品川でのホームレス経験が「エンジニアの原風景」になったGo AbekawaのGo Global!〜Tyler Shukert編(後)(1/3 ページ)

グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。今回はTyler Shukert(タイラー・シューカート)氏にお話を伺う。次々と新しいWebサービスを生み出し、順風満帆な同氏を待っていたのは品川での「明るく楽しい健康的なホームレス生活」だった。

» 2021年11月16日 05時00分 公開

 世界で活躍するエンジニアにお話を伺う「Go Global!」シリーズ。前回に引き続き、今回もHubSpot JapanのTyler Shukert(タイラー・シューカート)氏に登場していただく。タイラー氏が大切にする「エンジニアとしての価値観」とは何か。聞き手は、アップルやディズニーなどの外資系企業でマーケティングを担当し、グローバルでのビジネス展開に深い知見を持つ阿部川“Go”久広。

お金はなかったけれど、お金以外は全部あった

阿部川“Go”久広(以降、阿部川) Everyhubで本格的にお仕事をされるために上京されたということですが、お一人で上京したのですか?

タイラー氏 はい。ただ、勢いで上京したので家もお金もなくて、品川のシェアオフィスにいる時間が多かったですね。ざっくり言ってしまえばホームレスでした(笑)。シャワーを使うためにジムに通っていたので、どんどん筋肉がつきました(笑)。ジムは徒歩で20分ぐらいかかるので、真夏はシャワーを浴びてオフィスに帰ってくるころには汗だくになって、それはそれで楽しかったです。ミニマムな生活、僕は好きです。

阿部川 汗かいて、エクササイズして、ガーッとコード書いて、それはそれで若い時って楽しかったんじゃないですか。聞いていて楽しそうですもの。悲壮感がないですよね。

タイラー氏 はい、やりたいことだけを全力でやっていて、すごく楽しかったです。中学生のときのボストン滞在と同じくらい楽しい経験でした。品川エリアは、海辺のきれいなレストランがあったり、芝生の公園があったり。PCを持っていって、芝生でゴロゴロしながらコードを書くなんてこともやっていました。

画像 Tyler Shukert(タイラー・シューカート)氏

阿部川 むしろぜいたくですね。

タイラー氏 ぜいたくでした、あの時期は。お金はなかったけれど、お金以外は全部あった。朝起きて、近所のスーパーでリンゴを買って、海に浮かぶカモメを眺めながらリンゴをかじって、みたいなことを朝からやっていました。

阿部川 いいなあ。きっと人生においてもずっと思い出す場面があったでしょう。タイラーさんの「人生の核」になっているのではないですか。

タイラー氏 はい。自分の人格を表しているシーンではないかと思います。ホームレスであることを恥じてもいなかったし、それが楽しいと胸を張って言えました。人生の価値観みたいなものも、そのときにできた気がします。お金がなくてもあれだけ豊かな人生を送れるんだ、と。今でも、何かあると定期的に品川に行っています。思い出深いところです。

阿部川 Everyhubはその後どうなったのですか。

タイラー氏 スタートアップあるあるかもしれませんが、利益の配分でもめてしまってケンカ別れをしてしまいました。ドメインもないので、消滅したのでしょうね。

阿部川 残念ですね。ではまたフリーランスに戻ったのですか。

タイラー氏 いいえ、ブロックチェーンの会社で働くことになりました。Everyhubを辞めたときはシェアオフィスを出ていたので本格的(?)なホームレスだったのですが、ちょうどそのくらいのときに大学の同級生(現在の恋人)に3年ぶりに再会して意気投合し、彼女の家に住むことになりました。とはいえ仕事は必要だったので、Everyhubで働いていたときに参加したイベントで知り合った方に声を掛けた、という感じです。

 そこで初めて「会社で常駐する」という開発を経験しました。2019年の初めだったと思います。残念ながら会社の業績が悪くなって、仕事は半年くらいで終わってしまいました。ただそれまでは「会社に入ると自分のやりたいことができなくなる」と思っていたのですが、入ってみると意外と時間はあるし、何よりお金が定期的に入るし、会社に通うというのもそんなに悪いものではないなと思うようになりました。

編集中村 編集 中村

品川での話を聞いてある寓話(ぐうわ)を思い出しました。湖畔に住む漁師がいた。釣った魚を売って得られる、わずなか収入でのんびり暮らしていたが、ある日、都会で働くビジネスマンが訪ねてくる。「釣りだけでは収入はわずかだ。それより人を雇って漁をしたり、養殖をしたりすればもっと収入を得られる。会社経営すればもっと稼ぐことも可能だ。そうして億万長者になったら悠々自適な生活ができる」と語る。漁師はそれに対し、「悠々自適な生活なら今、もうしている」と返した、といった話です。ホームレスと聞くとあれこれ言いたくなる人もいるかもしれませんが、タイラーさんはこのとき、どんな報酬よりも価値のある経験をしていたのだと思います。「お金はなかったけど、お金以外は全部あった」という言葉がそれを裏付けています

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