ワシントン大学の研究チームはWebページ内のデータ可視化に役立つソフトウェアを開発した。Webページにコードを1行追加するだけで、スクリーンリーダーのユーザーが、オンラインでインタラクティブに操作できるようになる。
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ワシントン大学は2022年6月1日(米国時間)、Webページ内のデータ可視化に役立つソフトウェアを開発した。コンピュータ画面の内容を合成音声に変換したり、点字ディスプレイに出力したりするソフトウェア(スクリーンリーダー)のユーザー向けだ。1行のコードを追加するだけで、インタラクティブにデータを可視化できるようにするJavaScriptプラグイン「VoxLens」だ。
VoxLensは現在、可視化ライブラリの「D3」「Google Charts」「ChartJS」、単一系列の2Dデータ、「Google Chrome」をサポートしている。VoxLensユーザーはグラフが表す情報の高レベルな要約を得たり、グラフを音声に変換して聞いたり、音声コマンドを使用して、平均値や最小値など、データについて質問したりできる。
スクリーンリーダーのユーザーは米国だけでも数百万人に上り、全盲や弱視の人以外にも、学習障害者や運動過敏症患者に役立つという。
スクリーンリーダーのユーザーは、インタラクティブな可視化ツールにアクセスできないことが多い。これが現状だ。例えば新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について調べようとすると、インタラクティブな可視化ツールを用いたWebページが多数見つかる。
VoxLensに関する論文の筆頭著者で、ワシントン大学ポール・G・アレン・コンピュータサイエンス&エンジニアリング学部の博士課程に在籍するアサー・シャリフ氏は、次のように説明している。「VoxLensにより、スクリーンリーダーのユーザーはグラフを見て、全体的な傾向や最大値など、興味のある情報を引き出せるようになる。われわれのプロジェクトの目標は、スクリーンリーダーのユーザーが、希望に応じた量の情報を抽出できるプラットフォームを提供することだ」
研究者によると、従来のスクリーンリーダーが画面上のテキストについての情報をユーザーに提供できるのは、それが「1次元情報」だからだ。
共同研究者で、ワシントン大学情報学部教授のジェイコブ・O・ウォブロック氏は、次のように述べている。「文には必ず始まりと終わりがある。だが、可視化などによってデータ表現が2次元空間に移ると、明確な始まりと終わりがなくなる。スクリーンリーダーのための明確なエントリーポイントとデータの順序がなくなってしまう」
研究チームはプロジェクトを始める際、弱視または全盲の5人のスクリーンリーダーユーザーと協力し、目指すツールにどんな機能が求められるかを調べた。
その結果を踏まえ、可視化デザイナーがコードを1行追加するだけで、VoxLensを実装できるようにした。「人々が一貫性のない情報に悩まされないように、われわれはVoxLensライブラリを公開した。これにより、全ての可視化ツールで同様の要約を聞くことができるようになった。Webデザイナーがコードを1行追加すれば、後はわれわれが処理する」(シャリフ氏)
その後、全盲または弱視のスクリーンリーダーのユーザー22人が参加し、VoxLensを評価した。参加者はVoxLensの使い方を学んだ後、9つのタスクを処理した。これらのタスクはいずれも、データの可視化に関する質問に答えるというものだった。
このようなツールを利用しなかった以前の研究での参加者と比較して、VoxLensユーザーのタスク処理(質問への回答)の正確さは122%向上し、タスク処理の所要時間は36%減少した。
研究チームが6人の参加者にインタビューしたところ、VoxLensについて全体的に前向きな反応が得られたという。ある参加者は、過去12年にわたってデータ可視化ツールにアクセスしたかったが、今回ほど簡単にできたことはないと語っている。
研究チームはD3、chart.js、Google Sheets以外にも、人気のある可視化プラットフォームにVoxLensを対応させようと取り組んでいる。
今回のプロジェクトは、2022年5月3日にニューオーリンズで開催のカンファレンス「CHI 2022」で発表された。
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