ERP導入のメリットとデメリットを、分かりやすくかつ詳しく解説しますビジネスパーソンのためのIT用語基礎解説

IT用語の基礎の基礎を、初学者や非エンジニアにも分かりやすく解説する本連載、第7回は「ERP」です。ITエンジニアの自学用、エンジニアと協業する業務部門の仲間や経営層への解説用にご活用ください。

» 2023年04月05日 05時00分 公開

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1 ERPとは

 ERP(Enterprise Resources Planning)とは、企業が持つ経営資源「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」を統合管理し、有効活用する考え方やシステムのことをいいます。ERPが日本に登場した当初は、導入やカスタマイズにかかる費用が高額であることから大企業を中心に普及しましたが、近年は中小企業向けの製品やクラウド型ERPなど、幅広いターゲットに向けたERPが登場しています。

2 ERPの流行と背景

 世界初といわれるのERPはドイツのSAP社が1973年にリリースした「R/1」で、日本では1990年代から導入が進みました。日本でERPが普及した背景には、BPR(Business Process Re-engineering)ブームや会計ビッグバン(※1)があります。

 BPRとは、既存の業務プロセスを詳細に分析して課題を把握し、ゼロベースで全体的な解決策を導き出すことにより、業務処理の迅速化、正確性の向上を通じた利便性の向上を図る取り組みのことをいいます(※2)。BPRを実現する一手段としてERPが注目され、導入が加速しました。

※1 会計ビッグバンとは日本の会計制度を国際会計基準に近づけるためになされた大きな変更のこと

3 メリット/デメリット

 ERPの導入には、以下のようなメリットとデメリットがあります。

3.1 メリット

3.1.1 データの一元管理

 販売管理や会計処理、人事管理などの基幹システムが分断された状態では、基幹システム間のデータ連携が必要となりますが、ERPを導入することにより、企業内のデータを統合データベースで一元管理できます。これにより、部門間のデータ不整合などがなくなり、常に最新のデータが部門間で共有されます。例えば、販売部門から製造部門へ商材の在庫状況を問い合わせるなどの確認作業が不要になるなど、業務効率の向上が見込めます。また、統合データベースによりデータ収集などの時間が短縮されることで、データ分析など情報の利活用が容易になる点も大きなメリットです。

図1 ERP導入イメージ

3.1.2 生産性の向上

 ERPの導入においては、「システムに業務を合わせる」という考え方が大切です。ERPは、各ベンダーがベストプラクティスとするビジネスフローをパッケージとして提供しています。システムに業務を合わせることで、既存の業務を標準化/効率化し、企業全体の生産性を向上します。

 従来ERPを導入する際は、まず導入を検討しているERPと自社の既存業務に対して「Fit&Gap分析」を行い、ERPが持つ機能と既存業務に乖離(かいり)がある場合はカスタマイズをすることで機能を追加していました。

 しかし、カスタマイズ量が増えると開発費が高額になる上に、結果として業務効率化の妨げとなる可能性があります。近年はより迅速なシステム導入やERPシステムが持つ業務標準化のメリットを最大限に生かすため、「Fit to Standard」(※3)という導入手法が注目されています。

※3 Fit to Standardとは、ERP導入において原則アドオン開発を行わず、ERPが持つ標準機能を最大限活用する手法

図2 ERP導入方式イメージ

3.1.3 ガバナンスの強化

 基幹システムが統合されていない状態では、システムごとにデータベースやセキュリティポリシーが存在し、データの改ざんや不正利用などのさまざまなリスクをシステムごとに負うことになります。ERPで基幹システムを統合することにより、セキュリティポリシーの統一やデータの改ざんなどのチェックが比較的容易になるといったメリットがあります。

3.2 デメリット

3.2.1 導入・保守費用が高額

 ERPの導入は、サーバ構築やライセンス、カスタマイズなどさまざまな費用がかかります。ERPがブームとなったころは、特にカスタマイズによる開発量が増えたことが原因で高額な費用が発生するケースが多くありました。

 近年はERPの標準機能が増えたことや、業種ごとのテンプレートや中小企業向け製品などさまざまなターゲットに向けた製品が登場したことにより、自社の業務特性にマッチした製品を選定することでカスタマイズ費用を抑えられるようになってきています。また、クラウド型のERPが登場し、従来のオンプレミス型と比較すると初期費用を抑えられるようになりました。

 しかしクラウド型のERPは、導入のハードルが低い一方、利用ユーザーの増加などにより費用が膨らむ可能性があるため、見通しを立てて導入しないと結果として大きな費用となるリスクがあります。

3.2.2 導入の難易度が高い

 ERPの導入は企業にとって大きなプロジェクトとなります。基幹業務に影響があるため、社内の多くの業務に直接影響を及ぼします。多少なりとも既存の業務をシステムに合わせて変更することとなるため、一時的に生産性が低下することもあり、社内で反発が起きる可能性も十分あります。

 いかにして業務改善や生産性の向上につなげるかを根気強く発信し、理解を得ることが大切です。また、まずは人事管理からなど、影響範囲を絞りながら段階的に導入するのも有効な手段です。

3.2.3 製品の選定が難しい

 オンプレミス型やクラウド型の違いをはじめ、ERPは製品によって機能や仕様の選択肢が多岐にわたるため、製品選定の難易度が高いといえます。既存業務の改革はERP導入の大きな意義の一つですが、既存の業務からあまりに大きな変化があると、その分反発も大きくなります。

 そのため、自社の業務特性を考慮しつつ効果の高い製品を見極めなければなりません。誤った製品を選択した結果カスタマイズが重なると、開発費用が膨らむ上に製品アップデートのたびにカスタマイズ部分への追加開発が発生するリスクもあります。

4 ERP導入の成功に向けて

 ERPが急速に普及した時期と比較すると、現在はクラウド型ERPなどで導入費用が低下したことにより、中小企業でもERPに手を伸ばしやすくなっています。

 しかし、企業全体の業務に影響を及ぼすものである以上、導入成功の難易度は依然として高いといえます。導入失敗の過去事例を鑑みると、まずは本当にERPを導入することで自社の課題を解決できるのかどうかを見極めることが大切といえます。導入目的を明確にした上で、社内の利害関係者の認識を合わせて、相互に協力して導入を進める必要があります。

古閑俊廣

BFT インフラエンジニア

主に金融系、公共系情報システムの設計、構築、運用、チームマネジメントを経験。

現在はこれまでのエンジニア経験を生かし、ITインフラ教育サービス「BFT道場」を運営。

「現場で使える技術」をテーマに、インフラエンジニアの育成に力を注いでいる。

実践型ITインフラ研修 BFT道場


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