Cloud Operator Days Tokyo 2022のセッション「IaCやCIに理解のある上司になる(なってもらう)には」にてRed Hatの中島倫明氏は、運用自動化に理解のない上長に“運用自動化の重要さ”を理解してもらうコツについて紹介した。
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企業のビジネスを支える上で「素早く効率的なサービス開発」が重要なのは言うまでもない。CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)の導入など効率化、自動化に向けた取り組みを進める企業は多い。
だが、中には運用担当者と上長の意見が合わず、取り組みを進められない企業もある。Cloud Operator Days Tokyo 2022のセッション「IaCやCIに理解のある上司になる(なってもらう)には」では、こうした“理解のない上長”に運用自動化の重要性を理解してもらうためのコツを紹介した。
Red Hatの中島倫明氏(senior solution architect)は、運用担当者と上長の間で発生しがちな「効率化や自動化に対するすれ違い」について次のように語る。
「どちらも『現状を改善したい』という思いを持っているはずなのに、運用担当者が提案すると上長がストップをかけてしまうというケースがある。運用担当者はIaC(Infrastructure as Code)やCI(Continuous Integration)などを新しい技術を使いたいと考えているのに対し、上長は『コストがかかりそう』『今安定して動いているのにやる必要あるのか』『コスト削減効果が低そう』などと考えてしまい、すれ違いが発生する」
こうしたすれ違いの根本原因として中島氏は「互いの前提条件が異なること」を挙げる。
「立場が異なるため、運用担当者と上長の目線がずれてしまっている。同じプロジェクトやシステムを担当している運用担当者同士であっても、問題と思う箇所や『効率化、自動化をする範囲』など個人によって捉え方は異なる」
例えば直近で障害が発生し、その解決と解析にすごく手間がかかったという出来事があれば「障害からの復旧や原因追求に時間がかかることが自分たちの問題だ」と捉えるだろう。障害対応が重要なのは間違いないが、それが最優先で解決すべき課題かどうかは別の話だ。こうした異なる課題感の中で「業務の効率化、自動化」という大きな目標を達成するのは難しい。
「効率化や自動化を着実に進めるためには、まずは関係する人たちの前提条件を合わせることが重要だ」と中島氏は提案する。前提条件を合わせた後であれば、解決すべき課題が明確になり、皆が同じ課題に注目できるからだ。ただ、その取り組みを進めるに当たって「インフラの変化」を理解する必要があると中島氏は言う。
「インフラがシンプルで小規模だったころは、運用担当者の業務はサーバを監視したり設定を見直ししたりする実作業と、関係者との作業調整や作業の前準備といった作業が半々だった。だが、その割合は変化している。インフラの規模は大きくなり、構成する一つ一つの要素も複雑になっている。システムが稼働しているサーバは増え、サーバの中も仮想化技術、コンテナなどで細分化されている。インフラに関わる人数は増え、その結果として関係者間での確認や調整に忙殺される運用担当者が増えている」
こういった変化があるにもかかわらず、効率化というと「実作業時間の効率化」を考えがちだと中島氏は指摘する。
「インフラの世界ではスクリプトを書いて自動化するのは当たり前のことだ。だが実作業の割合が多いならまだしも、実作業時間割合が減っている現状では、スクリプトを書いて『実作業を自動化』しても、全体作業時間の削減効果は小さい」
「自動化といえば実作業の自動化だ」と考えている上長から見れば、現場が自動化のための新しい技術を導入したいと言っても、それだけでは効果が出ない(少ない)という判断になる。「そうならないためには、運用担当者が対象としているもの(もしくはプロセス)を可視化することが重要だ」と中島氏は話す。全体像が把握できないままだと互いの認識が大きくずれたままになるからだ。
プロセスを可視化する手法の一つとして、中島氏は「VSM」(Value Stream Mapping)を勧める。
「付箋の一つ一つに実施するタスクを記載し、それをホワイトボードに貼り付けて整理する。タスク同士がどうつながり、全体がどう動くかを見る。それぞれのタスクにどれくらいのリードタイム、工数がかかり、手戻りがどのぐらいの頻度で起こるかなどを数値化し積み上げる。こうすることでさまざまなことが見えてくる」
中島氏は例として「仮想マシンを1台払い出す」という作業についてVSMによる分析を実施した。すると、作業者のアサインやレビュー、確認などの机上作業が中心で、実際に環境を触っている時間が極めて少ないことが分かった。
「この例では、仮想マシンを払い出す際に各部署と多くの調整を行っていた。運用担当者がいる部門内で作業者をアサインする、ネットワーク担当にIPアドレスの払い出しを依頼するなど前準備を勧める必要があるし、それが終わったら次は作業手順書やテスト項目を作成してレビューを実施しなければならない。仮想マシンを作成した後も監視チームに監視設定の依頼が必要だ」
こうした全体の行動が見えてくると、どの部分に時間がかかっているかが分かる。そうなれば関係者の間で持つ「前提条件」は一致するはずだと中島氏は指摘する。
「前提条件が合えば、解決すべき課題は明確になる。他部署との連携に時間がかかっているならば、セルフサービス化のアプローチが有効だ。複数チームで人と人がさまざまな調整で物事を決めていたものを、セルフサービス化して他部署との調整がなくても進む状態を作ればいい。作業手順書やテスト項目を作るのに時間がかかるならば、インフラをCI化する方法が有効だ。人が品質をチェックするのではなくシステムで品質を自動判定する仕組みにすれば全体の効率を上げられる」
課題が明確化すると、対応する手順もおのずと決まる。全体像さえ合意できていれば、どこから取り組むべきかとの最終的なゴールを共有しながら議論できると中島氏は訴える。
「自動化や効率化を進める際には、前提条件のすり合わせが欠かせない。前提条件を合わせれば課題がどの部分にあるかが明確になる。その際には過去の事例や印象で決めるのではなく、VSMのような手法を使ってプロセス全体を可視化し、そこで得られた数値を用い、問題を特定することが重要だ」
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