進する。
CCOEは、全ての種類のクラウドサービスモデル――つまり、IaaS(Infrastructure-as-a-Service)やPaaS(Platform-as-a-Service)、SaaS(Software-as-a-Service)のガバナンスを担当し、これらのクラウドサービスの利用に関連する機能横断的な運用プロセスの重要な指針を提供する。
CCOEはEAの機能の一端を担うが、組織図ではEAチームに含まれるとは限らない。ほとんどのCCOEは中央のIT部門の一部だが、ビジネス部門が独自のCCOEを設置する場合もある。また、CCOEは「クラウドビジネスオフィス」や「クラウドイノベーションセンター」などと呼ばれることもある。
CCOEは、クラウド戦略カウンシルやクラウドアドバイザリーカウンシル(諮問委員会)とは異なることに注意することが重要だ。CCOEとは異なり、後者は正式な組織ではなく、クラウド戦略の草案を作成し、クラウド戦略を文書として随時更新しながら維持することに責任を負う委員会だ。継続的にCCOEに勧告をし、主にクラウド実装の「目的」の定義に取り組む。これに対しCCOEは、クラウド実装の「方法」について答えを出すために存在している。
一部の組織は、クラウドを導入する上で、クラウド管理の担当部署かバーチャルチームしか必要ないと考えている。だが、Gartnerが10年以上にわたって行ってきた顧客からのヒアリングによると、中堅・大規模の組織では、どんなクラウド戦略やクラウド構造を採用するかにかかわらず、CCOEの設置と活用がクラウド導入を成功させるベストプラクティスであることが明らかになってきた。CCOEの活動には3つの柱――ガバナンスと仲介、コミュニティーがある。
ベンダー中立で中核組織のCCOEは、クラウドガバナンスを確保し、ビジネスアジリティを維持する最良の方法だ。特に、IT部門がビジネス部門ごとに分散している組織において効果的だが、IT部門が中央組織として設置されている場合にも有効に機能する。アジリティに重点を置いてクラウドを導入する場合に最も重要だが、コスト効率を重視した導入にも役立つ。
CCOEは、3つの柱に沿って次のようなメリットを提供する。
もちろん、CCOEには潜在的な課題もある。その最たるものは、CCOEが無視される可能性があることだ。ほとんどの場合、CCOEが無視される根本原因は次の3つのいずれか、あるいはその組み合わせだ。そのため、これらのシナリオの回避策を講じる必要がある。
・1.CCOEが強制力を持っていない
必ず経営陣の支持を確保し、ビジネスリーダーからCCOEのポリシーに従うという確約を取り付ける。
・2.CCOEが非現実的な基準やガイドラインを設定する
組織が、CCOEの基準を順守できるほど(リソースやスキルの面で)成熟していないかもしれない。CCOEは成熟化のロードマップを策定し、組織が望ましい将来の状態に徐々に到達するよう支援しなければならない。
・3.CCOEが自らを適切に“マーケティング”していない
CCOEは、ビジネス部門にとって魅力的なメッセージを発信し、ビジネス関連のメリットにフォーカスして提案する必要がある。
EAリーダーまたはEAチームメンバーを組織のチーフクラウドアーキテクトとして選び、CCOEの立ち上げの旗振り役を務めてもらう。チーフクラウドアーキテクトは、先見の明がある協調型の技術的リーダーシップを備え、ビジネス理解に優れたチェンジリーダーでなければならない。
チーフクラウドアーキテクトは、クラウドコンピューティングの経験があると有利だが、任命後にクラウドトレーニングを受けるという選択肢もある。ただし、CCOEを設置するために、クラウド導入を遅らせてはならない。CCOEは組織内部で運営する必要があるが、一部の組織はCCOEの設置に関して、クラウド活用を支援する専門サービスのプロバイダーを利用することで恩恵を受けるかもしれない。
経営陣は、チーフクラウドアーキテクトに部門横断型のクラウドコンピューティング戦略、またはアドバイザリーカウンシルの議長を務めさせるか、これらに参加させなければならない。これらは、クラウド関連の運用や問題に直接関わる代表者が一堂に会する会議だ。チーフクラウドアーキテクトにとって、こうした会議に携わることがビジネス部門と良好な関係を築くことが重要である理由の1つだ。
CCOEは、クラウドコンピューティングのポリシーや基準を確立し、管理ではなくガバナンスにフォーカスして良いプラクティスを組織内から集めなければならない。クラウドの適切な利用を促すガイドラインを提供するだけではなく、クラウド関連リスクの増大を防ぐガードレールも実装する必要がある。
出典:Execute Your Cloud Strategy With a Cloud Center of Excellence(Smarter with Gartner)
Manager, Public Relations
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