噴火の被害を受けたトンガ、インターネットの障害はどの程度なのか大陸間を結ぶのは海底ケーブル

CDN大手のCloudflareは、海底火山の噴火に伴うトンガのインターネット障害状況をまとめた報告を公開した。トンガの事例は海底ケーブルの重要性を浮かび上がらせた。

» 2022年01月26日 16時30分 公開
[@IT]

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 CDN(コンテンツ配信ネットワーク)大手のCloudflareは2022年1月19日(米国時間)、海底火山の噴火に伴うトンガのインターネット障害状況をまとめた報告を公式ブログに掲載した。

 インターネットの利用動向をモニタリング、分析する同社の「Cloudflare Radar」サービスなどで得た情報に基づく。同社はCloudflare RadarをCDNなどのサービスに利用しており、インターネットでもデータを公開している。

 事の発端は、2022年1月15日17時10分ごろ(トンガ時間)、南太平洋の島国トンガの首都ヌクアロファの北約65キロに位置する海底火山フンガトンガ・フンガハアパイで、大規模な噴火が起きたことだ。それに伴う地震と津波により、トンガに通じる唯一の海底ケーブルが切断された。その結果、通信設備が機能しなくなり、同国内で国際電話やインターネットなどが不通になった。

 1月24日までのBBCやロイターの報道によると、トンガは噴火から5日間、外国と連絡がほぼ取れなくなった。1月20日には国外との通信が一部復旧したものの、トンガ政府は1月21日付の声明で、本島のトンガタプ島と他の島々の間で通信が困難な状態が続いていると説明した。インターネットを含む通信回線を完全に復旧させるには、4週間以上かかる可能性があるとみられている。

長引くインターネット障害

 噴火による影響は明らかだ。トンガではインターネットトラフィックが全くなくなっている。

トンガの大噴火前後のインターネットトラフィック(提供:Cloudflare

 Cloudflareは、ASN(Autonomous System Number)によるリクエスト数に注目し、「グラフのように、トンガの主要ISP(インターネットサービスプロバイダー)であるDigicelとKalianetは、1月15日16時(UTC:協定世界時の同3時)以降にトラフィックが減少し始め、18時30分(UTCの5時30分)には、どちらからもトラフィックはほぼなくなった」と指摘している。

トンガの主要ISPからのトラフィック(提供:Cloudflare

 障害発生前後のトンガのASNからのBGP(Border Gateway Protocol)更新を見ると、1月15日18時35分(UTCの5時35分)に明らかな急増が見られる。これらの更新メッセージは、トンガのASNがルーティングできなくなったことを示すBGPシグナリングだ。

障害発生前後のトンガのASNからのBGP更新(提供:Cloudflare

 Cloudflare Radarのデータでは、トンガの隣国である米国領サモアとフィジーのインターネットトラフィックに大きな中断は見られない。

 トンガは、フィジー諸島から800キロ以上離れたポリネシア中央部にあり、通信手段としてインターネットへの依存度が高い。インターネットインフラは、5年前に世界銀行のインフラ接続プログラムによって整備された。トンガではそれまで、衛星回線を使ったインターネットに依存しており、利用者はごく一部の国民に限られていた。

復旧への長い道のり

 Southern Cross Cable Networkは、トンガと外部を結ぶ827キロの海底光ファイバーケーブルが破損したことを確認した。同社は、トンガ諸島におけるインターネットアクセスとほぼ全ての通信を担うこの1本のケーブルを所有するTonga Cable Limited(TCL)を支援している企業だ。

 今回の噴火により、首都ヌクアロファから37キロの地点で国際ケーブルに障害が発生し、さらに首都から47キロの地点で国内ケーブルにも障害が発生した。

 TCLは、既に米国のケーブル会社SubComと協議し、SubComのケーブル修理船「Reliance」をパプアニューギニアからトンガに派遣する準備を開始したことを発表している。

 修理には少なくとも4週間を要する見通しだ。海底で切断された光ファイバーケーブルの修理は、設定ミスや停電などのインフラ被害に比べて複雑と考えられるからだ。

 TCLのサミエラ・フォヌア会長によると、2019年に発生した前回のケーブル切断では、修理に2週間近くかかった。今回の修理にかかる時間は、現場の状況に左右されるだろうと、同氏は述べた。国際、国内ケーブルとも、噴火現場からそれほど離れていないという。ZDNetの報道によると、2019年にトンガは衛星プロバイダーのKacificと衛星接続の15年契約を結んだが、Kacificはそれ以降、トンガ政府が契約を有効にするのを待っている。

世界の通信を支える海底ケーブル

 海底ケーブルの歴史は長い。最初に敷設された商用通信ケーブルは1850年代のもので、電信トラフィックを運んでいた。

 現代のインターネットトラフィックの多くも、国や大陸を結ぶ複雑な海底光ファイバーケーブルのネットワークに依存している。世界のインターネットの大部分が国や大陸をまたいで機能しているのは、海底ケーブルシステムが充実しているためだ。現在稼働している海底ケーブルは428本(36本が計画中)で、総延長は130万キロといわれている。これは地球を32周以上する長さであり、地球と月の距離の3倍以上に達する。

 海を渡るデータトラフィックの約99%がこれらの海底ケーブルで運ばれていると推計されている。衛星インターネットの利用はいまだ限られており、例えばSpaceXが抱えるユーザーは約14万5000人だ。

 海底ケーブルは信頼性が高い。ケーブルが断線した場合に複数の経路が利用できる場合は特にそうだ。だが、トンガは例外だ。トンガ唯一の国際海底ケーブルは隣国フィジーに接続しており、フィジーは、米国西海岸とオーストラリア東海岸を結ぶサザンクロスケーブルに接続されている。

オーストラリアとフィジーを結ぶ海底ケーブルと、それに続くトンガなどの群島への接続を示す海底ケーブルマップ トンガは図の中央右に位置する。図の左下はオーストラリア(提供:TeleGeography

 海底ケーブルの総伝送容量は膨大だ。例えば、欧州と南米を結ぶ海底光ケーブル「EllaLink」は、100Tbpsの容量を持つ。世界中で海底ケーブルの容量が年々増加しており、世界のつながりが増している。例えばGoogleは最近、350Tbpsの容量を持つ新しいケーブルを完成させた。

 だが、大洋を横断する海底ケーブルシステムの建設には、数億ドルの費用がかかる。最新のシステムの1つであるポルトガルとエジプトを結ぶ海底ケーブルでは(総延長8700キロ)の予算は3億2600万ユーロだ。

 なお、2022年に入って発生した重大なインターネット障害には、トンガの海底火山噴火に伴うもの以外にも、次のようなものがある。

アフリカ西部のガンビアでケーブルシステムの問題によりインターネットが停止
中央アジアのカザフスタンで暴動が発生した影響でインターネットが停止
アフリカ西部の内陸国ブルキナファソでクーデターが発生した影響でモバイルインターネットが停止

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