ユーザー企業とベンダーの間で、要件の理解齟齬が発生することは珍しくない。論理的なコンピュータの動作を曖昧な人間の言葉で表記したり伝えたりすれば、双方が自分に都合よく解釈することもあるだろうし、このケースのように詳細が抜け落ちることもある。
問題は、そうした抜け落ちがあった際にユーザー企業の要望にベンダーが一切応えることなく、1日とはいえ連絡を絶ってしまったことだ。通常、要件の齟齬があっても再度の話し合いなどにより妥協点を見つけて開発を進めるものだが、このベンダーはそうした話し合いに一切応じようとしなかった。
これは想像だが、ベンダーはここまでの段階で既にユーザー企業への信頼を失い、「逃げ腰」になっていたのではあるまいか。この間のユーザー企業とベンダーのやりとりが判決文にも記されていたので、参考までに紹介する。会話はユーザー企業がベンダーの要件理解に疑問を持った後のものだ。
※会話は筆者が抜粋して要約
ユーザー企業 (メッセージのやりとりでは)意図していることをお伝えしにくく、おっしゃることもこちらで理解不足になっていたり、進行度がどの辺りなのかも把握しづらく、(中略) 大至急(打ち合わせの)調整をお願いできないでしょうか。
ベンダー なぜ大至急でしょうか? (面談を拒絶)画面のスクリーンショットに手書きで書いていただいたものをいただいたりしていますが、いかがですか?
ユーザー企業 文章でのやりとりだけでは、おっしゃっていることをこちらも十分に理解できていないかもしれず、また、こちらの意図することについてもXさん(ベンダー)にうまく伝えることができていないのかもしれないと感じるためです。(中略)操作、運用可能なものに仕上がるのかどうか発注者としてはとても不安です。
ベンダー 私としてはシステム要件のご連絡は閉じたものとして捉えているので、これから、さらに既知ではない、未知の資料のご提供や概念など口頭で伺っても、本計画での対応はできません。
ユーザー企業 (本件業務)に含まれているもの、内訳を教えていただけないでしょうか。
この後、ベンダーからの連絡が途絶えたという。
会話の抜粋だけを見ると、ベンダーの態度にはやはり問題があるようにも思える。その一方で、「契約」ということを考えれば、ベンダーは確かにこれを全うしたとも考えられる。ベンダーが最終的にサーバにアップしたプログラムは一通りの機能を具備していたようであるし、住所の入力方式についても、要件として指示されていないのであればベンダーの裁量の範囲でもある。その意味ではベンダーの態度はともかく、その言い分には一応の理屈はあるようにも思える。
では、裁判所はどのように判断したのだろうか。判決の続きを見てみよう。
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