ERPは終わったのか、それとも未来があるのだろうか。そしてERPに未来があるとすれば、それはどんなものだろうか。
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ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」や、アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」などから、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
ERPは、まさに「憎まれっ子世にはばかる」だ。このエンタープライズアプリケーションのせいで「自社が状況にそぐわない硬直した枠にはめられている」と考える人もいれば「自社が時間の経過とともにERPのカスタマイズを重ねたところ、ERPが新しい変化に対応できなくなった」と感じている人もいる。
ERPは終わったのか、それとも未来があるのだろうか。
そしてERPに未来があるとすれば、それはどんなものだろうか。
ERPの終わりは、クラウドとSaaSへの移行によって加速度的に近づいている。
大規模でモノリシック(一枚岩的)なオンプレミスERPは、開発・運用コストが高い。だが、SaaSを利用すれば、新しいクラスのエンタープライズアプリケーションをより迅速かつ低リスクで導入し、生産的に活用できる。SaaSはサブスクリプションモデルを採用しているため、導入しやすく、必要な初期投資も少ない。人材管理(HCM)の分野では、SaaSへの移行がほぼ完了し、SaaSがデファクトスタンダードとなっている。
SalesforceやWorkdayのようなソフトウェアベンダーは、クラウド専業としてスタートした。OracleやSAPのような既存のオンプレミスERPベンダーは、クラウドファーストの製品戦略に転換し、こうした新興勢力の台頭に対抗した。その理由はシンプルだ。クラウドこそが、エンタープライズソフトウェア市場で成長し、存在感を維持できる領域だからだ。ベンダーにとっては、金融市場でクラウドベンダーとして認定されることが不可欠だ。OracleとSAPは、いずれも自社のERPの中核構想(それぞれ「Fusion」「S/4HANA」)の位置付けをクラウド向けに変更。時間をかけて多くのクラウド企業を買収し、さまざまなクラウド分野に参入した後、事業の主導権を握った。
ERPで終わったのは、大規模でモノリシックなスイート、つまり単一ベンダーの包括的なソリューションとして導入されるERPパッケージだ。こうしたスイートでは、財務、HCM、調達、サプライチェーン、製造、物流、受注管理、さらにはCRMまでサポートする大規模な実装が行われる。ERPの「E」が表す「Enterprise = Everything」が忠実に反映されている。
こうしたERPスイートの明らかな利点は、機能の統合的な使用と一貫性、ユビキタスなデータアクセスだ。これらは理論上、ビジネス機能内とビジネス機能間において、より良いビジネスプロセスオーケストレーションを実現する。一方、スイートアプローチの欠点としては、複雑な調整や異なる機能に対する要求と使用の間でのトレードオフ、時間がかかりコストがかさむ継続的な開発、イノベーション不足が挙げられる。
時間とともに、議論の中で欠点がクローズアップされるようになり、ほとんどの大企業は優先ベンダーに依存したこうしたERPスイート戦略(「Oracle任せ」や「SAP任せ」といわれることが多い)から脱却している。
レガシーERPソリューションの老朽化した技術と技術設計が問題を複雑にし、「ERPは終わった」という意見を補強する。
今、勢いがあるのは、ソフトウェア技術や新しいデジタルネイティブな取り組みによって進められている、デジタルビジネスと既存ビジネスのデジタルトランスフォーメーションだ。これらのビジネスでは、ビジネス機能とビジネスプロセスを、統合されたエンタープライズソフトウェアを用いて一貫して実行することが重要な成功要因となっている。企業とその顧客は、ビジネスのリアルタイム化に動き出している。
従来のERPだけでは、こうした野心的な構想は日の目を見なかった。
遅く、複雑で、高価な従来のERPは終わりを迎えつつある。ベンダーは、それらをライフサイクル後期のメンテナンスモードで扱うことで、利益を生み出している。クラウドへの投資を賄うためだ。
ERPは、エンタープライズリソースプランニングから、エンタープライズランタイムプラットフォームに変わる必要がある。そうなれば、同じ略字のまま復活を遂げられるが、そのためには生まれ変わる必要がある。
では、なぜERPはエンタープライズランタイムプラットフォームになるべきなのか。
エンタープライズレベルのデジタルビジネスプロセスは、効率、一貫した品質、スケーラビリティをもたらす。企業は、急速に進化するビジネスニーズに対応するため、業務を効率化し、ビジネスプロセスをソフトウェアで構成する必要がある。例えば、ある企業グループの財務部門が、年度末の3日後に帳簿を締められるのであれば、全ての会計プロセスを管理下に置き、ほぼ自動化しているということだ。そうなれば、CFO(最高財務責任者)とそのチームは、財務諸表の作成と検証ではなく、ビジネスの状態に時間と注意を振り向けられる。
スピードがインパクトを発揮するには、正確さが必要になる。デジタルビジネスでは、ERPが主要なビジネス機能をサポートしている企業の場合、高品質でリアルタイムにアクセス可能なデータが差別化要因になる。ERPのランタイムビジネス機能は、従来のプランニング機能を補強する。
現代のビジネスは、大企業で求められる複雑で煩雑な機能も完全に実現する必要がある。例えば、リアルタイムに相互接続され、相互運用可能なソフトウェアコンポーネントによって「シングルクリック購入」機能のサポートが必要な場合がある。小売業者の物流、医薬品の生産、複雑な製造などでも同様の機能が要求されることがある。こうした機能は、変化する世界で企業が成功する上で不可欠だ。ERPは、企業のビジネスを支える基幹プラットフォームであり、スケーラビリティ、レジリエンス(回復力)、安全性、適応性が最も高いビジネス機能を実現する中核として機能する。
次のシンプルな質問への答えが、企業におけるERPの現状を物語っている。その質問は「ERPが突然ダウンしたら、あなたの会社はどのくらいの間、通常通りビジネスを続けられますか?」というものだ。この質問には「ERPが24時間または48時間ダウンしたら(財務面で)どんな影響がありますか?」というバリエーションもある。
ある食品雑貨卸売業者は2番目の質問に対して、私にこう答えた。「ああ、それは簡単だ、われわれは48時間後に倒産しているだろう」
あなた会社のビジネスはどのくらい続くだろうか。
どの企業でも、ビジネスと技術のリーダーが「自社のエンタープライズアプリケーションが、ビジネス戦略の実行と実現をどのように可能にするか」を明確に説明する能力は重要な成功要因だ。新しいERPは、エンタープライズアプリケーションの代表的な製品だ。
明確なERP戦略がなければ、どんな企業も片腕で戦うようなものだ。
「ERPは、どのように生まれ変わるべきなのか」を検討する前に、次回は、まずビジネスケイパビリティについて見ていこう。ERPはビジネスケイパビリティを提供する必要があるからだ。
出典:ERP is Dead.(Gartner Blog Network)
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