IT用語の基礎の基礎を、初学者や非エンジニアにも分かりやすく解説する本連載、第8回は「マルチクラウド、ハイブリッドクラウド」です。ITエンジニアの学習、エンジニアと協業する業務部門の仲間や経営層への解説にご活用ください。
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マルチクラウドとは、複数のパブリッククラウドを併用して構成するシステム形態のことです。一方、ハイブリッドクラウドとはパブリッククラウドとオンプレミス、もしくはプライベートクラウドを併用して構成するシステム形態のことをいいます。
2021年時点で、総務省が調査した企業のうち7割程度がクラウドサービスを活用しています。
クラウドを利用している企業では、マルチクラウドまたはハイブリッドクラウドの構成を採用するケースが増加しており、ビジネスのニーズにマッチしたサービスの選択や障害時のリスク分散など、さまざまな目的から複数のプラットフォームを併用しています。
マルチクラウド、ハイブリッドクラウドの構成には以下のようなメリットとデメリットがあります。
3.1.1 各クラウドベンダーの強みを生かせる
ここ数年で、著名なパブリッククラウドサービスが持つ基本的な機能に大差はなくなってきています。しかし、A社は人工知能、B社は安定したIaaSなど、一部のサービスが他社と比較して優れていることがあります。マルチクラウド構成では、企業のビジネスに合わせて最適なクラウドベンダーやサービスを組み合わせることが可能です。
3.1.2 リスクを分散できる
複数のパブリッククラウドでシステムを構成することにより、A社のクラウドで障害が発生した場合にB社のクラウドでシステムを継続稼働するといったように、可用性の向上を図れます。また、1社のクラウドベンダーに依存した構成とならず、移行性が確保しやすくなり、近年課題とされているベンダーロックイン(※1)の対策を講じることができます。しかし、後述するシステムの複雑化によるリスクがあるため、安易なマルチクラウド化には注意が必要です。
3.2.1 スケーラビリティとセキュリティを両立できる
ハイブリッドクラウドではシステムが持つ機能や特性に応じて、柔軟にリソースを構成することが可能です。例えば、セキュリティ面を考慮して機密情報を保管するデータベースはオンプレミスで運用し、Webサーバやアプリケーションサーバのように負荷に応じて拡張したいサーバはクラウドで運用するなど、柔軟な構成が可能です。
3.2.2 コストダウンを図れる
ハイブリッドクラウドでは、システムの特性によってはコストダウンを図ることが可能です。常時高性能なマシンを確保する必要がなく、一時的にデータ解析などコンピューティングリソースを大量に使う場面だけパブリッククラウドを利用するなど、場面に応じて使い分けをすることで、コストを削減できる可能性があります。
マルチクラウド、ハイブリッドクラウドいずれの構成においても生じるデメリットは以下の通りです。
3.3.1 システムの管理、運用が複雑になる
システムで扱うプラットフォームが増える分、管理や運用が複雑化します。例えば、マルチクラウド構成の場合、クラウドサービス間で基本的なサービスの機能に大差はないものの、サービスの名称や挙動、課金体系などさまざまな差異があります。ハイブリッドクラウドにおいても、プライベートクラウド、パブリッククラウド、オンプレミスといった異なるプラットフォームを扱うこととなり、複雑な運用となることは避けて通れません。システムの運用担当者は、それらプラットフォームの違いを理解して運用する必要があり、単一のプラットフォームで運用するシステムと比較すると運用の難易度は高いといえます。
また、パブリッククラウドはアップデートが頻繁に発生します。パブリッククラウドを併用すると、アップデートの対応が増える点にも注意が必要です。
3.3.2 セキュリティ強度が低下する可能性がある
プラットフォームごとにセキュリティ強度やポリシーに差異が生じるため、システム全体として守るべき、統一されたセキュリティポリシーを設計する必要があります。また、ユーザーIDなどの機密情報もプラットフォームごとに持つこととなり、セキュリティリスクが増加する可能性があります。
2022年に公正取引委員会が全国の自治体に対してベンダーロックインに関する調査を行ったところ、多くの自治体が特定のベンダーに依存する状況があることが明らかになりました(※2)。近年、オンプレミスからクラウドへの移行が進んでいますが、今後は特定のクラウドベンダーに依存することによるロックイン状態に陥らないよう注意する必要があります。一方、マルチクラウドやハイブリッドクラウドの構成を採用することでシステムが複雑化し、システム運用が高コスト化するリスクにも目を向けなければなりません。
マルチクラウド、ハイブリッドクラウド構成を検討する際は、システムの移行性など確保した上で、それが本当に必要な構成なのか精査することが大切です。
BFT インフラエンジニア
主に金融系、公共系情報システムの設計、構築、運用、チームマネジメントを経験。
現在はこれまでのエンジニア経験を生かし、ITインフラ教育サービス「BFT道場」を運営。
「現場で使える技術」をテーマに、インフラエンジニアの育成に力を注いでいる。
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